代償と信頼と苛立ち
ミッション中に何度ため息を吐き、何度大嫌いな2人にビクつかれたことか。
この場にいないあいつに怨念を飛ばす。どうせ今頃どこ吹く風で煙草片手に昼寝してるに違いない、くそっなんて腹立たしいんだ!
早く帰りたい早くこいつらから離れたい…全てはあいつの所為だ
許さない絶対に、絶対にだ!






何故私がここまで怒っているのかというと、皆様大体検討がくつと思いますがまたもジンさんの策略に引っ掛かったからでございます。ちょっとは間を置いてくれればいいのに何かしらあったら基本次の日行動を始めてくださるジンさんのせいでございます。


今回ジンさんの次の日行動を決行させることとなった前の日、私はアリサにあんたが居るならクレイドルの手伝いはしたくないと言い切ってその場から離れた。けれどその後すぐにジンさんが追いかけてきて私を宥めた。元はと言えばお前の所為だが…と言いたかったが彼は、とりあえず明日俺と一緒に任務行こうな!もうミッション入れてるから遅れるなよ!と畳み掛けるように言い逃げしていった。
それが罠だとも知らずに。
もちろん勝手に決められていたミッションなど知ったこっちゃないと思いたかったが、ジンさんのことだ。てかジンさんだ
どうせ行かなかったら何故約束(強制)破ったのか、ぐちぐち…
何故一緒に(強制)行こうと言ったのに来なかったのか、ぐちぐち…
ミッション(強制)入れてたのにどうしてだ、じめじめ…と、あーだこーだと喧しく騒ぎ鬱陶しいことこの上ない状況になりそうだ
仕方ない…行くしか道はない…
嫌でも行くという選択しか残されていなかった。


そして強制ミッションの場所に来てみればこれだ。先に行っているからね!キラッ、と効果音が付きそうなほど爽やかな顔で言い退けた野郎の姿は何処にもない。目の前に居るのはクレイドルの制服を身に着けたアリサとコウタがポカンと間抜けな顔で此方を見ながら立っていた。
2人を視界に入れた瞬間乗って来たヘリにもう一度乗り込んで極東支部に帰ろうと思い回れ右をしたらヘリが無情にも空の彼方(極東支部)へと去っている途中だった。
耳に付けている無線機からヘリの操縦者が「すみません、ジンさんからの命令なんです!貸しがあって逆らえないんです」と涙声で教えてくれた。
あのクソッタレ帰ったら覚えていろ頭に接着剤ぶっかけて毛根刺激してやる。むしり取ってやる。
そしてどこかの誰かも知らない操縦者よ。頼る相手を間違っているぞ。


「あ、あのマシロ?何故ここに居るのですか?」
「あーえーと…どうしたんだ?ジンは?」
「…」


成程、あいつはこの二人も騙したのか。あのペテン師爽やかな笑顔で息を吐くようにさらりと嘘をつきやがって。そんなあいつに騙されてのこのこやって来た私もだ!騙されんなよ!学べよ私!
眉間に皺が寄ってブツブツと怨念呟く私を見て大体の事を察した二人は気まずそうにミッションを開始しようと言ってきた。
ので、此方は此方で好きにするので放って置いてくれとだけ言って、2人の返事も聞かずに敵の前に躍り出た。
まぁ弱い敵ばかりだから私一人でも十分だし、そもそも私居なくても十分だし。
ドレッドパイクが突っ込んできたが軽く足で受け止め崖の下に放り投げた。
闇に染まっている崖下に落ちたドレッドパイクの姿は黒に塗りつぶされていて見えるどころか見つけることすら出来ない。
実はあまりここは好きではない。全てにおいて絶望し絶叫し力を得た場所だからだ
落ちてみないと落とされてみないと底で何が待ち受けているか分からない崖下。そこはアラガミ犇めく場所、アラガミにとっての絶好の食事場所。
下は地獄上も地獄。
遠くで二つの銃声が聞こえる。ここに彼が居て、敵があいつだったらあの日の再現が完成する
もちろんあの日と同じ目に遭うつもりなど毛頭ないが。




忌まわしい過去に耽っていたらどうやら二人ともアラガミ達を何体か倒していたらしい。そして何故か達成感に満ちた目で、でもどこか苦しくて辛そうな顔をして2人は私の元へと集まった。
私は集まって来た二人の姿を一切として視界に入れず黒に塗りつぶされている崖下を見つめるばかり。そして私の見ている先が崖下ということに気づいた二人は同時に息をのんだ。
何故息をのむ必要があるのか…私が、私自身が落ちて消えて苦しくて痛くて悲しかった場所を見つめて何がいけないのか。
死の恐怖も引き裂かれる体の痛みも本当の絶望すら知らないくせに…
何を分かった気でいるのかいらないが同情するような謝罪したげな視線を送らないでほしい。
鋭利で、突き抜ける痛みも切れ味もナイフよりも断然上だ。腹の痛みも血反吐を吐く量もむせ返るような血の匂いも間近に感じた死の恐怖も…あの時以上だ
ナイフでやられたときよりもアラガミ…スサノオ達は私に数十倍の痛みと恐怖を植え付けた。
私は無意識に"何度も"突き破られた腹から何かが溢れ出ない様に手で押さえていた。それと同時に今自分が心の中で思っていた言葉にはっとした。
私は今何を思っていた?あの時以上…ってなんだ?私がズタボロにされたのはあの時だ。確かにあの時以前も何度も何度も死にかけたがあの時に比べる、それ以上と呼べる時はなかったはずだ。
それにナイフでやられたときよりも…と私は心の中で言っていた。
ということは私はスサノオ達にやられる前にナイフで切り裂かれたことがある、ということになる。しかしナイフはおろか刃物で切り裂かれた記憶などない。
もしかしたらリアルな夢でも見たのかもしれない。ナイフで刺され死にかけるという見たくもない嫌な夢を




それは本当に夢なのかな?とクスクス笑う声が聞こえた気がした


「アリサ!?」
「!?」
「……」


大きなコウタの声で現実に引き戻された私に近づく気配を感じて、とっさに腕を広げればその腕の中に気を失ったアリサが倒れ込んできた。
どんなに見たくも話したくもない視界に入れたくないと思っているのに咄嗟とはいえ助けてしまった。
今すぐにでも支えている腕を離して彼女から距離を取りたい。と心の中で騒ぐが私の心に反したこの体は彼女を離すまいとしっかりと支えている。なんとも薄情な体である。


「アリサ!おい!」


非常事態にコウタが私に、いやアリサに近づいたんだけど思いっきり私の額と額がゴッチン!しそうな距離まで近づいてきたので思わず鳥肌が立った私は彼女を地面に降ろし横たわせその場から飛びのいた。その間約0.2秒


アリサはすぐに目が覚めた。一瞬気を失っていたという感じだ。
コウタは何故か涙目になっている。何故涙目なのかは知らん。もしかしたらアリサが倒れたことがショックだったのか悲しかったのか…興味ないからどうでもいいが


「これってまさか…過労?」
「…ごめん…めまいがしちゃった」
「アリサ…」


過労で倒れるまで働いているんですかね。いや彼女が過労で倒れようと構わないけど二次災害勘弁御免だ。
頼むから私の方に倒れ込んだりしないでくださいお願いします。


「大丈夫、ただの貧血ですよ。まだアラガミも残っていますし早いとこ終わらせましょう!」
「いや、でもさ!」


よろよろと立ちあがって震える手で神機を構える姿は実に滑稽だ。無理しているのがバレバレで…まるで弱くて何も出来なかった自分を見ているようで無性に腹が立った。
大股でアリサに近づき軽く肩を押せば抵抗も無く簡単に尻もちをついた彼女に冷たい視線を送る


「私が前にでる。あなたは離れて見ているか銃で援護射撃のどちらかです」
「なっ!?マシロ私はまだ戦えます!」
「はぁ…私の前には出てくれるな。はっきり言って迷惑です」
「ぁ…っ!?」
「そ、そうだよ!アリサは後衛な!しかも、超後方で後衛な!」


全てわかっている。私が放った言葉はアリサに言われた言葉を返した。アリサもそのことに気が付いている。過去の彼女と同じことをしていると、同じ態度をとっていることも分かっている。分かってやっている。
別に無理する彼女が見たくないからじゃない。バカバカしい正義感振りかざして体を酷使してるのにそれ以上働こうとする彼女を止める為じゃない。
今の彼女は昔の私の様でどこかイラつくのだ。悲劇のヒロインぶって体は悲鳴を上げているのに無理して誤魔化すことばかりのあの時の私みたいで腹が立つからだ。
だから彼女の為じゃない。煩わしいだけだ




2人の援護射撃も必要とせず、ものの数分で全て私一人で片付けた。
理由は単に早く帰って自分の部屋に篭りたくなったからである。理由はそれだけだそれ以外にはない。
だから後ろで何やら騒いでいる二人の声に反応すらしなかった
TOP
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -