嫉妬と憧れの過去
彼女が違う世界から来た人間だと言う噂を聞いた。
これから先起こる未来の事も、私達の過去も知っていると…
その噂を聞いて笑いが込み上げてきた
そんなバカくさい話、信じる人の方が少ないだろう
だけど私は信じた。信じる以外なかった
だって彼女は私に今まで一度も嘘をついていない。それに、アラガミには怖がるくせに物事にはやけに達観していた、焦らず落ち着いていたのだ。
エイジス計画の事も、シオちゃんの事も…何もかも彼女は驚かず冷静に対応していた。
彼女が本当のことを言っていると言うのはそれだけで十分だ
そう。本当なんだろう…
私の過去も知っていたんだ…


全てを知っていた彼女はあの時私に何を伝えようとしたんだろうか
彼女に聞かれた悔しさと恥ずかしさで、一人で焦っていた私はバカだ
恥ずかしいと思う前に彼女は知っていたんだから
私の弱い部分も何もかも彼女は知っていたんだ。
じゃあなんであの時何も言ってくれなかったの?私のせいでリンドウさんを取り残すことになるって知っていたんだったらどうして言ってくれなかったの?
…あぁ当たり前じゃない。
聞く耳を持たなかったのは誰?
蔑にしてたのは誰?
軽蔑してたのは誰?
手を振りほどいたのは…誰よ
全部、全部私の所為じゃない








狼少女と呼ばれ始めた彼女に何も言えないまま、とある任務へと行くことになった
任務内容はウロヴォロス2体の討伐で、メンバーはソーマ、コウタ、私と彼女だ。
2体同時に相手をしなくてはいけない任務は私達にはまだ重く過酷な任務であった。そんなこと私がすぐにでも分かるのだから彼女は随分前から分かっていたことだろう。
一体どういう策を練るのか…
彼女から発せられる策を聞いて思わず私は「バカなのか!ふざけないで!」と叫んでしまった
だってしょうがないじゃない。怒鳴らずにはいられなかったのだ
でもよくよく考えればそれが一番の妥当な策だったわけで


彼女は二手に分かれて二人で一体を相手しながらお互い近づかない様に距離を保ちつつ戦おうというものだった。
もしここにリンドウさんやサクヤさんがいれば頭の切れる二人なら頷いていたはずだ。だけど私達はあまりにも愚かでバカだった。
2人で一体を相手し着々と体力を削り取られるよりかは4人で一体に突進して一気に攻めた方がいい。その考えしか頭になかった
だから私達は彼女の意見に従わず攻撃し始めてしまった
今ならよくよく分かる。私達がどこまでもバカだったってことを。


4人で一体を攻撃していたら音に反応したもう一体が合流するという最悪な展開となってしまった。攻撃を避けながら早く早く狙いを定めている敵を倒さないと。
それだけを考えてしまっていたから、もう一体が消えたことも彼女が消えたことも気が付かなかった。
気が付いたのは、狙っていた敵を倒し終わった後だった。
周りを見ればもう一体もいない、彼女もいない。
ここで嫌な予感が頭を過った。彼女はまさか自分を囮にして一体を私達から引き離したのではないか…
その予感は見事に的中した。もう一体は私達がいた反対の場所にいて何かを探していた。
周りを見ても彼女の姿は何処にもない。
もしかして喰われたのか…いやそんなことないそんなことあるはずない!
私達は苦戦しつつもなんとかもう一体を倒し終えた。
倒し終えて何十分と待っても、呼んでも、探し回っても…彼女の姿は何処にもなかった。
コウタが崖の下に落ちたのかも、と言ったので崖を覗き込んでも下は黒に覆われていて何も見えなかった
見えないなら飛び降りればいい。そう思い飛び降りようとしたらソーマに止められてしまった。


「どうして止めるんですか!!下に居るかもしれないじゃないですか!深手を負ってるかもしれないんですよ!?早く助けに行かないとし、死んでしまうかも、しれないじゃない!」
「そんなことはわかっている!飛び降りた所で下になにがあるかわからないだろう!上に上がってこれなかったらどうする!!」


確かにそうだ
ソーマの言葉に少しだけ冷静になることが出来た
彼の言葉に従いヘリを呼び、コウタが上の者に現状を伝え救護班を引き攣れて戻ってくる。そして戻ってきたヘリにロープを垂らしていつでも引き揚げれるように、応急処置が出来るように救護班を待機させ私達が下に降りることになった。
救護班を乗せたヘリが到着するのが何時間も掛かったかのように長く感じられた。


ロープを崖の下に垂らし、降りてみるとそこには悲鳴を上げてしまうほどの地獄絵図が出来上がっていた。
上手く言葉では表せないほどのドロドロのグチャグチャとなった第一種接触禁忌のスサノオ達…だろう。それらが辺り一面に散らばっていた
殆どが原型を留めていなかったので曖昧でよくわからなかったが、剣の部分がスサノオのに似て居た為多分きっとそうだろう。
お互いが殺し合いをしたと言うものでもなさそうだった。
すっぱりと刃物で切られたような跡も残っていたのでもしかしたら彼女なのかもしれない。
でもオウガテイル一匹倒すこともままならない彼女がスサノオを倒せるだろうか
無理だろう。
彼女ではないのかもしれない、でも彼女であってほしい


崖下を色々と探索したがあるのは散らばったアラガミの死体だけだ
彼女の姿はどこにもなかった






彼女が消えた次の日、ソーマによって救出された彼女が極東に帰ってきた。
私は今までのギクシャクしていたお互いの関係を忘れて無事で良かったと、お帰りなさいと抱き着きたかった。しかしそれは出来なかった
それは彼女が血塗れだったからではない。彼女の目が彼女の雰囲気が誰も彼も寄せ付けようとしなかったからだ


異様な雰囲気
笑みのない無表情
死んだような目
血塗れの体


私の知っている彼女ではない。いつもの彼女ではない。
一体彼女は……誰だ?
私は近づくことも出来ず声もかけることが出来ず見知らぬ彼女に恐怖してしまった。






そう私は気が付けなかった。あの日から彼女が変わってしまったことも、昔の弱かった彼女が死んで強く恐ろしい彼女へと生まれ変わったことも。
そして最後の最後まで意地を張って強がりを見せて負けまいとしていた私に大きな罰が下った。




彼女は目の前で私達の前から消えた




あれから何か月何年も探しても彼女は見つかることはなかった。
絶望に陥っていた私にクレイドルという独立支援部隊の紹介が舞い降りてきた。その話を聞いていて私はすぐに二つ返事で答えた。
サテライト拠点の支援のこともそうだが、もう一つ。
クレイドルに入れば、各地を転々と移動する。今までよりも彼女を探し出せる範囲が増えると思ったからだ。


彼女は目の前で消えたが死んでいないと私は思う。確証なんてないけど死んではいない。
彼女が死ぬわけがない、そう思ってしまうのだ。
あの時から私は彼女に謝れないままでいる。ちっぽけなプライドに勝てなかった弱い私の心のせいで沢山彼女を傷つけてしまった。
許して貰おうなんて思っていない。ただ彼女に謝って謝り倒して叶うなら彼女の声を聞きたい笑顔をもう一度見たい。
きっとこの先何年かかろうとも探すことを止めるつもりはない。弱かった最低な私の殻を捨てて今度こそ彼女と向き合うために。
真っ直ぐに彼女の背中を追うために
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