虚実の過去
平和な世界で映像の中でキャラを動かし、映像の中でアラガミを見ていた少女にはとても厳しい現実でした
第一部隊の中で誰よりも最弱の自分
動かす側でなく動かなければいけない側へ
生でアラガミを見て対峙する時、恐怖で足が動くことが出来ませんでした
それも当然の結果です
少女はこの世界の人間ではないのですから
神機使い最弱とのレッテルを貼られても生きるために未来を変えるために少女は必死に頑張りました
一度任務へ出れば怪我をしなかったことなどありません。運が良ければ軽症で帰って来れました
戦場を見渡し、肉を斬り、血を浴びる
威嚇されれば恐怖で足がすくみ神機を落とし呼吸が荒くなる
最初の頃は血を見るたび、込み上げてくる吐瀉物を吐き出してしまっていました
回数を重ねるごとに吐き気は減りましたが、逆に傷は増えていきました
そんな生きるか死ぬかの瀬戸際を渡り歩く毎日の中で、少女を絶望へと落とされる日が来ました


厳しい任務が終わり極東支部のエントランスでそれは起こりました
いつもと変わらぬ日常の会話のやり取りをコウタとユウとしていた時です
ふと会話が家族の話になり、少女のことをあまり知らない2人は興味本位で聞いてきたのです


「アラガミが蔓延る荒れ地にポツンと座っていたってリンドウさんが言っていたけど、何処に住んでいたの?今まで何かしてたの?なんでそこに居たの?」


一つの疑問が出れば次々に生まれ出てくる疑問を片っ端からユウは少女に聞いてきました
少女は本当のことを言おうかどうか迷いました
言ったところでこれは彼らにとって非現実的な事だ。信じて貰えるはずはないと
でも少女は少しの希望が生まれていました
色んな小説を読んだときトリップの小説だと、トリップした人が真実を告げればだいたい納得して理解してくれる。
少女はそれに期待してしまいました
彼らもきっと信じてくれるだろう。大切な仲間の言う事を理解してくれるであろう
でもそれは夢物語の話の中だけです
それなのに少女は自分を夢物語の主人公である悲劇のヒロインの立場に置き換え正直に全てを話してしまいました。淡い期待を込めて




もし仮に、貴方の友人が唐突に実は私、異世界から来たの…
ここの世界はゲームの世界でね…
貴方たちはゲームのキャラクターで…
嘘なんてついていない私の言うこと信じてくれるでしょう?




そう語られた時、貴方はそれを信じることが出来ますか?
多分無理でしょう
彼らもそうだったのです
だってそれはあまりにも非現実的で受け入れがたいモノだからです


淡い期待は砕け散りました
エントランスに居たのはコウタとユウだけではありませんでした
他の者達も2人もそれを真に受けず信じようとはしませんでした
皆それは面白い冗談だな、と笑いました
それで少女の心が大きく気落ちしても絶望しても見て見ぬ振りをすればよかったのです
でも少女は真実を言ったのに信じて貰えなかった。冗談だと流されてしまった…
皆を助けるためにこの世界に喚ばれたのかもしれないのに…
もし違うというのなら、何故私はこの世界に来たのか…
これではここにいる私の存在自体を否定されているようだ
少女は悲観的に考えてしまい、自分は皆を救いに来たヒーローであるということを否定されたくなく夢物語のお話のように信じて欲しいが為に、必死にありとあらゆる少女の元居た世界の事を言い続けそして、これから起こることを事細かに言い放ちました


意味の分からないことを言い、これから起こる未来や教えてはいない自分の過去や自身についての詳しいことなど言われてしまえば少女を不気味に思うのは無理なかったかもしれません
全てが自分に都合のいい小説の話ではないのですから


そして彼らは少女を見る目を変えました
話してもいないことを知られ、自分の過去すらも事細かに知られて不気味に思う者や怒り出す者、一歩線を引いて此方を値踏みする者、からかって虐める者など様々でした


自分の周りから人が離れていきようやく少女は自分の失態に気づきました
そうだこれは夢物語ではない。私はヒーローでもない…こんな意味不明な事ばかりを言う気味の悪い私など誰が信じてくれるのか…


言わなければよかった
隠し通せばよかった
信じて欲しいと思わなければよかった
主人公気取りで調子に乗らなければよかった


こんな世界来なければよかった
では何故私はこの世界に来たのだろうか
何故この世界に私は存在しているのだろうか
何故私は必死に戦っているのだろうか




この日を境に、少女は狼少女と呼ばれるようになり
一人ぼっちになりました
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