サテライト拠点
「…い、おい!マシロ!大丈夫か?」
「っは」
「お前急に立ち止まってボーとし出したからすげぇ不安になっちゃっただろ。大丈夫か?」
「…えぇ大丈夫です」


いけないボーとしてしまったみたいだ
先程いきなり頭の中に響き渡るような声が聞こえてきた。あの声は何だったのだろうか…
男性の声だったが声の主に聞き覚えはない。声の主は私の事を知っているようだったが私は何も知らない。一体なんだったのか、何故あのような質問をしてきたのか…
言いようのない不安が込み上げてくる
疑問は積もるばかりだ。何故私の兄のことを知っていたのか、何故私が此処の世界の者ではないと知っているのか…どうして私は元の世界に帰れないのか
思い出せと声は言った。一体何を思い出せというのだろう
私は何も忘れていないし、嘘なんてついていない
声の主は私に何を伝えたいのだろうか…


またしてもボーとし始めた私にいよいよ周りの皆が気にし出してきた
いけない、今は声の事など忘れよう
今、私達ブラッドはサツキさんに連れられてとあるサテライト拠点に足を踏み入れている
ロミオは初めてサテライトを見たのだろう。キョロキョロと忙しなく頭を左右に動かしている
先導しているサツキさんがフライアの事について語っている
フライアのことやここのサテライトの事など私はぶっちゃけて言えばあまりどうでもいいのだが…まぁここのサテライト拠点は他の所に比べたらマシな方だろう
酷いところは拠点という拠点ではなくなってしまっているし、壁も崩れかけてどこからでも侵入可能な拠点で息を潜むように生きている人達だっている
ここは恵まれた所ではある。壁もしっかりと聳え立っているし物資が少ないとはいえ配給されているのだから


サツキさんの話によればここのサテライトにいる人たちに手を差し伸べたのは葦原さんのお父さんと極東支部の者達らしい
へぇ頑張ってるねーとだけ言っておこう
ふと隣を見るとジンさんが少し落ち着きなく見える。普段も落ち着きないが何と言えば良いのだろう…こう、そわそわしてるような感じ
何故そわそわしているのか意味は分からないがもしかしたらここに来たことがあるのかもしれない、友達がいるのかもしれない


またもサツキさんに案内された場所は簡単な作りでできた病室だ。沢山のベッドがあり、そのベッドに寝ているのは皆黒蛛病患者達だった
少し奥に行けば芦原さんが小さな女の子に本を読み聞かせている所だった
可哀想に、こんな小さな女の子が黒蛛病にかかってしまうなんて
治療法が早く見つかればいいと芦原さんは言うが…治療法などあるのだろうか
……私は赤い雨に当たっても発症などしなかった。私に抗体があるのだろうか?少しでも治療法に役に立つだろうか
こればかりは見てもらわないとどうしようもないか…
だけど、ラケル博士に見てもらうのは少々嫌な予感がしてならないから却下で
サカキ博士…うーん嫌だ。
違う誰か他の博士がいればいいのだが…まず居るかどうかすら怪しいなぁ


病室から出たら、ジンさんが落ち着かない様子で付いて来て欲しいと言うものだから皆少し様子のおかしい彼に疑問を抱きながらも付いて行くことにした


ジンさんに案内された場所は中心部から離れた壁側の方だった
一体彼は何を見て欲しいのか、何のために私達を連れてきたのか…
終始黙っていたロミオがここに何の用があるんだ?と尋ねようとしたとき何軒もある家の一軒から年老いた女性が出てきた。そして私達…特に私を見て目を落ちるのではないかと思われるくらい大きく見開いた後、優しげな笑顔で私の元まで駆け寄ってきた


「え?…あの…」
「あらあら今は汚れていないのね。あの時はどうもありがとう。私達を救ってくれてありがとうね可愛い神機使いさん」
「え」


女性は私に向かって頭を下げる
一体どう言う事だろうか。何が起きているのか理解出来ていない私はポカンとしてしまっている。もちろん皆もポカンとしている。していないのはジンさんだけだった


「あの…仰っている意味がよく…」
「ふふ、私は命を救ってくれた英雄さんの顔を忘れてしまうほど老いぼれちゃいませんよ?」
「英雄?」


そろそろ意味がよくわからなさすぎて頭がキャパオーバーしてしまいそうになったところをジンさんが私と女性の間に割り込んできた
彼を見た女性はまぁ、と口に手を当ててより優しく微笑んだ


「あらあらジン君?見ない間に大きくなったわね。男らしさも増しているわね」
「お久しぶりですミシェールおばさん」
「ジンどういうことだよ?」
「お二人は知り合いですか?」
「あぁここ、俺が住んでいたサテライト拠点なんだ」
「え!?そうなの!?」
「初耳だな」
「そして姫はここを救った英雄なんだ」
「え…」


ここが彼の故郷と言うことに驚いたが、さらに驚かされる言葉が彼の口から放たれた
私がここを救った英雄?
いや、ないない。だって私サテライト拠点救ったことなんか…


「私救ってなんかいません。ここも知らないし…」


私の言葉に少し悲しげな顔をした女性は待っていて、と言いとある一軒の家に向かって大きな声で名前を叫んでいる。
何回か名前を呼ばれた家から一人の中年の男性が出てきた。彼も私の存在を視界に入れると走って私の元に来た
彼は両目から大粒の涙を流しながら私の手を取り頭を下げてきた


「!?あ、あの」
「ワシは、いえワシの妻と子はあなたに救われました」


妻と子?悪いが私は救っていない。ジンさんも見てないで助けてくれ


「人違いでは…」
「妻と…妻と子は…突然襲撃してきたアラガミに逃げ切れず…バラバラに…されてしまいました」
「…!?」
「妻と子は3体の大きな蠍の様なアラガミに襲われました」


3体の大きな蠍の様なアラガミ…
思い出した…確かに私はサテライト拠点を襲っているボルグ・カムランと対峙したことがある…その時の光景も…思い出した
バラバラにされた…死体も…
私はここに来たことがあるんだ


「で、でも私は!」
「あなたは、妻と子の仇を討ってくれた。あなたは2人を助けてくれたんです。ありがとうございます」


彼はもう一度私に頭を下げ家へと帰って行った
女性もペコリとお辞儀をし、家へと入って行った


私が助けた…違う助けてなんかいない。救えなかったんだから


「姫が来てくれたおかげで被害が少なくて済んだんだ。姫が来なかったら皆死んでたよ」
「でも…」
「でもじゃない。姫、あんがとな。俺の故郷救ってくれて」
「救ったんじゃない…偶々なんです」
「偶々でも、救ってくれたことには変わんないよ」


どうして罵倒しない?
お前がもっと早く来ていればもっと被害は少なくて済んだとか、お前の所為で死んだ…とか
なんで言わないの?なんで…ありがとうなんて言うの?


ずっと黙っていたジュリウスが俯いている私の前に来てポンポンと頭を撫でてきた


「マシロ。言いたくないならだんまりで構わない。俺たちはもうお前の苦しむ顔を見たくないんだ。だからこそ俺たちは知りたいお前が頑なに明かそうとしない、極東での…お前の過去を知りたい。もう見て見ぬ振りはしたくないんだ。何故極東を忌み嫌うのか、何故放浪していたのか。教えてくれないか?」


あぁついに来たか…
いつかは尋ねられるだろう質問が来てしまった
むしろ今までよく聞かれなかったものだ。チャンスはいくらでもあったのに…
どうせ全てを明かすなら今がいいかもしれない。それほど仲良くなっていない今の状態なら過去を打ち明けて昔みたいに信用してもらえなくなって…出ていけばいいんだから


私は諦め目を閉じる。そして私は道化師を、狼少女の為の笑顔を顔に貼り付け目を開ける。
ジュリウスの目に映る私はなんとも醜く滑稽な顔をしていた
私は狼少女
無表情もこの笑顔も全て作り出した顔
さぁ嫌われよう。私は狼少女。私は道化師


「どうせ言っても伝わらないし、信じて貰えないのがオチですけどね?ふふっ、私狼少女なんです。嘘をつくのが得意なんですよ。知りたいのならぜーんぶ教えてあげます。でもこれから言うことのどれが本当でどれが嘘か…わからないですよ?全て嘘を伝えるかもしれないし本当のことを伝えるかもしれない?それでもいいですか?…そうですかそれでも聞きたいんですね。じゃあ教えてあげます。私の存在を…」


そして私はまた一人ぼっちに戻るんでしょう?






















−君は全てにおいて狼少女だね−







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