前を向いて
「マシロ!?何やってんだ!!」


一歩一歩と徐々にアラガミと距離を詰めていくマシロの考えていることが分からない
何危ないことをしているのだ!
あいつの元に行きたいが投げ飛ばされ地面に打ち付けられた体がズキズキと痛み思うように動かすことが出来ない
くそっ!あいつを止めないと!あのアラガミを倒さないと!
どれだけ焦っていても体が云う事を聞いてくれない
このアラガミは強すぎる。先程あいつがその程度の覚悟か等言ってくれたが、覚悟なんてできている。本気でやっているのだ
それでも勝つことが出来ない
自分の弱さに苛立つ。
これじゃあ…このままだと


ケイトさんの事を思い出す
自分の弱さのせいで今度はあいつを…
また、俺は…こうやって…大切な人を…失うだけなのか…


顔をあげてマシロを見れば彼女も俺を見ていて口を開き何かを言った
声は出ていなかった。だが口の動きで何を言っていたか理解した
『諦めるな』
あぁそうだな。お前の言う通りだよ
痛む体に活を入れて立ち上がり神機を構える


「ここで諦めるわけには…いかねえんだよぉっ!」
「あぁそうだなギル!…それで…いい」


ハルさんがアラガミに銃弾を浴びせた時、あいつが薄らと笑った気がした
一瞬の事でよく分からなかったがあいつは体勢を崩したアラガミを睨み走り出した


「そらっ」


あいつはアラガミの背に刺さっているケイトさんの神機に向かって飛び蹴りをした。蹴られて神機がズレたため、アラガミの背から血飛沫が上がりそれがあいつの顔に付着した


血の付いたあいつとケイトさんが重なる
殺してと頼んできた彼女が脳裏に浮かび上がる
今度は、今度こそ!
俺はアラガミに向かって走り出す


ケイトさん…ケイトさんが言っていたことが、少しだけ…分かった気がします
不器用で無愛想なこいつは…本人は気づいていないだろうが不器用すぎるほどぎこちなく、さり気無くいつも支えてくれる。助けてくれる
そして…そんなあいつを俺は、支えたい。今度は俺が助けたい
だから…


「やれ!ギル!」


初めてマシロが俺の事を呼び捨てで呼んだ
呼び捨てで呼ばれたことと期待を込められたあいつの叫びに嬉しさが込み上げてくる
少しだけ距離が縮まったかもしれないということが嬉しく…俺は無意識に薄く笑ってしまった
俺は強い。もう負けない!
体の内から込み上げてくる熱いものを外に吐き出すように力を振るう


「届けええええええええええ!」


大きな叫び声をあげて倒れたアラガミを見てふっと体の力が抜けてその場に崩れ落ちてしまった
崩れ落ちた俺の元にあいつが近づいてきた


「お疲れ様でした」
「……俺は…やったのか」
「えぇ。あなたがやりました」


そうか俺がやったのか
俺はちゃんと仇討ちが出来たのか…


「マシロ…ありがとう」
「や、やれば…出来る、じゃないですか」


彼女の頬に付いている血を指でふき取り、礼を言えば彼女は恥ずかしさを紛らわすように目をキョロキョロと色々な方向に動かす。可愛げのない言葉を添えて
そんな不器用な彼女を見て笑みが零れる
俺はこいつを守ることが出来たんだな
もう一度礼を言えば眉間に皺が寄る。素直に受け取ればいいのに
ケイトさん…俺はこいつを守れるように支えていけるように、強くなります








微笑ましい2人を遠くから見て体の力が抜けていく
ギル同様に崩れ落ちてしまった


ようやく…終わったのだ
お前の仇を取ることが出来たよケイト
俺も聖人君子じゃないからさ、今でもギルに対する割り切れない思いが、多分あるんだよ
だから、我ながららしくもない…仇討ちなんて考えて、色んな支部を渡り歩いてたんだけどさ…ギルに偉そうに言っていた割に…まあ、俺もお前を失ったことに耐えきれず…ずっと止まってたんだな
でもな、ケイト…不器用な彼女のお陰でさギルが前を向いて、歩き出したんだ
きっと彼女にも気づかれていたんだろうな…俺が前を向いていくことが出来ていないと
俺もいつまでも、くすぶってる場合じゃないよな…だから、そろそろ…ちゃんと歩き始めるよ
いいよな?ケイト…まぁ気長に待っててくれよな


立ち上がりもう一度2人に目を向ける
彼女には過去の事を持ち出して手伝ってもらったことに申し訳なさと後悔がある
酷い事をしてしまったよな
でも、最後まで手伝ってくれて感謝している
正直ギルが羨ましいよ。守りたい、支えたい者が出来たギルが
不器用な彼女に真っ直ぐに声を掛けられたギルが…
ギル自身分かっているのかどうか知らないが、長年一緒に居た俺はわかる
アイツは彼女に恋をしている
あーあ、ギルが羨ましいっつかムカつくな
俺も…真っ直ぐに声を掛けられたいもんだ


デレデレに笑顔を浮かべているギルと照れながら困惑している彼女の肩を掴んで強制的に甘めの空気を切り裂く。いやだってムカつくんだしょうがないしょうがない。


「よっしゃ。んじゃ帰るか…ありがとなマシロちゃん」
「……別に…」


あ…何この子可愛い
照れてそっぽを向く彼女に悪戯心が擽られる
いいな不器用ツンデレっ子
こりゃギルが恋に落ちちまうのも、ブラッドの副隊長さんがこの子を可愛がる理由もわかるもんだ


俺は、いや俺たちは彼女に救われた。手伝ってもらった
そのお陰で少しずつ前を向いて行こうという気持ちになれたのだ
ならば今度は俺が手伝う番だな。少しずつでいい、彼女に過去を克服して、さっきみたいに溜まっているモノを吐き出してもらって前を向いて行けれるように手伝おう。
そして彼女が心から笑えるようになればいいな
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