歓迎会
「あ…あの!お久しぶりッ…いや違うわ…えっと、こ、こんにちは!初めまして!」
「…」


何処か落ち着きがなくもじもじと赤面しながら話しかけてきた可愛い人を見て呆然とする
ん?お久しぶり?
何処かで会ったっけ?


「はぁやっぱり覚えていませんよね」
「えっ!覚えていませんか!?」
「…どちら様でしょう」


ガーンッという効果音が聞こえた。それはもう盛大に
明らかに肩を落とし落胆する少女と、苦笑いの女性を交互に見る、がやはり思い出せない


「人違いでは」
「!!いいえ!違いません!あなたです!!」
「…っ」
「落ち着いてユノ」
「あっ…ごめんなさい」
「またあなたに会えて嬉しいです」
「はぁ」
「あなたが覚えていないのも無理はないです。あなたにとって私達なんてそこらの通行人程度ですから」
「…」
「私は高峰サツキ。フリーのジャーナリストです。そしてこの子が」
「わ、私は葦原ユノと申します」
「そうですか」


高峰サツキさんと葦原ユノさん、ね
それで、私に何の用なのだろうか
歓迎会とやらに関係しているならきっぱりとお断りいれないと


「あらその顔…もしかしてユノのこと知らないんですか?」
「えっ」
「えぇ。初めてお会いしましたし、初めて聞きました」
「ですってユノ」
「っ…」
「大人気歌姫葦原ユノって聞いても?」
「初耳ですね」


歌姫なんだ葦原さん
顔も整ってるし声も可愛い、そして歌姫と呼ばれるほどの実力持ちとは…完璧じゃないですか!!
にしても大人気…もしかしたら放浪生活が長かったから世間一般の人達より疎いのかもしれない。現にアラガミのこととか極東のことフライアとか色々知らなかったし


「私達、あなたに命を救われているんです。日向マシロさん」
「…名前」
「調べましたあなたの事。まぁ調べたって言ってもあなたに関してのデーターがほとんどなかったから少ししか調べれなかったんですけどね」
「そうですか」
「あら?勝手に調べて最悪、とか言われると思ったのに」
「別にどうでもいいので」


調べても余り意味はないだろう
だって私はこの世界の人間ではないし、データー上だけではわからないことだって沢山ある
データーはほぼ真っ白状態だったのだろう
彼女の顔を見ればすぐにわかる


「あの…覚えていませんか半年前。襲われていた車の事…」
「車…?」








―sideユノ―


あれは半年前の出来事
フェンリル広報活動の為、サツキの車に乗って極東へと移動していた時の事だった
いきなり大きな衝撃音が聞こえたと思ったら車が横転したのだ
軽く意識を失ってしまっていたがサツキの呼びかけによりすぐに覚醒出来た
一体何が起きたのか…
軋む体を無理やり動かし車の中から外に出ると、アラガミが私達の周りを囲んでいた
衝撃音の正体は、このアラガミ達の攻撃だったのだ
アラガミを近くで見たのは初めてだったため恐怖により足が竦んで動けなかった


なに…このアラガミ…
女性の様な身体、獅子の顔と赤い翼を持っているアラガミ
そのアラガミ4体に囲まれてしまっている
逃げ道は…ない


死を覚悟したその時、後ろにいたアラガミの一匹が悲痛な叫びを上げた
何事かと思い、振り向けば倒れていくアラガミの姿…そして
神機を軽々と振り回しながら無表情で突っ立っている女性


私達が呆然としている中、目の前に居る女性は私達に目もくれずアラガミ達だけを見ている
一歩もそこから動かずに神機を銃に切り替えて3発撃った
アラガミは避ける暇もなくそこに倒れ伏す
圧倒的な力を見て、そして生きていることに喜び思わず体が震えてしまった
彼女の目を見る
彼女の目は鋭く尖っていてその瞳に引き込まれそうだった
なんて美しい人なのだろうか
私が男性であったなら一瞬で彼女の虜になってしまっていただろう


思い老けているとどこからか狐のようなアラガミが現れた
彼女はそのアラガミを呼び寄せ、そのアラガミと共に歩き出す


何故アラガミが?
何故アラガミは彼女を襲わないのか?
どうして仲良さそうにしているのか
いやそれよりも彼女は助けてくれたのだ。お礼を言わなくては


「あ、あの!」


はっ、と気づきお礼を言おうかと彼女を呼び止めようとしたがすでに彼女の姿はなかった
お礼を言いそびれてしまった
一体どこの神機使いの方なのだろうか


名前も声もわからない
わかるのは神機使いということ
そしてあの鮮やかで美しい水を表現したような髪と宝石のように光り輝く黄金の瞳だけである
一度見たら一生忘れられない、そんな雰囲気と印象を持つ人だ
私は世界各地をよく飛び回るからもしかしたらまた会えるかもしれない
会えたら必ずお礼を言おう
そして名前を聞いて
お友達になりたい


強く美しい神機使いさん。またあなたに会えますように








「―――、あの時あなたが現れていなかったら私達はアラガミのお腹の中にいたでしょう。私達が今ここに立てているのはあなたのお陰です。あの時言えなかったお礼を言わせてください…助けてくれてありがとう」
「私からもお礼を言わせてください。ありがとう」


半年前歌姫とそのマネージャーを助けていたのか私は
…すみません思い出せません
あれ?そんなことあったっけ?
半年前…だからまだブラッドには入ってなかったよね…
狐…は紫雨のことよね…
……んーー!!ごめんなさい!記憶にないです!お許しを!!!


「思い出せませんか」
「…はい」
「…そうで、すか…」


あっ!いや思い出した思い出したよ!多分!
だからそんな!泣きそうな顔しないでぇぇぇぇ!!!


「…でもいいです!」
「へ?」
「覚えてなくてもいいです!今を大切にするんですから!」
「は、はぁ」
「覚えていようがいなかろうが構いません!まだまだお礼言い足りないのでやらせてください!」


…やる?


「歓迎会の時、あなたの為に歌いたいのです!歌わせてください!」


歓迎会という言葉に体が強張る
歌姫と呼ばれている人の歌凄く気になるし聞かせて下さるのはほんと感激感謝万々歳だけど、ちょっと3文字のなんちゃら会とやらは行きたくないでござるな


「いえ、私…歓迎会でない「ダメです!」…oh」
「ユノはやると言ったらやる子ですからね。諦めてください」
「…oh」


しまった
私の言葉を遮った彼女の気迫に負けてohとか言っちゃったよ
素が出ちゃったよ
おまけにフォローすらしてくれない高峰さんに向かってもohとか言っちゃったよ
心の中で言うべきはずのohが口から出ちゃったよ


「さぁ行きましょう!」
「えっ、いやちょっ!まっ!」


え、一体どうやって君のすらりとした細い腕からそんな馬鹿力でるの?
え?痛いよ?
ちょっと待ってよ
離してくださいこの人痴漢デース!
お触りしてマース!
た、助けてぇぇぇぇぇ!!


私の叫びは心の中で虚しく響いた
そして皆が唖然とする中、高峰さんと顔をピンクにして微笑んでいる歌姫様(強制的に腕掴んでる)、そして顔を真っ青にして魂抜けてる私(強制的に腕掴まれてる)が歓迎会始まる直前に出席したのであった
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