極東支部第一部隊
来た
来てしまった
もう二度と来たくなかった場所
二度と思い出したくない場所
最高で最低で最悪な場所


目を閉じ深く息を吸い込み吐き出す
目を開け心を感情を消す


あの時の日向マシロはもういない
アラガミに喰われて死んでしまったから
今の私は、ブラッドの一員
過去の記憶などない
全てはフライアでブラッドの一員になった時からの記憶しかないのだ
だから目の前にいる驚き目を見開いている狐博士のことなど何も知らない
記憶にはない


「…日向…君…。まさか…生きて…」
「…」
「…ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティ以下隊員各位、到着しました」
「……」
「支部長大丈夫ですか」
「はっ。いや、すまない。ようこそ極東支部へ!私が此処の支部長、ペイラー・サカキだ」


へぇ博士から支部長になったと


「エミールが世話になったそうだね。出来れば直接会いたいと思っていたんだ」
「あれでしょ、マルドゥーク!撃退したのコイツですよ、コイツ!」


ロミオがジンさんを指さして支部長に教える
ジンさんは人様を指さすなーなど言っているが


「なるほど、君か!ありがとう、私からも礼を言うよ」
「いやー礼言われてもなー、俺いらないッスよそんなの。俺じゃなくて……礼よりも違うものはないんですか?」
「それは……懺悔の言葉…かい?」
「さぁ俺に言われても」


ピリピリとした空気が支部長室に漂う
興味ないからどうでもいいですけど


「さて、すぐにでも任務に入ってもらいたいところだけど…まずは改めて極東支部が置かれている状況について説明するよ?」


そそくさと話を切り替える支部長
そして私の方を見ながら話を進める


「いま極東支部は、いくつかの大きな問題に直面している。ひとつは“黒蛛病”……“赤い雨”を浴びることによって発症する未知の病だね。そしてもうひとつが…」
「“感応種”ですね」
「そう、いわゆる接触禁忌種と呼ばれる、新種のアラガミだ…君らブラッドは交戦経験があるんだよね?


説明し続ける間ずっと彼は私ばかりを見る
何か?
私についていますでしょうか?
いやでも最初見たときの顔は面白かったですよ"博士"
いつも飄々としてて何食わぬ顔で物事を見続ける
例え何があったとしても
顔の表情をあまり変えない彼のあの驚きに満ちた顔ははっきり言って傑作物だ
あなたが取り乱すことなんてあまりありませんでしたからね


「さて…赤い雨と感応種、この二つの問題の解決を君たちにも協力してほしい、というわけさ…どうだろう?」
「ええ承りました。最善を尽くしましょう」
「ありがとう、こちらも惜しみないサポートをしよう。ここを自分たちの家だと思って、くつろいでくれれば幸いだ…日向君。君の部屋は…」
「…私には"私の家があり私の部屋"があります。どうぞお気遣いなく」
「…そうかい……さて、話が長くなってしまったね」


何がここは自分たちの家だと思ってくつろいでくれ、だ
しかも私に話を振るな話しかけてくるな腹が立つ
ガチャっと扉が開く音が聞こえ皆其方に振り向くが私は振り向かなかった
気配でわかった
震える手を握り締め絶対に振り向きはしない
あの時…あの子と会った時みたいにもう倒れはしない
気絶もしない
取り乱したりなどしない
弱みなどもう見せない
もう泣かない、助けなど呼ばない
何も聞こえない
何も見えない
私は知らない
何も知らない
聞きたくもない声が部屋に響く


「博士ー!歓迎会のスケジュール、みんなに聞いてきましたよ……あれ、もしかして、ブラッドの人達?」
「ありがとう、コウタ君。そうだよ彼らがブラッドだ」


ほら当たった
彼だった


「極東支部第一部隊隊長、藤木コウタです。これから、よろしくね!……ぇ…?」


隊長…
そう彼は隊長になったのか
では違う奴らはどうなっているのか
にしても
人の後ろ姿を見て、ぇ…は無いんじゃないかしら
失礼極まりない


「……マシロ…な、なのか……」
「………」


彼の質問などに答える義務はないので何も言わない
私が何も答えないから更に問い詰めようとした彼を遮りジュリウス隊長が言葉を発する


「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。此方こそよろしくお願いします」
「あっ……あー、今は歓迎会の準備してるからさ。その間ゆっくり極東支部を見て回ると、イイよ!」


「おーんじゃ、俺はゆっくり休ませてもらいますかねー」
「お前はいっつも休んでるじゃんか!!」


周りが騒がしくなる
彼は一歩私に近づく


「あ…あ、のさマシロ…その、ひ、久しぶり。元気だった、か?」


これ以上ここにいても意味はないと判断し、私は彼の方を見る
私と目が合った彼はぎこちない笑顔を浮かべていた顔を固まらせ、口を引き攣らせ顔を青くする
何をそこまで顔を青くする必要があるのかは知らない
だって私の顔は無のままだ
それになんだって?久しぶり?元気だったか?
何を言っている
"お前"など知らない


「久しぶり?元気?さぁ何をおっしゃっているのやら。貴方には全く関係のないことですが一応ということで。お初にお目にかかります"藤木"隊長。私はブラッド隊員日向マシロです。では失礼します」


固まる彼の横を通り過ぎていく
目指す目的地は自室
支部長に挨拶はした
今日のやるべきことは終わった
歓迎会?何ソレ知りません私は出ません
静まり返った支部長室から出ていく
だから彼の泣きそうな悔しそうな顔など見えなかったし、見たくもなかった
本当にどうでもよかった
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