少年の過去
「邪魔だ…消えろ…」


少女は少年に目もくれず、残りの赤と金のアラガミをたったの一振りで倒しました
大型のアラガミ2体を一撃で倒すほどの力を見せつけられたのです
異常だ…
彼女の力は異常すぎる…
血に塗れた少女は鬼か修羅のようだと少年は思いました


辺りにもうアラガミがいないと判断した少女はようやく少年に向き直りました
少女の全身は血塗れです
その血が少女本人の血なのか、返り血なのかは少年はわかりませんでした
血のせいで濁りきった姿ですが少女の金色の目はとても強く輝いていました


少年はその力強い瞳に心を奪われていました
綺麗だ
少年はそう思いました
このような場で思うことではないのですが少年は異常である少女の瞳に目が離せなくなっていました
輝くその目は少女が生きている証
一瞬だったがアラガミを前にして戦う姿はとてもかっこよかった
少女をじっと見ていると心の音が速くなりました


少女が来てくれなかったら少年は死んでいました
少女の瞳を見ることなどできていませんでした
少女のおかげで少年は生きることが出来ました


少女は一度少年を見た後、近くに転がっている肉の塊を見ました
少女にはそれが少年の家族であると思ったのでしょう
少女は苦しそうに顔を歪め少年に頭を下げました


「ごめんなさい。守れなくてごめんなさい」


確かにこの親子は守れませんでした
でも少女の迅速な行動のおかげで助かっている人は多いでしょう
足が動かせないぐらいの怪我は負ったが自分も助かった…
少女が頭を下げる必要などありませんでした
むしろ少女の方が心配でした
少女の姿が痛々しく大丈夫なのかと思いました


少年が少女に声を掛けようとしたとき、頭上からヘリの音が聞こえてきました
そしてその瞬間、少女の顔は恐怖に慄き泣きかけていました
一体何故少女がそのような顔をするのか何も知らない少年はわかりませんでした


ヘリから人が降りてきました
まず医療班と呼ばれるであろう姿をした人たちが怪我をしている少年の元に駆け寄ってきました
その後にフードを被った褐色の肌の男と全身白の女の子が降りてきました
フードの男は目の前にいる少女の姿に少しほっとしたような顔をしましたがすぐにぎょっとしたような焦った顔をしました
それはそうでしょう
少女は全身血で濡れているのですから


「マシロー!」


白い女の子は笑顔で目の前にいる少女へと飛びつこうとしました
でも女の子は飛びつくことが出来ませんでした
フードの男が女の子の襟首を引っ掴んで飛びつくことを止めていました
フードの男は先程と打って変わって少女を睨みあげていました


簡単な治療をしてもらっている少年は事の成り行きを見守っていましたが
ただおかしいと思ったのです
少女を心配するのはわかります
何故少女を睨みあげなければいけないのか理解できませんでした


フードの男は一歩少女に近寄りました
少女はビクつきました
先程の強く輝いていた金の目はありませんでした
目は濁り、何も映していませんでした


「俺達との任務の途中で消えたお前が何故ここに居る。何故あの時居なくなった」
「わ、私は…」
「お前を探すためにいろんな奴らが動いた。どれだけ俺達や他の奴らに迷惑を掛ければ気が済むんだ」
「…」
「答えろマシロ!」
「っ!!」


怒鳴り散らす男に少女は震えるだけでした
少年は眉を顰めました
少女は俺を、いや俺達皆を救ってくれた存在だ
何故少女は怒られなければいけないのか…
男は答えろと何度も聞いています
でも少女は答えられませんでした
いや口は動いているのです。ただその口から声が出ていないだけなのです
少女は男に背を向けているため男は少女の顔も、その震える口も見えていませんでした
しかし少年は見えていました
少女の口の動きをしっかりと辿りました


怒らないで…私は…何もしていない…


少女の口の動きはそう言っていました
何も知らない男は言い募るだけでした
少年はとても気分が悪くなりました
何も知らない自分が介入しても意味がない
少年はそれが分かっていたため、何も出来ずじまいでした


少女は泣いていました
そして少年は気づきました
少女の全身についている血は返り血だけではありませんでした
よく見ると少女の腹部、腕から血が流れていました
少女は怪我を負っていたのです
仲間であるはずの男は何故気が付かないのか
何故少女に付着している血に関して何も言わないのか
何故大丈夫か、その一言もないのか
少年は言いようのない怒りが込み上げてきました


少女は逃げるようにヘリへと走っていきました
その後ろ姿がとても悲痛でした
心が締め付けられました
抱きしめたくなりました


少年は少女とは別のヘリに乗せられ、足の治療を極東支部で行うこととなりました






少女のおかげである居住区の被害は少なくて済みました
死亡者も数える程度、けが人も数人で済みました
ある居住区の者たちにとって少女は自分たちの命を救ってくれた恩人で救世主でした
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