少年の過去
少年の心にはある一つの言葉しかありません


絶望


この言葉が少年の心の中全てを占めていました








また退屈な一日を過ごすのかと憂鬱になっていたところ
何やら人々のざわめきが大きくなりました
そしてある防壁の方から大きな音、劈くような悲鳴、逃げる多数の足音


こんなことは生まれて此の方一度もありませんでした
そのため少年は何が起こっているのか理解できませんでした


わかることは今すぐ逃げろということ
足を動かして人という波に一緒に乗って逃げなければいけないということ
頭ではわかっていても足は棒のように動くことが出来ませんでした
ただ何かが近づいてくる音を聞くことしか出来ないでいるのです


少年の目の前に何かが落ちてきました
一瞬
少年は落ちてきた物体が何かわかりませんでした
見てはいけないと思っていてもその物体を凝視してしまいました
物体の正体が分かった瞬間、吐き気が襲ってきました
これは何かの見間違いだと…これは夢なのだと…
でも現実はとてもシビアで残酷でした


落ちてきた物体はヒトの塊です
正確に言えば、母と子の親子の身体がバラバラに分解されている肉の塊でした


その塊から目が逸らせなかったため、少年のすぐ近くにアラガミが来ていたことに気づくのが遅れてしまいました


1体でなく3体のアラガミがいました
赤・金・銀色の蠍の様な姿をしたアラガミでした
他のアラガミの姿が見えない為、この3体が壁を破壊したのだと瞬時に理解しました


ですが、初めて見たアラガミに少年はただただ恐怖で慄いていました
自分は一体何を求めてしまっていたのだろう
アラガミなど知りたくなかった
刺激など求めなければよかった
そんな思いを持っていなければこんなことにはならなかったのではないか…


動けない少年にターゲットとして決めた銀の蠍のアラガミは、自身の持つ鋭く尖った尾の針で少年の足を貫きました
ゴッドイーターでもない少年が避けきれるはずもなく、いとも簡単に針は少年の足を貫通しました


「あがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


少年はのた打ち回ります
その様子を見ていた3体のアラガミは嘲笑うような声で鳴きました
少年はこのアラガミ達に遊ばれているのです
きっと目の前の親子も遊ばれて殺されたのでしょう


次は自分だ
俺はここで、こんな所で死ぬのか…
少年は激痛に顔を歪め、死に対する恐怖のため泣いてしまいました
死にたくない
誰か助けてくれ、と


防壁が破壊されたことはきっとこの近くにあるフェンリル極東支部に伝わっているはずなので、ゴッドイーターの誰かが助けに来てくれるはず
でもその助けが来るまでに自分は生きていれる確率は低いはずだ


次は少年の頭を突き刺してやろうと針を動かし、狙いを定めるアラガミを見て


あぁ俺は死ぬのかと、少年は悟りました
こんなことを望んでいたのではない
俺は愚かだ
何故、刺激なんて求めたのだろう
何故、アラガミを見てみたいと思ったのだろう
自分に力があれば…
この危機的状況など簡単に打破出来たはずなのに…
戦うこと自身を守ることすら出来ない自分が悔しくなりました
そして同時に絶望感が溢れてきました


自分の頭に振り下ろされる針を見ながら少年は小さく「死にたくない」と口から言葉が漏れてしまいました
その瞬間何かが少年の目の前に来ました


そして少年を突き刺そうとしていた銀の蠍のアラガミは一瞬で真っ二つになり崩れ落ちました


少年は目の前で起こった出来事にまた理解することが出来ないでいました
一体何が…
真っ二つになったアラガミを見、その次に自分の目の前にいる何かを見ました
そして少年は絶句したのです




アラガミを殺し、自分を助けてくれたのはゴッドイーターである証の神機と腕輪をつけた全身血塗れの少女でした
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