大切なもの
「ブラッドはまだ現場か!」
「はい、神機兵βがまだ戦闘中です…あっ!神機兵β!背部に大きな損傷!フライア、判断願います!」
「背部だと!?回避制御の調整が甘かったか!いや、空間把握処理の問題か?くそおっ!なんでだ!」
「神機兵βを停止します。アラガミを撃退し、神機兵を護衛してください」
「待て!帰還の途中で赤い雲を見かけた!あれは、おそらく…」


そう護衛をしている場合ではないのだ
赤い雨に振れたら最後だ。その前に撤退をしてもらわなくてはいけない


「まさか…“赤乱雲”?」


ギルからの連絡でより焦りが生まれる
確認できるほど近くに来ているのなら危険だ
あいつらの命が危ない


「総員即時撤退だ、一刻を争うぞ」
「すでに赤い雨が降り始めました。ここからの移動は困難です」


振り始める前に撤退してもらいたかったが遅かった
焦るな
焦ってはいけない
俺は隊長だ
俺がしっかりしなければいけないんだ


「クッ…フラン、輸送部隊の状況は?」
「周囲にアラガミの反応が多数見られます…。輸送部隊単体での救出は出来ませんね…」
「ブラッド各員、防護服を着用、および携行しシエルの救援に急行してくれ!戦闘時に防護服が破損する可能性が高いなるべく交戦を避けるよう、心がけろ!シエルはその場で雨をしのぎつつ、救援を待て!」
「待て!勝手な命令は出すな!」


グレム局長が俺の言葉を遮り神機兵を優先し守れと指示を出す
ふざけるな
神機兵は赤い雨に当たっても平気だ
だがあいつらはそうはいかない
この男は、人の命をなんだと思っているんだ
あいつらは物ではない
俺の苛立ちも最高潮に達してしまいかけている


「人命軽視も甚だしい!あの雨の恐ろしさは、貴方も知っているはずだ!」
「隊長…隊長の命令には従えません」


シエルの言葉で俺の肝がどんどん冷えていくのが分かる
傍若無人のこの男の命令など聞く必要などない。それなのにシエルは通信機を切り遮断した


「ふん、なかなかよく躾けてあるじゃないか。結構、結構」


この男はどれだけ俺を苛立たせれば気が済むのか
殺意が湧きかけたが、ナナの通信により抑えることが出来た


「あのー、隊長…」
「どうした、ナナ!」
「副隊長がね…神機兵に乗って行っちゃった…」
「何?」
「な!何…だと!?」
「神機兵γ、神機兵βに向かって移動しています」


ジンの奴…
やる気があるのかないのか分からない奴だ
グレム局長が懲罰がどうのこうのと言っていたがどうでもいい
あいつらが無事ならいいんだ
ジンのおかげでシエルの危険率も少しは下がった。後は何もないことを祈るだけ…


「隊長…あの、その」
「ナナ?まだ何かあるのか」


ナナの少し泣きそうな声に酷く嫌な予感がした
その予感はすぐさま的中することとなった


「…マシロがね見当たらないの…」
「なん、だと…一緒に居なかったのか!」
「いつものように私達から遠く離れて行ってしまったから…」
「そんな…」


あいつはシエルのように神機兵の傍にいるわけでもない
ナナ達と離れているなら防護服も持っていないはずだ
なんでこんなことに…
あいつも赤い雨の危険性を知っているだろうからどこかで雨を凌いでいたらいいのだが
胸が締め付けられる
何故俺は今あいつの傍にいない
くそっあいつが、マシロが赤い雨に触れて死んでしまうのではないかと不安で仕方がない


マシロに無線で呼びかけても応答がない
マシロは基本一人以外での任務は通信機を切っている。本人曰く、無線で小言を言われるのが嫌だからそうだ
今回それが仇となった
頼む…無事でいてくれ!
今の俺には祈ることしかできない
また俺はあいつに何も出来ない。何もしてやれない
それがとても悔しかった




―sideシエル―


神機兵を盾代わりにして雨を凌いでいるが、一歩でも足を出したら雨に触れてしまう
雨に触れたら終わりだ
頭では冷静に対処しようとするが怖いものは怖い
このまま何事もなく雨が止めばいいが…
誰か…助けに来てくれるのだろうか…
そう思っていたらふと何かを感じた
これは仲間のものではない。アラガミだ
恐る恐る雨に当たらないように神機を構えるが敵の姿が見えない
一体どこに…


殺気を探っていたら上空から感じた
シユウだ
通常なら戦えるが今は赤い雨が降っている
少しでも動けば触れてしまう
一体どうしたらいいのだろうか
焦る私は必死に対抗策を考えるが何も出て来ない


此方に飛んでくるシユウに思わず目をつむる
あぁ私はここでやられてしまうのでしょうか…
そう思っていたが、シユウの攻撃はおろか痛みすら来なかった。来たのは
衝撃音とシユウの吹き飛ばされた音


「じ、神機兵…」


何故神機兵が此処に!?
それよりも無人のはずなのに何故…


「間一髪〜。お待たせシーちゃん」
「ふ、副隊長!?」


メンテナンスもなしに神機兵に乗るなんて危険すぎる!
なんて無茶をするのだろうか


「シーちゃん危ないから動くなよっと」


ジンさんはもう一体の停止している神機兵に近寄り、私が赤い雨に触れないように屋根替わりになってくれた


「なんて無茶を…」
「ははっ。このくらい大丈夫。よしこれで危険は去った」
「君の行動は…理解に苦しみます」
「俺は誰にも止められないよん」


安心したもの束の間、シユウは一体だけではなかった
またも飛びかかってくるシユウに、雨の当たらない部分が増えた私は神機を構える
その瞬間
爆撃音と共にシユウが視界から消えたのである
私がやったわけでもない
副隊長も私を守るのが精いっぱいで動けていない
なら誰が…?


「油断は死を招きます。お気をつけて」
「なっ、マシロ!?」
「姫!?」


何故ここにマシロが居るのか
そんなことよりも私達は驚愕した
なぜなら彼女は防護服を身に着けずに赤い雨の中此方に歩いてきているからだ
あの雨の危険性を知ってるはずなのに!


「何してるんですマシロ!この雨に触れてはいけないのに!」
「おい姫!黒蛛病にかかるぞ何やってんだ!!」
「…本来でしたらそうなんでしょうね」
「どういうことですか!?」
「私にこの雨は効かないんですよ。放浪している時からこの雨に当たり続けていても何の変化もなかった。私は感染しない」


今彼女はなんて言ったのだろうか
私達はぬれ続ける彼女を呆然と見つめる
どうして彼女は感染しないのか…
どうして彼女は平気でいることが出来るのか…


「おい、そりゃどういう意味だ…」
「さぁ、私自身もわかりません。ただ私は根本的に皆とは違う、一緒ではないということですね」
「マシロ、あなたは…」
「今の私には触れないでください。死にたくなければ」




あなたはいったい何者なのですか?
TOP
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -