代償と信頼と苛立ち
雪の様に淡く儚い白い肌。齧り付きたくなるような体の持ち主は虚ろな顔でどこか違う場所を見ている。
濡れそぼった赤く甘いぷくりと膨れた唇から荒い息を吐き続け、張り付けられていた糸が切れた人形のようにベッドの上に倒れ伏している。
投げ出された四肢、無造作に散らばっている艶のある鮮やかな水の色をした髪、何も身に纏っていない豊満な体は官能的で美しい。
甘い唇からは荒い息だけが吐き出されるが、微かに己の名を呟くときがある。名を呼ばれるだけで全身に痺れが走りまだ足りない食わせろと己の悪魔が囁く。いつもは無を貫いている彼女も快楽に溺れればただの女と化す。彼女に快楽を教えたのは己だ、彼女を女にしたのは己だ。
さて、今度はどうやって食べてやろうかと舌なめずりをすれば虚ろな目で何処かを見ていた彼女の目が己の方へと向けられる。まるで誘っているかのような目だ、いや誘っているのだろう。
まだまだ空腹状態で待てを知らない本能に忠実な獣は目の前に置かれている御馳走に涎を垂らし、頂きますと囁き大きな口を開けて齧り付いた。














「その獣は御馳走全てを平らげ満足したのでした。めでたしめでたしっていう幸せな夢を見てたんだ……うっぷ」
「そうですか。それは絶対、死んでも、確実に、正夢になることはありませんので」
「あの…本当にごめんなさい気持ち悪くて死にそうです助けてくださいまじで!!」
「良かったですね大きな御馳走を前に喜んでる獣が下にわんさかいて」
「俺御馳走じゃないです!まずくて食べられたもんじゃないです!」


そう今何が起こっているかというと…あ、ちょっと待ってて。まじで吐きそう…やばいやばい出る出ちゃいます!いけないものが出ちゃいそうです!!リバース!リバァァァァァス!!!




ごほん、えーと。このページの上記にとっても厭らしくて官能的なお話があったと思うんだけど…あ、嘘ですごめんなさい揺らさないで下さい切れちゃいます!すみませんでしたまたリバースしかけちゃいます!!
えーと、それは俺がついさっきまで見ていた夢なんだ。現実じゃなくて夢だったってのが悔しくて悲しいぐらいなんだけど涎が出そうなほど素敵な夢を見ていたんですよ。もちろん俺のふかふかベッドで、悲しいことに一人で、すやすや寝てたんですよ。
そしていい夢みたなーって目開けたら姫が冷たい目で何故か大きな木に吊るされて逆さになってる俺を見つめていたから今さっき見ていた夢を伝えたら揺らされました。姫によって!宙ぶらりんに!そして思いっきり揺らされちゃったんですよぉぉぉぉ!!
しかも下見れば雛鳥のように大きな口開けてグボロ達が餌(俺)を待っているんですよ。
そして俺は宙吊りによってリバースしかけるという、ね…グスン
姫がなんでこんなことしてるのかっていうのは薄々ってかもうほぼわかってるけど…うんこれは…結構きてます、ね
姫の背後に般若居ます、ね…


「ねぇ姫、これは一体何のプレイ?」
「貴方が食べられるというプレイ」
「……はっ!これが本当のSMプレイ!」
「うるさいですよドM」
「違う!俺は姫にだけドMなんだ。本当はドSだよ!姫が望むんだったら俺Sにもなるよ!グイグイドSになっちゃうよ!!」


あぁそんなドン引いた顔しないで写真撮りたいぐらい可愛いです本当に。下にいるグボロも開けていた口閉じて俺達のやり取りを聞いている。というか話してる内容わかってんのかな…いやそもそもお前らアラガミだろいつもみたいに無遠慮に攻撃してこいよ!何此方見てきょとんとした顔してんだよ!お前ら優しいな!!


「ちなみに、今日のミッションは貴方の下にいるグボロ達を撲滅することです」
「あれ、勝手にミッション入れられてる」
「可愛い仕返しです」
「やってることは可愛くないよ!?」


勝手にミッション入れてたことも無理やり連れて来られたことも、もちろん姫自身も全てが可愛いくて許してやりたいけど、如何せん木に吊るされてる状態だ。これは可愛らしくないし俺の命が危ない…けど許せちゃう俺はもう末期なのかもしれない。
……………………はっ!?もしかしたら姫はこういうことをして俺の気を引こうとしてるのか!?ツンツンしてるけどデレるタイミングが分からなくてどうしようもないから構ってちゃんになってるのか!?
だって吊るされてはいるし口では落として餌にするとか言ってるけど縄切ろうとしないし落とそうともしてない。何より俺と会話しながら銃形態に変えた自分の神機でグボロ達を狙い撃って撲滅してるし。
もしこの俺のハイパーポジティブ思考が当たっていて、姫が本当に構ってほしくてやってるのなら……何それめちゃくちゃ可愛いんですけど。
可愛すぎて食べちゃいた…いや待てよ、姫に食われるのもいいな。照れ臭そうな顔で姫が攻めで受けの俺の上に乗っかって命令していく…うん、それがいい


「姫、俺をもっと虐めて!」
「やっぱりドMですね」
「攻めで来て!!」
「うるさい卑猥物」
「卑猥物!?」


姫の口から卑猥物というまさかの言葉が出てくるとは思わなかったし、一切の遠慮のない言葉に苦笑いを浮かべてしまう。
おまけにパスッという音がしたと思ったら自分の体が無造作に散らばったグボロの死体のある地面へと落とされた。


「うおっと!あっぶねぇー」
「それじゃ」
「えっ姫!?俺は!?」
「2機来てます。一緒のヘリに乗りたくないのでお先に失礼します…あぁ、ここら辺のアラガミは全て倒してますのでご安心を。では」
「あ、ちょ………行っちゃったし」


頭から落とされたがすぐさま体を反転させて着地した。蛙のように潰れずに綺麗に着地出来た俺超かっこいい。
でも姫は俺を置いて帰ろうとするし、一緒のヘリに乗りたくないなんて…いつデレてくれるんですかね。俺に、いつ、デレて、くれるんですかね!?
それにいつの間にここら一体を清掃してヘリを呼んでいたのだろうか。相変わらずのお人好しさと用意周到さに呆れそうになる。


姫が乗った一つのヘリが遠ざかりもう一つのヘリが此方に近づく音が遠くの方から聞こえる。その音を聞きながら用意されたヘリが俺の元に来るまで煙草を吸いながら待つことにした。
何時もなら外に出るときは神機を肌見離さず持っているが今は俺の手元に相棒は居ない。昔はそれが当たり前だったのに今はなかったら違和感在りまくりで落ち着くことが出来やしない。
もし姫が本気で俺を餌さとして使おうと思っていたんなら寝ている間に済ませるし、何より周りを清掃する必要もないしヘリを2機呼ぶ必要もない。
何時も何時もやられてるから軽く脅してやり返しただけだ。可愛い仕返しだ、もちろんそんなことで俺は諦めないが。


「可愛いなぁ。可愛すぎてもっとしたくなる」


不気味に歪んだ自分の顔は誰にも見せれたものではないだろう。
吸い終わった煙草を地面に落とした瞬間、血の臭いに誘われて飛んで来たザイゴードが餌と感知した俺に向かって大きな口を開けて突っ込んでくる。


「あぁ汚ねぇ汚ねぇ」


突っ込んできたザイゴードの目をぶん殴って地面に叩きつける。そして開いた大きな口を掴み、ザイゴードの体を真っ二つに引き千切った。
それだけでは飽き足らず、何度も何度も動かなくなった肉塊を蹴り続ける。








ザイゴードの汚ない悲鳴と汚ない血で彼の顔や体が汚れる。それでもまだ無心で蹴り続ける彼は端から見たら末恐ろしく化け物のように映っていることだろう。
どうして、神機なしでアラガミを殺せることが出来るのかという問いをかける者はここに誰一人いない。


「さて次はどうしようかなー。皆お人よし過ぎて危なっかしくて見てられねぇ…少しは疑うとか警戒するとかしろよな。魔の手はすぐそばに来たりってな♪」


空が赤く曇り次第に赤い雨を降らす。赤い雨が降っているのに彼は微動だにしない。それどころか、頬に飛び散ったアラガミの血と赤い雨が混じった赤黒い水をペロリと嘗めとった。


「マシロ、お前のためじゃないよ。今までやってきたこともこれからやることも全部全ーー部、俺のためだ。だから色んなお前を俺に見せてよ」


赤い雨にあたり続けているのに彼から黒蛛病の発症は見られない。赤い雨の危険性を知っているはずなのに、まるで普通の雨であるかのようにあたり続けている


「俺達は終わって新たな始まりを得た異端者だ…だから沢山沢山足掻いて抗って戦って見せろ」


「物語はまだまだ始まったばかりだよ。俺の最高に愛しくて可愛い―――」








赤に濡れそぼった道化の少年は歪に笑う。その目に愛しさと憎悪と哀しみを湛えて
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