センプリッチェ
(素朴な、単純な)

「笑って」

春と夏の真ん中の昼下がり、することもない休日を少しでも有意義にしようと、気の赴くままコンビニに出掛けた帰り道、予告もなく現れた風紀委員長にいきなり命令文を突きつけられた。え、あ、へ?と情けない声しか出せない綱吉に、更に一歩距離を詰め、また言うのであった。

「笑って」

事態なぞ当然飲み込めるはずもなく、けれど目の前の表情があまりも真剣で、この状況を説明してくれなどと頼める雰囲気ではない。風に揺られ、片手にぶらさげていたコンビニの袋がかさりと鳴いた。悩み抜いて買ったアイスは、悲しきかな、もう融解を始めているであろう。あぁ、俺の休日。自分は異星人と会話をしているのだろうか。この得体の知れない空気はなんだ。とりあえず、笑えばいいのだろうか、思考もオーバーヒートしてきたところで、観念したように笑ってみた。上手く笑えてる筈はないが、笑ってみた。

「違う、そうじゃない」
「ひは、ひ、あっ」

反応する暇なんてもらえず、両手で頬をひっぱられた。ぐいぐい、と強制的に口角をあげられる。まったくもって日本語として認識不可能な言葉を漏らすしかない。果たして、一体、この光景はどんな風に見えるのだろうか。男二人、向かい合って皮膚を持ち上げられてる今の異様な光景は。雲雀は暫く無理矢理作られた不自然な顔を見つめていたが、これまた突拍子もなくその指が離された。満足な様子はまだ、ない。思わず頬に手を添えた綱吉に、不満気に首を傾げる。

メーデーメーデー、宇宙人さんとコミュニケーションがとれません。

「どうしたらいいの」
「えー…と、それは俺が聞きたい、です」

何をどう解釈したのか、困ったね、と同意を求められた。眉間に皺を寄せ、考え込む彼にかけてあげる言葉が見つからない。

「折角、君に会いにきたのに」
「…このために、ですか?」
「そう」

「君の笑う顔、好きだから」

詰まるところ、言ってしまえばこれは、雲雀なりの、求愛。ぱちくり、と琥珀色の目を大きく一度瞬きさせた。綱吉の処理速度は追いつくわけもなく、ただひたすら、頭の中を先の言葉がぐるぐるぐるぐるまわるだけであった。そうして、それをまわしているうち、ある瞬間、理解してしまった。雲雀の言わんとしていることを。古典的な表現を借りれば、ぼんっと音が聞こえたんではないかと思えるくらい、綱吉の顔はみるみる朱に染まっていく。初めから、このくらいストレートに教えてくれたらよかったのに。いや、あまり直球も困るけれど、でも、貴方がそばにいてくれたら、自然と笑顔になってしまうのになぁ、なんて、いつの間にかはにかんでいた。

「あぁ、その顔も好き」

そう言って、ふわりと、微笑んだ。



俺も、その顔好きです。








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140629




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