風に消えてしまえ
3words企画(@P_W_I_word)
「紙飛行機」「懺悔」「錠前」

「…何をしているのですか」
「んー、紙飛行機飛ばしてる」

 そんなことは見ればわかる。山のように作られた紙飛行機が執務机の上で出動を待っていて、綱吉はそれをひとつまたひとつと窓から放つ。綺麗に放物線を描くものもあれば、よろよろと情けない軌道で墜落していくのもあった。骸が問いたかったのは、どうして、そんなことをしているのか、だ。まさか紙飛行機を生産しろなどという任を下されているわけではあるまい。スーツを纏ったいい大人が紙飛行機を飛ばす姿はどこか不釣り合いだった。

「紙飛行機ってさー、難しいよな。上手く飛ばない」

 離陸地点から階下を見れば、彼の投じた残骸が点々と散らばっている。手入れされた芝生の上に点在するそれは、まるで野に咲く白い花のようだ。

「折り方が悪いのかな。飛ばし方?骸、お前コツ知ってる?」

 そうしてまた儚い指先から放る飛行機はすぐにふらふらと均衡を崩し、重力へ従っていった。それを追う綱吉の視線は自然と俯く。秋の半ばの柔らかな日差しがその睫毛に反射して、きらりと瞬いた。あまりにも脆く優しい光だ。思わず目を細める。

「なんでこんなこと、って」
「……」
「思ってるだろ」
「当たり前です。ストレスで狂いましたか?」
「はは、手厳しいな」

 繰り返し繰り返し放ってはいるけれど、その手つきは機械的なんかではなく、無機質でなく、まるで別れを惜しむようであった。綱吉は慣れた動作で、反復運動の様に、離陸体制へと構える。が、どうしてか機首は骸の方へ向いていた。投じられた紙の航空機はやや不安定ながらも目標の手の中に着陸する。

「お前への、懺悔」

 綱吉は一度だけ目を合わせると、また窓の方へと体を向けてしまった。一体、紙飛行機と悔い改めることをどのようにして結びつければいいものか、考えあぐねた骸は手にした機体へと視線を落とす。果たしてなかなか丁寧に折り込まれた内側へ何か線のようなものを捉えた。訝しみながら折れ目を解いてけばそこには見慣れた文字で、『ごめん』と記されていた。原型を失くした紙越しに製作者を覗き見るが、相変わらず窓の外へと飛行機を放り投げているだけだ。机に並ぶ中からもう一機、解体する。『マフィア嫌いなのに』そう刻む文字は、造形の丁寧さとは真逆に走り書きの様であった。

「――なんなんですか、これ」
「だから、懺悔」
「それは聞きました」
「それ以上でもそれ以下でもないよ」
「僕が悔やんでいるとでも?」
「うーん、そうじゃないんだけど。いや、」

 だってさぁ、そう言って綱吉は大袈裟なくらい振りかぶりもう何機目かもわからない紙の飛行体を風に乗せた。机上で離陸を待つのは、残り一機である。

「守護者なんて、拒否されるかと思ってたし。お前の過去考えたら当然だろ」

 ぽつんと存在する最後の個体を拾うと、彼は優しくその背を撫でた。

「そんなこと、」
「ないって言ってくれるよね、お前は優しいから」
「……、」
「俺は骸の優しさに付け込んで、いつの間にかこうしていることに疑問を持たないくらいにお前の心へ錠を掛けてしまったんじゃないかなと」
「…だから、そうやって、僕への懺悔をしたため、風に乗せていた、と?」

 綱吉の指先が骸の頬へと這う。僅かでも風を切っていた指先はやけに冷たくて、皮膚を通してその体温が溶けて行くのを感じた。自身の温もりに混じり消えてしまうにはあまりにも勿体ない温度。

「うん」
「馬鹿ですね、それも真性の」
「なんだと」
「自分でも気づいてるでしょう」
「まあ」
「そういうところがね、馬鹿で、愛おしいって言ってるんです」

「…ちぇっ」

 歯痒そうに顔を背けた綱吉が、手にしていた飛行機を押し付けてきた。それまでのものと違い、折り慣れていない様な歪さがある。ゆっくりと、開いてみた。

『愛してる』


「あーあ、先に言われちゃった」

 そして笑う綱吉の髪を、風が攫った。







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141012
単語から書き起こすの楽しい…!
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