俺の愚兄を紹介します

「あー…」

非常に言いづらそうにしている教師が一名。そりや言いづらいだろう、言いづらいだろうに。お気持ちを痛い程察しますが、俺には察することしかできない…というかしたくない。クラスメイトはこの光景に慣れきってしまったのか、各々板書を写したり、眠りに更け込んだりしている。

「六道くん…は、二人になってしまうね…えーと、六道、骸くんの方……」

フレームのよれている眼鏡を直しながら、弱々しい声で漸く名指したのは、俺の後ろの席でにこにこと授業を受けている生徒だ(そもそも俺は窓際一番後ろという特等席だった筈で、奴が机を置いているのは掃除ロッカーとの間。其れほどスペースはなく狭いんじゃないかと考える)

「はい。ここの設問ですか?」
「いや、そうではなくて…」
「I wonder how long this fine weather will last.この良い天気はいつまで続くのだろうか…lastとという単語には続くという意味もあるので、こうなりますね」
「六道くん…あ、六道骸くん…ほら、」
「違いますか?」
「や、合ってはいるんだが…」

先生が腹を押さえてる。胃にきたんだろうか。教師の自分よりも流暢な発音で、かつ解答も完璧、そんな生徒を目の前にして更に腹痛まで被るとはあまりにも先生が不憫になってしまった。……仕方ない、


「自分の教室に帰れっつってんの、兄さん!!」

勢い任せに立ち上がり、背後の机を力強く叩いた。

「やっと振り向いてくれましたね!ずっと無視するなんてひどいです、綱吉くん」

俺が怒りも顕に睨み付けているっていうのに、寧ろさっきより元気になっているのはなぜなんだ。そんな嬉しそうな顔をするんじゃない。

「無視したくもなるだろ!」
「それが兄に対する言葉ですか…」
「これが弟に対する行動ですか」
「僕はただ綱吉くんと一緒に授業を受けたかっただけです!何の罪もありません!」

存在自体が罪。
なんて言葉が喉まで出かかったが、そんなことを口にしたらすぐ側の窓からダイブトゥスカイ(というよりもダイブトゥアース)するに決まってる。何とか僅かに余っていた理性で胃袋へ押し戻した。この年で殺人犯にはなりたくない。

「兄さん」
「はい!なんでしょう!」
「これ以上俺を困らせるなら、寝食別、勿論登下校も別々、風呂だって一緒に入ってやらないし、口もきかないからな」

ああ、我がクラスメイトたち…そんな目で俺を見るな。仕方ないだろ、一緒にお風呂に入ってください、お願いします、と自分より大きな男に泣きつかれてみろ、俺の気持ちがわかる筈だ。

「…わかりました、帰ります、帰りますから今夜は一緒に入ってくださいね、お風呂」

俺の一言が相当堪えたのか、重い影を背負い机をがたがたと揺らしながら教室から出ていた。そうだよ、どっから持ってきたんだその机。当然、最後に投げ掛けられた言葉に返事はしていない。

「先生、うちの愚兄がすみません。授業続けてください」

兄直伝の対人用の微笑みで笑いかけたら、深いお辞儀と共に心からの謝礼を述べられた。


お恥ずかしながら、あれが俺の兄貴です。




俺の愚兄を紹介します




容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群の三点揃い。神は二物を与えないとはよく言うが、二物どころか三物も四物も与えやがってくださった。どんだけ気前がいいんだっていう。それなのに頭の中が残念なのは、神の責任ではないだろう。

「……いい加減泣き止めよ」

帰宅してからかれこれ一時間、兄貴はずっと部屋の隅でめそめそと泣いていた。

「だって、綱吉くんが、ひどいことを、いうから、」
「だーっ!わかった!俺が悪かった!いや俺は悪くないけど!とにかく、色々言ったのは謝るよ、ごめん」
「ほんとうですか?」
「うん」
「もうあんなこと言いませんか?」
「うん」
「お風呂も一緒に入ってくれますか?」
「……うん」
「僕のこと好きですか?」
「……」
「好きですか?」
「好きだよ!好き!」
「綱吉くん!!!」

やけくそで頷いてやれば、飛びついてくる兄上。なんなんだこの手のかかる赤子は。

「髪も体も僕が洗ってあげますからね」

兄さんは昔から俺を溺愛していて、それは高校生になった今でも変わらず。母さんは仲いいのねーで済ますが、それだけで済まされたくはないのが本音。異常ともとれるこの愛を俺は受け止めきれずにいる。…でも、そんな兄さんを嬉しく思っている俺がいるのも本音であり、この兄にしてこの弟あり、と言われても仕方がないのかもしれない。だから、大の男二人で窮屈な浴槽にも浸かるし、狭いシングルベッドの片側も兄にやった。兄さんが極度のブラコンであれば、俺だって変わらない。他人様になんて言われようと俺は兄さんが大好き。兄さんに彼女ができたら、発狂するかもなぁ、俺。



そして今宵も俺は兄さんの腕の中。優しい心音の揺りかごに抱かれ瞼を閉じる。


「お休みなさい、綱吉くん。また明日。明日も君が愛しいです」


俺もだよ、兄さん。










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090208
140630 加筆修正




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