幸福論

ねえ、骸、おもしろい話をしてあげる

そうして、紡がれた物語は真実ひどく滑稽であった。要約してみれば、なに僕らの前世はマフィアで、屍の山を生業としていたそうじゃないか。その世でもお互い愛し合っていて、しかしこの僕が、そう、他でもないこの僕が、この手で、貴方を殺したんだと。何より喜劇と言えるのは、この子はそれに対して、至極甘い声で、し あ わ せ だ っ た と付け加えた。それは見たこともない彼の表情だった。僕の知らない君。

「‥‥なにを言ってるんですか?」

これ以上話を咀嚼するのが怖くなった。到底理解はできないが、なぜか心が拒絶しているのだ。脳は危険信号を発し続けているのに、僕はただただ彼の言葉を待つように固唾を飲む。眩暈が、した。

「だから、俺とお前はマフィアで。俺は殺されたの。お前に」

こうやって、と彼の手が僕のそれを華奢な喉元へと誘う。

「どうして 僕が君を殺さなくちゃならないんです」

触れた細い首筋はひんやりと冷たく、少し力を込めればいとも簡単に壊れてしまいそうだった。あまりに儚いその感触に背中を嫌なものが走る。しかし、感じたのは嫌悪感だけではなく、どこか、懐かしい、抗えない既知感。

「さあ?でも、いつもそうだったよ。その前も、更にその前も」

彼の話を信ずるならば、僕はどうやら転生する度、この子の命を奪っているようだった。馬鹿な、そう一蹴してしまえればどんなに楽であろうか。けれどもう、この手のひらに蘇ったあの、感覚は、どうにもこうにもそれを否定することができなくなってしまった。嗚呼、できるならば、今すぐに、この両の手を切り落としてしまいたい。

「幸せだったよ、とても。だって、」

最期に見る骸の顔は、いつも幸福そうだったから。

そうして、回顧するように貴方は優しく微笑んだ。そう、そうだ。貴方もいつも最期はその笑顔だった。僕を受け入れるように、すんなりと死も受け入れた。貴方の顔から静かに笑顔が消えた後、感じたのは確かに幸福。ぽたり、恐る恐る君の首に添えていた手の甲に涙が落ちる。どうして、僕は、そんな、この手で、君を、なんて。なのに、君は、それを、幸せ、だなんて。

「泣かないで、骸」
「だって、ひどい、ひどすぎる」
「俺ね、今度はさ、生きてみたい」

「骸と、最期まで、一緒に」


愛おしかったんだ、どの世でも。愛おしすぎて、そうすることしかできなかった。貴方の最期に笑っていても、自分のその時が来れば、どうしようもない悔恨を己に抱いて、泣いた。いつだって、死を涙で濡らした。

「また、最期に笑ってね」

祈るように瞼を伏せた貴方は、忌まわしい指先に優しい口づけを落とす。やはり、君は笑っていた。そうして、僕は、許しを乞うように、その体躯を抱き締める。

「そうしましょう、絶対、今度こそ」


笑うなら、共に。






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140626



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