喉元を締め上げる
(息苦しい、それ)

ラピスラズリのような髪が風に揺れる。自分はその、宝石の輝きをもつ色が好きだった。指を通してみれば、まるで水の如くすり抜ける心地も、絹糸のような感触も、ずっと好きだった。それは、自分しか知らないこと、自分しか知らない感情、あぁ、 。

「僕の名前なんて覚えていないのでしょう」
「…俺は、」
「仕方のないことです」

また、そんな哀しい笑顔。綱吉は確かに保証もない、ただただこいつを知っているという何かが喉元を締め上げていた。それがいやに苦しくて、早く吐き出して楽になりたいのに、形にすべき言葉が見つからない。

「平凡以下の中学生から、マフィア界のドンへと成り上がり、護られる立場のくせして、僕を庇って愚かにも命を落とした、そんな滑稽な話なんて、覚えていない方がいいんです」


なぜか、泣きそうになった。ひどく の声を欲していた自分がいて、でもそれは自分じゃない誰かの叫びのような、まるで内側にもう一人、存在している錯覚。それでも今こうして目の前の を抱き締めたいと切に思っているのは、他でもない、自分。けれど、腕が、体が言うことをきかない。どうか、そんな顔をしないで。

「この世(せ)でこそ、君に幸せになってほしい」

「そう思っていたのに、」


気が付けば、いい年をした青年が二人、ぽろぽろと涙をこぼしていた。言葉にならない男の名前が、水滴となって漏れているみたいだと、綱吉は思った。

「君から離れられない」


それからみっともない程泣き合って、ごめんねごめんね、お互いそれ以外の言葉を口にできなかった。流れる涙を拭うことも忘れ、そうしてもやはり、喉にへばりつく焦燥が溶けてくれることなかった。

「、綱吉くん」

綱吉は、この男を知らない。自分が今なぜ、泣いているなかもわからない。知っていることは、この男の名が喉にこびりついて離れない、それだけ。



「ねぇ、ねぇ、お前の名前は」

男は僅か考えるように口をつぐんだが、すぐにゆっくりとその唇を、開いた。



「僕の名前は、 。」



そうだ、お前の名は、













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080904
(140624 加筆修正)

来世のお話


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