観察眼
とてつもなく嫌な予感がする。否、嫌な予感しかしない。
普通に楽しく魔法薬学を受けたかったのに。
やっぱり双子のウィーズリー先輩のこと嫌いになりそう。
“大丈夫よ。お人形みたいに可愛いから。”
“ソフィー、そんな問題じゃないのよー。”
主観的に見ても、この髪型に服装で魔法薬学を受けるなんて、授業を馬鹿にしていると思う。つまり、客観的に見ればもっとヒドイわけです。
いつもどおり時間ピッタリに来たスネイプ教授。やっぱり、機嫌がよろしくないようだ。恐らく自分のせいだと思うと、自分に嫌気がさす。嫌わないでほしい…
“Ms.シャロン。”
スネイプ教授、フランス語を話せるのね。凄く博識。
“スネイプ教授、なんでしょうか?”
“その格好で我輩の授業を受ける気かね?
”
やっぱり、予想してたけど泣きそう。今なら好きな人に嫌われることの怖さが分かる。
“Ms.シャロン、
もしかして君は…”
今、口を開いたら涙が出てしまう。
ふるふると首を振ると、スネイプ教授は何かに気付いたような顔をした。
“Ms.シャロン。授業終了後、我輩の執務室に来たまえ。我輩の授業が最後であろう?”恐る恐る頷くとスネイプ教授は壇上に上がり授業を始めた。
一通りの説明を終え、実験の指示を出すと私のもとにやってきた。
また、何か言われるのかな…
“Ms.シャロン、その格好では危険だから今日は下がっていなさい。”
“…はい”
みんなが実験するのを教室の端で眺めていた。
実験してみなければ分からないことがたくさんある。実験したかったな…
雪ちゃんと一緒に実験しようかな。
気になるところをノートにメモを録っているだけだと一コマがすごく長かった。
チャイムがなるといつもどおりみんなは一斉に教室から去っていった。
「シェリー、行きたくないわ…」
「いつもの桃子らしくないじゃない!
私たちは行くわよ。何にもないことを祈ってるわよ、シャロン!」
「えぇ、じゃあね。」
ヒラヒラと手をふると、原因の1つを作った人たちと言っても過言ではない三人は笑顔で去っていった。
息を大きく吸って出来るだけ、気持ちをリラックスさせる。
“失礼します、スネイプ教授。シャロンです。”
「開いている。入れ、Ms.白鳥。」今、教授は私のことをなんとおっしゃったの?
英語でさらに私のことを『Ms.白鳥』とおっしゃらなかったかしら。
ドアノブに手をかけたまま、動くことが出来ない。どうして分かったのかしら、と考えを巡らしていると、急にドアがふわりと開いて目の前に漆黒のローブが広がる。
「シャロン、君はMs.白鳥であろう?」
そっと顔をあげると、いつもの優しい教授だった。
「入りなさい。」
驚いている私をそっとソファーまでエスコートして下さる。本当にスネイプ教授は素敵な方。
マグル式で紅茶を淹れている教授を見て、ようやく思考回路が通常に動き出した。
「教授、ご推察通りです。」
「やはり、か。」
「やはりとは?」
「いくら瞳の色、髪色を変えても君は君だ。
さて、今日はハロウィンではないかね?」
「あっ!私ったら…
部屋に置きっぱなし、アクシオ」
アクシオは使い慣れたもので、手元にハロウィンのために雪ちゃんと作ったお菓子が届いた。
「今回も甘さ控えめにしたんですよ」
「戴こう」
クッキーに手を伸ばすだけの仕草さえも素敵。
「ん、うま…“不味くはない”
美味いと言いかけた自身の失言を隠すようにフランス語を話す教授。どうしても威厳を保とうとしている姿も素敵。
“美味しかったんですね!良かった”
“ふんっ”
“先生は何ヵ国語話せるんですか?”
“日常会話程度なら20ヶ国語ぐらいだ”
“さすがですね!
私のお父様は
――ガちゃッ
“誰だ!シャロン、君はそこにいなさい。”
杖を手にした教授は廊下に出ていった。
恐らくノックしたけど、私たちが話し込んでいたから気付かなかったのかな。でも、声が聞こえるからドアを開けたら異国の言葉で話しているところを見て、驚いたのだと思う。これが、私の推理よ。
でもね、ハッキリと断定できないけどドアから去るときふわふわのチョコレートブラウンの髪がちらりと見えた。チョコレートブラウンの髪色なんてたくさんいるはずなのに、どうしてもハッフルパフの先輩を思い浮かべてしまう。
ひとつため息をつくと、クッキーに手を伸ばし甘味で気持ちを落ち着かせた。
その後、犯人を見つけることができず教授も戻ってきて今日はお開きとなった。
次の日にはちゃんともとの姿に戻っていた。ホッとしたわ!
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