ハロウィン
最近、コートがなくては過ごせなくなるぐらい寒くなってきた。今日はハロウィン。
昨日作ったお菓子の入ったバスケットを持って、談話室に降りるとシェリーに怪しい集団の輪に連れ込まれた。
良く見ると、シェリー、マリー、ソフィーの他にポッター先輩方三人組と、双子のウィーズリー先輩と監督生のウィーズリー先輩までいらっしゃる。
「どうかしました?」
「「我らが姫、桃子ちゃん!」」
「今日が何の日か知ってる?」
みんなが嬉々とした目で見てくる。
「え?
ハロウィンでしょう?
悪戯なら、結構ですよ。私の手作りでよろしかったら食べてください。」
とりあえず、本を読んでいる監督生のウィーズリー先輩の隣に座らせてもらう。
「「「「「待ってました!」」」」」
「僕からのお返し。桃子、食べてよ。」
ポッター先輩から頂いたのは、紫色のケーキ。怪しすぎる。
「ポッター先輩、私のことを殺す気ですか?
匂いからして、怪しいじゃないですか。」
「ごめん、桃子。僕もパパに教えてもらって一生懸命に作ったんだけど…。」
「そうなんですか。」
「桃子、あんなのは食べちゃダメ。」
シェリーの忠告がなくてもさすがにあれは食べない。
「「姫、僕たちからのお返しだよ!」」
「ありがとうございます。」
双子のウィーズリー先輩から頂いたのは綺麗なキャンディ。
「僕たちの」
「キャンディを」
「「食べて!」」
返事をしようと口を開くとキャンディを口に入れられた。
すごく爽やかだけど甘い匂いがする。
口の中で広がるピーチ味。
「「兄弟!
成功だな!姫、やっぱり可愛いよ。」」
「ウィーズリー先輩、からかわないでくださいっ!」
「シェリー、マリー、ソフィー、朝食に行きましょう?」
立ち上がるときに、監督生のウィーズリー先輩が鏡を見た方が良い、と言われた。
なんかついてるのかしら…。
大広間について、すごくざわついているなか手鏡を見ると私が映らなかった。
「え?」
プラチナブロンドでさらふわの巻き毛にキラキラと輝くサファイアのような透き通った碧眼。
目をぱちぱちさせると鏡の向こうの人も同じタイミングで目をぱちぱちさせる。
髪の毛に手をやると鏡の向こうの彼女も。
あぁ…
私なんだ…
わた…し…
「シェリー…
どうしよう!?」「可愛いから大丈夫よ!それに、校長先生も仮装オッケーって言ってたよ。」
「可愛くない上に、今日はスネイプ教授の薬学があるのよ…
きっと幻滅されちゃう。」
そもそも、こんなフランス人形みたいな格好してたら誰か分からない。
可愛くないフランス人形なんか、フランス人形に失礼ね。
「おい、ポッター。」
「なんだマルフォイ。グリフィンドールに用か?」
「そちらにいらっしゃる、フランス人形みたいな可愛いレディを紹介しろ?」
「え…(コイツ気づいてないのか)
マルフォイになんか紹介するはずないだろ!」
ドラコお兄様にも気づいてもらえないなんて…
「ドラコお兄様っ」
抱きつき、そっと耳元で名前を呼ぶと、ざわりと大広間の空気が変わった。
何故か空気が冷たくなった。
「桃子…か?」
「そうです…」
「ビックリしたじゃないか。」
「っう…
双子のウィーズリー先輩にやられました。」
「桃子、泣くな。僕がついている。
とりあえず、スリザリンの席においで。」
コクンと頷くと、しゅるりとネクタイをはずされ、どこの寮か分からないようにされた。
もともとさらつやの巻き毛で見えてなかったけど。「シェリー、マリー、ソフィー、行ってきます。」
「桃子、大丈夫?」
「ドラコお兄様は、本当のお兄様みたいに優しいから大丈夫。」
「そう…」
いつもより元気のない三人。
「―…三人は悪くないから、落ち込まないで!」
「「「違うわよ!
そのフランス人形みたいな貴女と一緒に過ごしたかったのよ!」」」
「着せかえたり」
「髪の毛弄ったり」
「写真撮ったり!」
「心配した私が悪かったわ…
ドラコお兄様、時間をとらせてすいません。行きましょう?」
「あぁ。」
いつもどおり優しいドラコお兄様のエスコートに従って、スリザリンの席に連れていってもらう。
「桃子、フランス語喋れるよな?」
「えぇ。」
「魔法がとけるまでは、フランス語で話すんだ。
大丈夫か?」
「分かりました。」
質問しようとすると、席についてしまった。
「ドラコ、誰?
妹さん?」
あ…
ドラコお兄様の彼女だわ。
「まぁ、そんな感じだ。」
「Bonjour, Mademoiselle. 」
「何語を話してるの?何ておっしゃったの?」
「フランス語だ。
"おはようございます。"って言ってる。」
「すごく可愛いし、雰囲気とか桃子みたいだわ。
私、桃子は好きだわ。妹みたいで。」
こんなところで急に誉められても…
仲が良すぎて私には入る余地がない。
グリフィンドールの席から連れ出してくれたことだけでも嬉しかった。そしたら、おじいさまの所に相談しに行けるでしょ?
「Pardon, Monsieur, et Mademoiselle!
Je vous remercie beaucoup.
Excusez-moi de vous deranger.」
感謝の意を表すために、ドラコお兄様とパンジー先輩にハグをする。
優しいパンジー先輩に、ハグをしたときに耳元で私が桃子であることを種明かしをする。
驚いていたけど、すごく納得していた。
「おい、パンジーさっき彼女は“失礼、ムッシュー、マドモアゼル。本当にありがとうございます。お邪魔して申し訳ありません。”って言ったんだ。」
本当に仲のよい二人にフランス語でお別れをしておじいさまの所に向かう。
一人でいるからか、普段より多くの視線を感じる。
確かに、急に現れた動くフランス人形だもんね。
私だってビックリしたもの!
みんなの方がもっと驚くに決まってる。
グリフィンドールの席をチラリと見ると仕掛けた張本人は素知らぬ顔をしている。
唯一心配してくれそうなグレンジャー先輩もいつもの私を見る目ではなく別人を見るような目で見てくる。
監督生のウィーズリー先輩は、心なしかいつもより顔が赤い気がする。髪の色と区別がつかなくなりそうな勢いだった。
「Bonjour!」
ドラコお兄様たちと話していたのを聞いていたのか、おじいさまはフランス語で話しかけてくれた。
“おはよう、おじいさま。”
“桃子、今日は張り切っておるの。
誰かと思ったわい。”
“分かってくださったのは、おじいさまだけですよ。”
“孫のことは、わかるに決まっておるじゃろ。”
“まぁ、おじいさま!
この変身をといていただきたいのですが。”
“ほっほー
双子がやったのじゃな!うまくできておるのぉ。
今日はそのままでいるが良い。”
“えーっ!?
では、いつになったらこの変身はとけるのですか?”
“そうじゃのう…
わしの見込みでは、だいたい今日と明日の境目ぐらいかの?”
“どうしてもといていただけそうにありませんね。
それならば、本日は桃子・白鳥としてか、別人として過ごすべきなのですか?”
“それは、桃子の好きな方と言いたいところじゃが、別人として過ごしてみるが良い。
新しいホグワーツが見えてくるぞ。”
“では、お名前はどうすれば良いのです?”
“そうじゃのぉ、「シャロン」と、名乗り。フランス語を話すならば、大体のものは話しかけないだろうがの。
良い一日を過ごすのじゃぞ!”
肩をポンッと叩くとおじいさまは嬉しそうに出ていった。
“おじいさまもね!”
ちょっと、私は良い一日を過ごせないと思うんですだけど…
とりあえず、先生方に挨拶しないといけないわね。
“おはようございます、ムッシュー、マダム。私は「シャロン」と申します。1日だけですがよろしくお願い致します。”
みんな驚いているが、口々に“おはよう”や“よろしく”と返してくださる。
最後の一文が分かったのかは不明だが、お辞儀をすると制服がドレスに変わってることに気がついた。
どこかで見たことが…
まぁ!
この服は南フランスの別荘の応接室に置かれているフランス人形のドレス!
おじいさまも粋ね…
とりあえず、ドラコお兄様とパンジー先輩にお礼を言わないと。
“ドラコお兄様、パンジー先輩。
先ほどは失礼しました。
本日だけは「シャロン」とお呼びください。”
パンジー先輩に翻訳しているドラコお兄様は幼いときから変わらずお優しい。
「シャロンね、よろしく。
貴女、今日1日どうするの?」
“もちろん、普通のいち生徒として授業に出ますよ。”
「通訳を通して話すなんて、めんどくさいわね。
シャロン、1時間目の授業は?」
“DADAですよ。”
「サボりなさい。
あんなの授業じゃないから、構わないわ。私たちは、魔法薬学だからスリザリンの寮に移動しましょう。」
“分かりました。
ご迷惑をおかけし、すいません…”
「迷惑なんかじゃないわ!
貴女と少し話したかったのよ。
私たちって、良く考えたらじっくり話してないのよ。」
“そうですね。
私も先輩と話したかったんです。”
パンジー先輩って、ベラ姉さまに似ている気がするの。
見た目じゃなくて、性格がね!
「さぁ、入って入って!ここがスリザリンの談話室よ。」
「すごいですね。
すごく、オシャレで落ち着きます。」
「でしょ?
私が少し手を加えたけど。
で、貴女は英語を話せないのよね?」
「そういうことになってますね…」「授業に出る必要性が感じられないわよ」
「でも授業に出ないと。私、頭良くないですから。」
「すごく優秀だと噂はかねがね聞いてるわよ。
まぁ、出たいって言うなら…」
一人考え込んでしまったパンジー先輩。
「パンジー先輩?
いっそのこと、英語を話せることにしませんか?」
「ダメ!
それだけはダメ。」
「ナチュラルに振る舞って、回りにバレなきゃいいですし…
言い忘れてましたけど、グリフィンドールのうるさい先輩方は知っていらっしゃいますよ。」
「そうなの!
何でそんな大事なことを!」
「パンジー、そろそろ始まるぞ。」
「ドラコ。
いつの間に?」
「さっきだ。
早くしろ。」
「わかったわ。
桃子…いえ、シャロン。1時限目が終わるまで私の部屋にいなさい。
本なら勝手に読んでもいいから。
そこを右に曲がって、突き当たりから数えて三番目の個室よ。
じゃあ、行ってくるわ。」
「いってらっしゃい、パンジー先輩、ドラコお兄様。」
やっぱり、面倒見の良さはベラ姉さまにそっくり。
あ…
ハロウィンのクッキーを渡し忘れちゃった。
一時間暇だし、みんなにお菓子を送ろうかな。地下だけど杏ちゃん来てくれるかな。
杏ちゃんだし大丈夫だよね!
「杏ちゃん」
さすが杏ちゃん。
呼べばどこにでも来てくれそう!
呼び寄せ呪文を使って、お菓子とレターセットを呼び寄せる。
おうちにも、はじめて作ったお菓子を送って、パンジー先輩にあって会いたくなったベラお姉さまにも手紙を書いてお菓子と一緒に届けてもらう。
「杏ちゃん、ありがとう!」
食べるのかな、と思いつつクッキーを渡すと食べてくれた。
もしゃもしゃとカボチャケーキをつつく杏ちゃんは何とも言えず可愛らしい。
杏ちゃんに見惚れているとみゃー、と聞き覚えのある声がする。
「え…ロココちゃん?」
「んみゃ」
「何でここにいるの?」
思い返してみても、連れてきた覚えはないし勝手に入れるような場所ではない。
「にゃーお」
何とも可愛らしい声で鳴く猫に首をかしげるフランス人形のような少女。まるで、一枚の絵画のよう。獰猛そうな鷲だけが、絵画ではないと主張しているようだ。
「桃子ー!」
「パンジー先輩、お疲れさまです。
授業は終わったんですか?」
「終わったわよ。
あら、子猫ちゃんじゃない。昨日はいなかったじゃない。」
にこにことロココを撫でているパンジー先輩は、飼い主の私が言うのも何だがまるで飼い主みたい。
「この子ね、結構前からスネイプ教授の執務室やスリザリンの寮に入り浸ってるのよ。誰の猫かしら?」
「パンジー先輩…
お恥ずかしながら、その子私の猫なんですよ。」
「まぁ!
何て言う名前なの?」
「ロココって言うんです。」
「そう、ロココね。飼い主ににて可愛いわね。」
「ふぇ?」
「何でもないわ…
いつでも遊びにいらっしゃいね。」
「にゃー」
「そうそう。
桃子、貴女まぁまぁ噂になってるわ。シャロンじゃなくて、桃子が。」
「私がですか?」
「そうよ。」
「貴女、勤勉で真面目でチャーミングな貴女が授業に出てないから怪しんでるわ。
桃子の寮生が適当にはぐらかしてるわよ。」
「めんどくさいですねー」
「シャロンの方も、噂になってるわよ。いっそのこと、ここで1日過ごせば?」
「ありがたい申し出ですけど。でも、授業に出ないと!」
「わかってるわ。
だから、私と約束よ。
絶対に知らない人についていかないこと。
忌々しいけど、桃子の寮の友人と一緒にいること。」
「はい、パンジー先輩!」
「大丈夫なのかしら…。
次の授業は?」
「呪文学ですよー。」
「ちょうど良いわ。私、薬草学だから送っていくわ。」
「ありがとうございます。
でも、私一人で行けますよ?」
「やっぱり、無自覚は怖いわ…」
「パンジー先輩?」
「そろそろ行かないと間に合わなくなるわ。」
「はい!」
教科書を持って杏ちゃんにサヨナラし、パンジー先輩にわざわざ送ってもらった。
「人間って髪型と目の色を変えるだけで別人になるのね…
じゃ、約束を忘れないこと。」
頷くと、パンジー先輩は満足そうに去っていった。
残りの授業は、マリー、シェリー、ソフィーが一緒にいて回りからの質問攻めから耐えていた。
驚いたことに、ソフィーはフランス語が話せるから、通訳をするふりをしてくれた。
おかげで怪しまれずに授業を受けることができた。
一歩下がって、ホグワーツ生ではなく部外者として客観的にみてもみんな生き生きとしていて楽しそう!授業ではめんどくさそうな顔をしている子も、休み時間や得意教科のときは本当に楽しそう。ここに来て良かったと思う。
たまに、ホームシックにかかるけど。
本日最後の一コマは魔法薬学。
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