ミルクティー
蛇を連れて出ていったMs.白鳥はまるでスリザリン生だった。前から、グリフィンドールのらしからぬとは思っていたが。
大広間を立ち去る彼女は泣きそうで、儚く放っておくと壊れてしまいそうだった。
言い訳にしかならないが、ロックハートのせいで怪我をしていたから放っておくわけにはいかない。
蛇を連れたMs.白鳥が行きそうな場所となれば、城外だろう。さらに、一人になれる場所であるから限られてくる。
さすがに昼間と言えど、晩秋である。陰に入れば肌寒く、Ms.白鳥にマントを渡したことを後悔した。
歩みを進めると、昔一人になりたいときによく来ていた湖のそばに着いた。
Ms.白鳥は一人湖畔に座り、微動だにしなかった。時折、吹いていく秋風が彼女の髪をさらさらと撫でていく。
その様子はなぜか静止画のようだった。
この状況を壊したくないが、打開しなければ私も彼女も風邪を引いてしまうだろう。
そっ、と彼女のとなりに腰を下ろすと昔に戻ったような気がした。
猫と私のマントを抱きしめたMs.白鳥は目に涙をためていて、私にはどうすれば良いのか分からなかった。
こんなとき、ルシウスならばいとも簡単に慰めるのだろう。
だが、今ここにいるのは私だけである。
柔らかい髪に手をのせると、思った以上にさらさらとして柔らかかった。
「っう…きょ…じゅ…」
「どうした?」
頭に手をのせたまま聞くと、彼女はギュッと腕の中の猫をさらに抱きしめた。
「…きょ…じゅ、わっ…たしの、かんがっえかたは、ぅっ…「落ち着いてからで良い。」ぁい…」
時折、嗚咽を漏らしながら静かに涙を流した。
少しは落ち着いたようだった。
「先生、これすいません。ちょっと、しわが寄っちゃった。」
「構わん。」
彼女の肩に私のマントをかけると、驚いていた。
「先生が風邪引いてしまいます。」
「私は大丈夫だ。」
彼女は、そっと肩を寄せてきた。少しは寒くなくなったですよね、と。
ゆるく微笑んだあと、彼女は話し出した。いつもの柔らかい、回りを安心させ癒すような笑顔が消え、不安そうな顔をしていた。
間接的であれ、彼女の笑顔を奪ったと思うと胸が締め付けられる。
「スネイプ教授、私の考え方は間違ってるんでしょうか。
万物の命は等しく、全てが大事にされなければならないとは、おかしいのでしょうか。」
「私はそうは思わん。Ms.白鳥はMs.白鳥が大切に思っていることを貫けば良い。
辛くなれば、誰かを頼れ。君の回りには君を支えてくれる人がたくさんいるはずだ。良ければ、私でも。」
魔法薬学以外のことで久しぶりにこんなにしゃべった…な。
「教授、ありがとうございます。
心が軽くなったような気がします。」
少し、赤い目が泣いたことを物語っているだけで、いつもの柔らかい笑顔が元気になったと主張しているようだった。
「似非教師の呪文が当たっただろう。医務室に行くぞ。」
「はい。」
医務室まで送り届けて、マントを返そうとするMs.白鳥を制す。
「マントは、落ち着いたら返しにくればよい。
紅茶を淹れて待っていよう。」
「ありがとうございます。」
彼女が医務室に入るのを見届けてマクゴナガル教授のところへ行きMs.白鳥のことについて報告し研究室に戻る。
どうして彼女の一挙一動にこんなに魅せられるのだろうか。
私がこんなに人を好きになるなんて思いもよらなかった。
神様とは恐ろしいものだな。
採点途中だったレポートに手を伸ばす。よりにもよって、Ms.白鳥のものだった。丁寧で優しい彼女らしい字。
きっちりと書かれたレポートを見ると、愛らしい笑顔が思い出される。
私は重症だな…
なぜか彼女のレポートの次にはポッターのレポートだった。
全くあいつには、リリーのような薬学の才能や好奇心と言うものがない。ポッター(父)の血を受け継いだようだ。
1つ学年が違うMs.白鳥の方がレポートを良く書けている。
眉間のしわが深くなるのがわかる。
Dと大きく書くとノックの音が聞こえた。入るように促すとMs.白鳥だった。
「これ、ありがとうございました。」
いつもの定位置であるソファに座ると、いつもどおり向かい合わせに彼女も座った。
マントには仄かに彼女の移り香。
不快ではない沈黙のなか、マグル式でミルクティーを入れる。
「今日はミルクティーですのね。」
「甘いものを飲めば落ち着くだろう。」
一口飲んだ彼女はにっこり微笑むと嬉しそうに美味しい、と言う。
この笑顔を見れば、心が暖かくなる。
「教授、翌朝は大広間に行くのは辞めた方が言いかもしれません。」
「なぜだ?」
「お恥ずかしいことに私の両親がきっと…」
「何かあるのかね?」
言葉を濁すと、お礼の言葉と優しい笑顔を残して、さすが良家のご令嬢という身のこなしで帰っていった。
[ 13/17 ]
[*prev] [next#]
TOP