杖合わせ
「桃子ちゃん、これは私たちからの入学祝じゃよ。」
泰次おじいさまが渡してくれたのは黒い包装紙で綺麗にラッピングされた長方形の箱。
一見、怪しく見える。
「ありがとうございます、おじいさま、おばあさま。
開けても?」
「もちろんよ。」
ラッピングを外せば、薄い桃色のビロードに包まれた箱。箱を開くと優しい桃の薫りがする杖。
「え?
私、杖持ってますよ。ほら。」
私は物心ついたときから、杖を持っていた記憶がある。
「それはね、子供用の杖だよ。」
そういって、お父様はひとつの物語を話始めた。
「昔々、日本で疫病が流行ったらしい。それをみて心を痛めた白鳥家の当主は魔法で病を治していったそうだ。その病気にかかった人の中にはもちろん、マグルも魔法使いもどっちもいた。そんな疫病が流行ったのは一度だけでなく、二度も三度もあったらしい。毎回見境なく、助けた白鳥家の当主を褒め称えた神は白鳥家の血を引くものには癒力(ヒーリング)を与えた。それと同時に、癒力を使いこなせるように杖を、新しい生命誕生と共に与えた。そして、白鳥家の血が途絶えるまで神からの恩恵は続く。」
「へぇ。だから私たちには癒力が備わっているの。」
「でも、桃子のように強力な癒力は珍しいそうだ。
和志と桜子の入学のときにも同じ話をしたけど桃子は部屋で寝ていたからね。」
ぷくっとほっぺを膨らまして、抗議の意を表しておく。
「桃子ちゃん、杖を持ってみて。」
「はい。」
お母様に促されて杖を手にとると、まるで体の一部みたいに血が通っているような感覚が起きた。
「さすがじゃの。
何か魔法を使ってごらん?」
おじいさまは凄く嬉しそうに言う。
家柄、小さな頃から語学の勉強と魔法には力を入れて教えられた。だから大抵の魔法は使える、はず…。
「オーキデウス!花よ。」
杖先からは、薔薇の花が現れた。
「わぉ。」
「桃子、良かったな。これで立派な魔法族の一員だ。」
「ありがとう、お兄様。」
「桃子、さっきまで使ってた杖を出して。これは、将来の孫のために置いておこう。和志や桜子の杖も置いてあるんだよ。」
「はい、お父様。
精進して勉強します。」
「学校も楽しんでおいでね。くれぐれも怪我だけはしないように気を付けること。」
「はい。」
「手紙、楽しみに待ってるわよ。
杏ちゃんを連れていって良いわよ。」
杏ちゃんとはお母様が可愛がっている鷲。
「もちろんです。
杏ちゃんを連れていったらお母様困りませんか?」
「大丈夫よ。
彼女の他に、9匹いるから大丈夫よ。」
家にそんなにいたっけ(?)
「…そうですか。」
―それから
毎日教科書を読んだ。みんなに遅れをとったら嫌だからね。
わからないところは、雪ちゃんに教えてもらったりお姉様やお兄様、時にはおじいさまやおばあさまが教えてくれた。
今までは護身用の呪文が多かったから、すべてが魅力的だった。
魔法薬学だけは、家では実験できないから教科書を理解するだけとなった。
一番、魔法薬学が面白そう…
毎日が新しい発見で楽しかった。
そうこうしているうちに、夏休みは過ぎ去り大好きな家族とも白鳥家の家ともお別れするときが来てしまった。
みんなと別れを惜しみつつ、雪ちゃんにキングズ・クロス駅に姿現ししてもらった。
着いた時間が早かったようで、ほとんど人はいなかった。
1つのコンパートメントに居座り、雪ちゃんに無理矢理眠らされた。長旅で疲れたでしょうからって。
お父様からの話からこんなにトントン拍子で決まっていったけど良いのかしら?
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