第7Q
彼女と別れてから、俺達は駅までの道のりをただ黙々と歩いていた。
「いやー…幸村君が一緒に行くって言ったときはさすがにビビったぜぃ」
後ろで染々とそう言うブン太に、苦笑いをする。それはどういう意味なんだろうか。
「……それにしても、やけに静かじゃったのう──さっきの女は」
そんなブン太の横で如何わしげに顔を歪めるのは、俺達の中でも一番の女嫌いのクセがある仁王。やっぱりそう簡単には信用できないか。かくいう俺も、そうなんだけどね。
「誰でも彼でも疑うのは良くないぞ、仁王」
と、蓮二がノート片手に会話に口を挟む。
「それに、彼女が俺達に興味を持っている確率は限りなくゼロに近い」
「そんなん信じられるわけなか」
ピタリ、と。蓮二の言葉に反応して、身体を固めてしまう。仁王は相変わらず飄々としていて、蓮二の説教染みた話を軽々と受け流していた。
「──…蓮二、それは確かなのかい?」
自分でも何でそこに疑問を抱いたのかは分からない。だけど、彼女のことが気になって仕方ない。
「…ああ、仕草や表情を見ていたが、少しどころか微塵も変わっていなかった。始めの言動も含め、アレが普段からの彼女なんだろう」
「へぇ……」
「何じゃ、幸村。あの女に惚れでもしたか?」
「そうじゃない」
ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべる仁王をバッサリと切り捨てる。何がどうやったらそんな結論に辿り着くんだ。
「そうじゃないけど、ただ──」
「ただ?」
「──彼女とは、また会えそうな気がするんだ」
「……そりゃ同じ学校に入学するんだから会えるだろぃ」
ボソッと呟いたブン太をキツく睨むと、一瞬にして震え上がる。何がしたいんだか。
「そういえば、あの女性のお名前は何だったのでしょうね…」
ふとしたかのような柳生の溢した言葉に、全員(仁王以外)がハッとする。そういえば、聞いてなかったな…。
「それこそ四月になれば分かることだろう」
「女子に名を聞くなど、たるんどる!」
「うるさいよ真田。普通名前ぐらいは聞くだろう」
年齢とか体重とかを聞いてるんじゃないんだから。
やっと発言したというのに、一蹴された真田は落ち込み、紅白コンビ(丸井&仁王)に振り回される苦労人ズ(ジャッカル&柳生)に慰められていたとか。
俺には関係ない。だって間違ったことは言ってないし。
「……にしても、スゲェ衝撃だったな。最初のセリフ」
仕事(真田を慰めること)が終了したジャッカルが溜め息を吐く。
「方向さえ教えてもらえれば、あとは自力で行くから」それで思い出すのは、たった数分前の彼女の言葉。確かに、アレは衝撃だったな。俺達に面と向かってあそこまでハッキリと言ってのけた女の子は、もしかしたら彼女が初めてなんじゃないだろうか。それだけで、俺や蓮二が興味を持つには充分すぎる。
「──四月になるのが、楽しみだよ」
また会えそうな気がするんだ(俺が彼女に感じたのは共鳴音)
(その理由を、俺はまだ知らない)