第6Q
「──今日から練習に加入する、夜神薫だ」
見るからに強者揃いで、かなりレベルの高いプレイヤー達がズラリと並んでいる。さすがは全国屈指の強豪校、才能のあるプレイヤーが多い。全中でも見たことのある顔が数多く集められているな。この人達と共にプレイ出来ると考えると、思わずゾクゾクしてしまう。私は存外、好戦的であるのかもしれない。
「さっきも言った通り、ウチは夜神を獲得した。夜神が今後の戦略の中心であることを忘れないように。春休みの今日から夜神は一軍と共に練習させる。話は以上だ」
私の隣に立つ男──立海大附属高校女子バスケ部ベンチコーチである──篠原稔が、何事でもないようにさらさらとその内容を述べる。自覚はしているが、私を宛にし過ぎだろう。『神代の姫君』がバラバラになったとはいえ、私はその中でも最強を自負している。だが、先輩達にも面子というものはあるだろう。
「…なっ!?」
「いきなりですかっ!?」
篠原コーチの言葉に心底驚いて、私に不安と憤怒、羨望や嫉妬など、様々な反応を見せる先輩方。大方、後者の反応なのだが。
「文句があるなら私の実力を見てから言ってくれ」
──それでも、私がとやかく言うことではない。ここは【アイツ】と同じ実力主義の場だ。私の実力を思い知ってもらう他ないな。
「この中で一番強いのは貴女達だろう──『幻影の五花』?」
視線を向けた先には、3人の女性の姿が。
──ビュオッ
「っと!」
何かが視界に迫ってきて、反射的に手を伸ばしバチンッ、とそれを受け止める。バスケットボールだ。
「危ないでしょう………」
溜め息を吐くと、クスクスという笑い声。
『幻影の五花』──それは私より一つ世代が上の、『神代の姫君』と唯一渡り合えるとされた5人の天才の総称のこと。
立海には、その内の3人が居る。
「避けれたんだからいいでしょ?」
空前絶後のSPADE──冬島雪音。
「貴女だからやったのよ………」
戦意喪失のCLUB──春風桜子。
「さっすが『神代の姫君』主将様ってか?」
魑魅魍魎のHEART──秋田萩歩。
彼女達3人が加したおかげなのか、昨年と比べて部内の雰囲気や総合能力、ベンチの層も格段に上がったという話を、篠原コーチから聞いている。そこに私を加えることによって、さらに「完璧な勝利」に近付こうとしているのだ。
そして今、このチームを仕切っているのは彼女達3人の『幻影の五花』と言っていい。出来れば、穏便かつ友好的に済ませたかったが…仕方ない。
先に煽ったのは私の方だからな。やるしかないだろう。
「──1対1を3連続でどうです?いくら私とて貴女方を同時に相手にするのは少々分が悪い。無論、貴女達は己が得意とするオフェンスで構いませんよ」
薄ら笑いを浮かべて、分かりやすく挑発する。子供染みているかもしれないが、この方が案外引っ掛かるものなんだ。
「………生意気な」
だが、彼女達は『神代の姫君』の実力を一番知っている『幻影の五花』だ。本能が知っているはずだ。私と1対1で勝負をしても、勝てるはずがないと。
「私達がそんな無謀なことをするとでも?」
「ウチらがどんだけアンタを相手にして負けたと思ってんのさ」
「ま、それは過去のことであって今からは同じチームだ」
「そうね、今更貴女の実力を見る必要はないわ」
「相変わらずその腕は衰えてないんだろ?」
「………仲がよろしいんですね」
次々と繰り出される会話の数々に、率直にそう思った。
「あら?いずれは貴女もこの輪の中に入るのよ?」
「どうせすぐにスタメン取るんだ。今のうちから親睦を深めようぜ?」
「それイイね!──ってことで、やっぱ始めようか、『3対1』」
ギラリと、酷く好戦的でまるで新しい獲物を見つけたかのように、6つの瞳がこちらを向く。
………ふぅ、やはりこうなるのか。貴女達も、随分と変わらない。変わったのは、以前と比べて自信がついたことか。
彼女達はもう、『幻影』などではない。
「「「歓迎してやるよ、クソガキ」」」
──受けて立とう、その挑戦状を。
歓迎してやるよ(やはり貴女達は面白い)
(このチームは──変わる)