第2Q
なんて、格好つけて言ってみたけど。
内心、そんなことは微塵も思っちゃいない。
天才だとか十年に一人の逸材だとか、心底どうでもいい。これはアイツらの問題であって、私達が関わる必要なんて何処にもないんだ。それなのに、私達が茶々を入れてこれ以上関係を拗らせたらどうするんだ。
それ以前に、私達も問題を抱えてるというのに。
──バシンッ
「最低…!あんたがそんな人だと思わなかった!」
突然の出来事に、あの時の『私』は理解が追い付かなかった。右頬に走る衝撃、揺れる視界、涙を浮かべたあの子の表情。『私』の全てが、変わったあの日。
「おい、萌未!!お前、何してんだっ!?」
「放しなさいよっ!この女が、晴菜を捨てたからでしょ!?」
チームメイトに抑えつけられながら此方を睨む彼女──朝丘萌未の言葉に、私は茫然自失とした。
「おい…待て、何の話だ…!?」
私が晴菜を捨てた?
──そんな馬鹿な話があるものか。
「しらばっくれないでよ!準決であんたが晴菜に、あんなこと言うから!晴菜がどんな思いで決勝に出たのか、知ってるくせにっ!!」
「………あんなことだと?」
だから一体、何の話をしてるんだ。私にも、他のチームメイトにも分かるように話してくれよ。
「………何も覚えちゃいないのね。良いわ、教えてあげる。薫、あんたは晴菜に、何て言ったと思う?」
『もうお前は用済みだ。今までよく頑張ってくれたよ』
「───っ!?」
そうだ、私、そんなことを言ったっけ。
「………ほら、その反応はそういうことでしょ?あんたのせいで、晴菜はバスケ部を辞めたんだ!!」
違う、あれは、晴菜に向けて言ったんじゃない。
『──薫。貴女、キャプテンにされたんだって?』
嫌らしく口許を上げる、憎たらしいアイツ。
その言葉は、晴菜じゃなくて、アイツに言ったんだ。
アイツがこの場所に居ては、氷帝の価値が下がる。
「薫が意味もなく言うわけないじゃん。何かあったんだろ?」
「そうですね、薫が間違ったことをするはずがありません。わたしは薫を信じますわ」
チームメイトの言葉に、少なからず安堵の息を吐いた。どうやら彼女達は私を信頼してくれているようだ。
「………っ、勝手にしなさいよ!!」
責めるような視線に耐えきれなくなったのか、体育館を去っていく萌未。それを追おうとするチームメイトを制して、首を横に振る。
「っ、何で止めるんだよ薫!勘違いされたまんまじゃ──」
「放っておけ。いずれは敵になるんだ、萌未にどう思われようが構わない」
私の言葉に納得がいかないという表情をするが、それでも私の言うことだけは聞く奴だ、私の言葉通りに行動するだろう。
「………分かったよ」
他のチームメイトも渋々受け入れ、その影を見つめた。
「──今日はもう解散だ。これ以上この話をしても無駄だ」
あまりの雰囲気の悪さに、そう言うしかなかった。
「──晴菜、お前がどう思おうとお前は『神代の姫君』の一人なんだ。それだけは、覚えておいてくれ」
「………おん、分かっとる」
氷帝学園中等部卒業式、当日。
私は晴菜と顔を合わせるために校門前で立ち止まっていた。
「──…それじゃ、晴菜。今度会うときはお互い敵同士だ、手加減はするなよ」
「それはウチのセリフや。薫が一番しそうやからな」
「はは、考えておく。───サヨナラ、晴菜」
「………おん、バイバイ」
そこから私達は、別々の方向へ歩き始めた。
これが、私達の決別。そして、物語のハジマリ。
手加減はするなよ(新たな舞台は──高校へ)
(さあ、始めようか)