第27Q
「ところでさ、男テニの皆さん。君たち全員揃って何処行くの?」
彼女の隣に位置していた白と青のグラデーションの髪色と見るもの全てを凍らせるかのような冷たいアイスブルーの瞳が特徴的な女の人が、俺を見てそう言った。
その瞳の色を、何処かで見たことがあるような気がする。
「ゲーセンッスよゲーセン。テスト前に遊びに行こうって俺がさそったんだよぃ」
「ふぅん…そう。じゃあ、ウチらと一緒なんだね。あと敬語がなってない」
それはあなたも同じなんじゃ、とは思っても口に出さない。
「え!マジですか!じゃあ一緒に行きましょうよ!」
「だってさー。どうする、薫?」
「良いんじゃないかな」
「OK!じゃあ行こう!」
「よっしゃ!」
丸井…お前、使えるなら始めから使いなよ、敬語。ていうか、夜神さんもさらっと合意しないでよ。
「青子さん、構いませんよね?」
「…ええ、まあ」
「…何だか歯切れが悪いわね」
「どうしたんだよ?」
夜神さんが最後尾にいる赤也のお姉さんに振り向いて、合意を得る。彼女は普通に敬語を使用しているのに、相も変わらず3人はため口のまま。
「桜子、萩歩」
それを察した彼女が二人の名を呼び、体の動きを止めるふた…………名を呼び?
「……え、夜神さん。二人は二年生の人なんだよね?」
思わず彼女の名前を呼び止めて、確認する。
「そうだが」
だが、彼女は平然とした態度で答えた。
「………(唖然)」
言葉が出なかった。女バスの中での序列は一体どうなっているんだ…!
(正解:薫>>>雪音>>桜子=萩歩>青子)
「んじゃあそろそろ行こうよ」
赤也のお姉さんが夜神さんの背中を押して促す。
「そうですね…丸井、案内を頼んでもいいかい?」
「任せろぃ!」
「それじゃあ行こ───」
足を進めようとしたその瞬間。
───キャアアァアアアアッ!!
「!」
「何だ!?」
甲高い声が耳に突き刺さり、俺たちは動きを止めた。
今のは、悲鳴というより、俺たちがいつも聞いている声援に近い感じがした。
「───…あの馬鹿が……」
廊下の窓から校門を覗いて、夜神さんが小さく呟く。
「(知り合いなのか…?)」
「うわー…面倒っスねぇ…」
大量の女の子に囲まれ、諦めにも似た発言をする黄色の頭。
「おい、何でアイツが此処に居るんだよぃ…」
隣で丸井が目を見張らせるのが分かった。
「ほー…これは珍しい客人じゃな」
仁王が煩わしげに夜神さんを見る。
「モデルの…!!」
ジャッカルが息を呑んだ。
「お前の知り合いなのか、夜神」
柳が横目で夜神さんを興味深そうに観察している。
「これはこれは…風紀委員として見逃せませんね」
柳生が声を低くする。
「ああ、その通りだ」
真田が柳生に同調する。
「───黄瀬、涼太…」
俺が、その名を吐いた。
〜♪〜♪〜♪〜♪
誰かの携帯が鳴る。
「……私だ」
《あ、繋がった。夜神っち!探してたんスよー!!》
校門を越えることなく影が片腕を大きく振る。
「………何の用だ、
涼太」
───ズキン。
やっと、君の名を知れたというのに。
君は、俺の名を呼んではくれないんだね。
《夜神っち、ちょっとこっち来てよ。許可証なしに校内入れないっしょ?立海は》
「……お前にも、場所柄をわきまえる能力があったんだな」
《ちょ、ひどくないっスか!?》
「事実その通りだろうが。黒子から聞いたぞ。お前、やらかしたらしいな」
《あ、そうっス!今日はそのことを報告しに来たんスよ!》
「……分かった。すぐ行こう」
《俺のこと見えてるっスよね?じゃあこのまま校門に居るんですぐ来てよ!女の子たちは何とかしとくっスから!》
「ああ、じゃあな」
ブツッ。ツーツー…。
電子音だけが、その場に響いた。
「少し様子を見てくる。…雪音、後は頼む」
「はいはい、行ってきなよ」
「黄瀬君によろしく頼むわねー」
「出来ればサインくれっつっといてくれ」
「あんたは図々しいのよ秋田!」
「いでっ!」
「…青子さん、恐いわよ」
「何ですって?」
「いいえ、何でもないです」
「はいはい、茶番乙」
「「「「「「「……………」」」」」」」
夜神さんが口を開けば、ポンポンと飛び交う言葉の応酬。呼び捨てについては、もう何も言うまい。
あの馬鹿が(雲の上の存在に成り果てて、)
(一歩近付く度に、君が遠退く。)