第25Q
「夜神さん、お先に失礼します」
「ああ、お疲れ様。気を付けて帰れよ」
5月に入ってゴールデンウィークも過ぎ去った頃。本日の部活動も無事に終了した。制服に着替え終えた者から、帰路につく。中間テストも近付いてきているので、居残って練習を続けるのも禁止している。
『───お前の予想通りだったぜ、薫』
十数日前、景吾から掛かってきた電話。そして、伝えられたのは試合結果。氷帝学園対四天宝寺、その試合を制したのは、四天宝寺。予想出来ていた分、さして驚きはしなかった。
『俺は時々、お前が怖くなるぜ。試合経過も何も分からないのに、すべてを分かったように語るお前が』
だが、その言葉には僅かばかり驚いた。景吾が、私に対してそんなことを言うなんて。傷付いた訳ではないが、少しの間体が動かなかったな。
『確かに俺様はお前も薫と言った。だが、俺が隣に立つことを許したのはお前じゃねえ───あくまで夜神薫≠セけだ。勘違いするんじゃねぇぞ』
「(そこまで言われると妬けてしまうな…もう一人の『私』に)」
すべてを知っている景吾だからこそ、私のことも信じてくれると思っていたが───それも、無駄だったか。もう一人の『私』はあの時から、今もなお意識の底で眠り続けているというのに。
「(…だが、私のやることは一つ。『私』の望みが叶うその時まで、勝ち続けることだ。その邪魔は、誰にもさせない。だからこそ、立海を選んだんだ)」
このチームほど、『私』にピッタリの場所はない。これだけは、譲れない。
「(───王座から退くことなどするものか。『私』の願いを叶えるのは、私一人で充分だ)」
かつてのチームメイトたちの顔を思い浮かべて、ぐちゃぐちゃに斬り倒す。
『彼女』の精神はもう既に目を覚ましている。それでも私がこの体を操れているのは、『彼女』が何らかの理由で現実に帰ることを拒んでいるからだ。
その理由を推測することは出来ないが、検討はつく。
覚悟は、決めた。
「(『彼女』の代わりに、)
───…最高のチームを創ってみせる」
誰にも指図はされない。私だけの、チームを。
「───ねぇ、薫」
「…どうした、雪音?」
ゆっくりと視線だけを向ければ、部室に残っているメンバーは、スタメンの5人だけだった。全員がこちらを見ている。雪音が代表して声を掛けてきたようだ。
「この後さ、用事とかある?」
「…いや、特にないな」
始めは警戒していた雪音も、何を思ったのか私に懐くようになった。何度か、まるで犬のようだと思ったのは秘密だ。
「じゃあさ、今からどっか遊びに行かない?ほ、ほら、テストまで時間はまだあるじゃんか。自主練もダメだし暇じゃん。だから、さ!」
「良いんじゃないか」
「ですよね!言ってみたかっただけです!………え?」
荷物をまとめながらさらっとそう言うと、ポカンと口を開いたまま固まる四人。お前らが誘ったんじゃないのか。
「何だ、じゃあ止めるか?」
「え、いや…え、良いの?」
青子さんが恐る恐ると尋ねてくる。貴女が発案者ですか。
「息抜きもたまには必要だろう。でも、羽目をはずし過ぎて何か事を起こしては立海生の名折れだからな。私が見ていないと不安だ」
「失礼な!あたしらガキじゃないんだから!」
「ちょ、切原さん…薫が言ってるのはそーゆーところだってば」
「はあ?そういうところってどういうところよ!?」
「だから、そうやってすぐにキレる所だって。青子先輩よ」
ズバッと何も濁さずに直球で言い放った萩歩。雪音が躊躇った意味がないな。仮にも先輩に容赦なさすぎだ。
「…まあ、試合中にそうならなければ別に構わない」
貴女が何時、かつての赤也のように人格が切り替わるのか検討もつかないからね。ああなってしまえば、抑えるのは面倒だ。
「……『(´・ω・`)』」
「青子さん、何書いて…何で顔文字なのかしら?」
「可愛くないッスよソレ」
全員からの容赦ない言葉に、暫く立ち直れなかった青子であった。
最高のチームを創ってみせる(何なのよコイツらはもう!)
((((…面白いな、この人弄るの))))