第24Q
───ドクン、ドクンッ、ドクンッ!
「俺様に何も言わずに大阪へ帰るのか、朝丘」
冷や汗が流れ出て、首筋をつたた、と濡らしていく。
ヤバイ、本当に見つかってしまっていた。
「跡部…っ」
振り向いてはダメ。そう思っているのに、本能が彼に従えと拒む。
「そのままで良いから聞け」
彼が、壁に凭れ掛かる気配がした。初穂たちはアタシと跡部に気付かず、未だざわめき合っている。
「薫が白夜も含めお前たちを『姫君』と数えるなら、俺様はそれに意見するつもりはねぇ。
───だがな、あの日薫を傷付けたお前らを、俺は憎む」
顔を見なくても分かる。彼は瞳を鋭くさせ、アタシを睨んでいるに違いない。彼の膨大な殺気に、震えが止まらない。
跡部景吾と夜神薫の間には、『姫君』ですら入り込めない揺るぎない絆がある。
彼らはお互いをパートナー──己の半身と捉え、傷付くことを何よりも恐れ、拒み、厭う。
日本有数の財閥を担うことになる彼らに逆らうことは、即ち、社会的に抹消される可能性があるということ。
現に、中学時代、彼らの大切な『何か』を傷付けた者たちは、すぐに学園を追われている。
───だけど、それでも、アタシも黙っていられない。
「傷付いたのは何も薫だけじゃないわ!晴菜だってずっとずっと苦しんでた!なのに薫は何もしなかった。気付いてたはずなのに!
アタシはそれが許せない。勝手に一人で抱え込んで、自己犠牲に酔ってる薫が!
そして───二人に気付けなかった、アタシ自身にも!!」
気が付けば彼に向き直って、反論していた。アイスブルーの瞳と、視線がかち合う。もう、後戻りは出来ない。
「アタシは、薫を変えるために!自分と決別するために!頂点まで勝ち続けるわ!」
そう啖呵を切ったは良いものの、跡部の瞳は依然として冷たいまま。
「(……ハッ!アタシ、帝王に何を…)」
そう思って、踏みとどまる。いやいや、今決心したばっかりじゃない。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「「…………」」
でも、ねぇ…。何だか居た堪れなくて、アタシは180゚向きを変えてダッシュで逃げ帰った。
アタシの人生終わったかもしれない…!
▲▽▲
一方、取り残された跡部は。
「(……言ったはずだぜ、朝丘。薫がお前を『姫君』だと認めている限りは、何も言うつもりはねぇ、ってな)
───…結局、薫はすべて解ってたってわけか」
少しだけ朝丘の背中を景色に入れてから、仲間の元へ向かった。
ボソリと呟かれ風に消えた言葉の意味は、何なのか。
「どちらが勝つかなんて、愚問だな。
決まっているだろう、晴菜たちが勝つに。
──理由?おかしなことを聞くな。
そんなもの彼女たちが相棒というだけで充分だよ。
まあ、あの三人なら私の為に試合をするかもしれない。
もしそうなったとしたら、伝えておいてくれないか。
───『姫君』の誇りを失うな、とね」頂点まで勝ち続けるわ!(“アイツ”を変えてみせろ、姫君)
(────練習試合編、完結。)