GLORIOUS DAYS | ナノ

第23Q


所変わって、氷帝学園中等部テニスコート観客席。
片足だけを立てて仰向けになった初穂の姿があった。

「(…負け、た。薫に勝つ前に、負けちまった…)」

太陽に向かって手を伸ばし、ギュッと拳を握り締める。


──それを遠くから見つけた朝丘。

「(やっぱり、ここに居たのね…)」

数週間前まで過ごしていた校舎を懐かしく思いながら、初穂の行方を探していた。

「はつ…───っ」

そして、意を決して声をかけようとした瞬間。

「───無様だな、初穂」

朝丘は咄嗟に物陰に隠れた。まさか、そんな。心臓の音が大きく鳴り響く。その声に、ひどく聞き覚えがあったから。
こっそりと振り替えれば、やはりと、目を見開く。何故なら、その声の主が。



「最強を誇る氷帝が地元の域を出ない中堅校に破れ、『姫君』ともあろうお前が、まさか落姫≠ノ負けるとはな。俺はどうやら、お前を評価し過ぎていたらしい」

我らが帝王、跡部景吾だったのだから。
そして、歯を噛み締める。
落姫≠ヘ恐らく──いや、十中八九アタシのことだろう。女帝≠裏切った、『姫君』の権利を放棄した者。

「……何のようだよ、跡部」

体を起き上がらせながら、ひどく不機嫌そうに初穂が答える。だが、それすらも帝王は嘲笑う。

「お前『たち』の主からの伝言だ」

ビクリと、体が反応した。気付いている?アタシがここに居ると、気付いているの?

「薫から…?」

その時の初穂は、世界が真っ暗になったかのように目を見開いた。

『我ら』の誓いを忘れるな。惨めな姿を晒すなら、精々『姫君』の名に恥じない試合をしろ。……確かに、伝えたぜ」
「(…誓い≠ナすって?)」
「…っ、」

何なのか気になったけど、初穂の感極まりない表情に驚いて、言葉が出ない。

「(…まだ、捨てられた訳じゃねぇ。良かった…)」

その思いが、犇々と伝わってくる。


「初穂ーーー!!!」
「おい、待てっ!コイツ連れてくの手伝えよ!」

奥の方から大きく手を振って初穂の名を呼ぶのは、彼女の双子の弟である岳人。その後ろから、宍戸がジローを引き摺って来ている。………お守りも大変ね。

「岳人…」
「何だよ、元気ねぇなお前」

バシバシと初穂の背中を叩きながら励ますが、初穂は俯いたままだ。…そりゃあ、負ければ誰だって落ち込むわよ。あの子の場合、初めてだしね。それを見兼ねて言葉を発したのは、宍戸だった。

「なぁ、初穂。お前は今、試合に負けて悔しいって感じてるか?」
「…分かんねぇよ」
「そうだろうな、『お前ら』は。でもよ、初穂。勝負に負けて悔しいって思うのは、そのスポーツを真剣にやってりゃ、当たり前のことだ」
「…それは、俺が真剣にやってねぇって言いてぇのか?」
「違ぇよ。最後までよく聞け。お前が今思ってることは、もっと努力してたら≠ニか絶対に勝ちたかった≠ニか、そういうことだろ?」

視線を反らす初穂に対して、宍戸は真っ直ぐに初穂を見つめたまま。

「それが、悔しい≠チてことだよ。お前が直向きに努力して、バスケに正面からぶつかった証だ。お前が、本気でバスケが好きだってことだ」
「…!」

その言葉に初穂はハッとしたように顔を上げる。中学の頃、挫折から這い上がった宍戸だからこそ、その言葉には重みがある。

「(…そうだ、俺は何を考えていたんだ。【バスケを辞めたい】?…バカだろ、俺は。俺の、『俺たち』の覚悟はここで終わらせて良いもんじゃねえだろ。此処でその時を待つと誓ったのは、俺自身なのに)」

初穂の瞳に、光が宿った。

「………」

その様子を見て、アタシはその場を立ち去ろうとした。アタシが声を掛けるまでもなかったわね。あの子には、支えてくれる仲間が居るもの。
かつてのチームメイトと学友たちの笑顔にアタシまで穏やかな気持ちになってしまった。



「───俺様に挨拶も無しで帰る気か、朝丘」

その声が、聞こえるまでは。





本気でバスケが好きだってことだ

(氷の帝王、登場。)
(顔面蒼白危機到来、無事では済まさない)

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