第19Q
「初穂…先に謝っておくわ。アタシ正直アンタのことナメてた。晴菜となら勝てると思ってたこと、訂正する。
───やっぱ、アンタも『姫君』だわ」
初穂の気迫に圧倒されそうになったけど、アタシは平気。晴菜も固まっちゃいるけど、直に余計に勝ちたくなるはずよ。晴菜が帰ってくるまで──
「…そうかよ。やっぱ、お前は…」
初穂が何かを言い掛けて、やめる。
「?…何よ?」
「…いや、何でもねぇ」
《青(氷帝)、スローイン》
試合再開の合図がして、すぐに足を翻す。
「───さあ、もう一本いくわよ!」
初穂との、一騎討ちだ。
そこからの約3分間、二人は一進一退の攻防を繰り返した。───かのように見えた。
ハイレベルな展開の中で、二人の体力は急激に衰えているはずなのに。体力の短い初穂よりも、朝丘の方が汗の量が多い。
「初穂!」
「はいよっ」
四天宝寺がアウトオブバウンズをしたことにより、氷帝からスローインされる。一日から氷帝エース──初穂にボールが渡った。
これで、通算10回目の一対一。
「──行かせないわよ!」
だが、朝丘が葵の行く末を阻む。
「…………」
ボールを持ったまま、動きを見せない初穂。
───と、その時。
「お前じゃ無理だよ」
「えっ…?」
初穂が突然溢した言葉に、朝丘は戸惑った。
初穂の瞳は、まるで朝丘に絶望したかのように、目の前の存在を蔑んでいた。
「部活を引退してから遊び呆けてたお前に、ずっとバスケを続けてた俺が負けるわけねぇだろ。
───お前にもう、『姫君』である資格はねぇよ」
全てを吐き捨てた後、反応を示さない朝丘を抜き去り、遅れてヘルプに来た岡崎からファウルをもらった。
───バスッ
《カウント!白6番ファウル!》
四天宝寺 74―76 氷帝学園「──お前だけじゃ話にならねぇ」
初穂は四天宝寺のベンチの方を向き、白夜を指差す。
「お前も出てこいよ、晴菜。
───影の底力、見せてみろ」
白夜の表情が、固まった。
お前だけじゃ話にならねぇ(舞台から堕ちた若草の姫君)
(灰桜の姫君は、立ち上がるのか──)