GLORIOUS DAYS | ナノ

第15Q


「行けー!押せー!行け押せ氷帝!」
「ディーフェンス!ディーフェンス!圧勝ディーフェンス!」

──所変わって、氷帝学園高等部体育館。
四天宝寺高校と氷帝学園、両者一歩も引かない白熱した戦いが繰り広げられていた。第3Q開始時点で42-51、得点差は9。氷帝がリード出来ているのは、単なる実力の差である。

いくら『姫君』が二人いるとはいえ、その二人──白夜晴菜と朝丘萌未だけで試合をするわけではない。バスケはあくまで5対5のチームプレイ。白夜と朝丘以外の四天宝寺のメンバーは、いきなり戦うことになった『姫君』に気圧され、実力を発揮できないでいる。

「ここが勝負所や!踏ん張れ!ハンズアップ!」

四天宝寺監督──白石龍之介が怒号を飛ばす。
言わずもがな、あの白石蔵之介の親類であり、元は男バスのスター選手であった。だが、高校最後の大会で肘を痛め、選手としての道は閉ざされた。それでもバスケを諦めきれなく、サポーターとして関わることを決意した。

「ディフェンスも守るだけやったらアカン!攻めろ!」

そんな彼の采配は、確実なものだ。現に、四天宝寺は彼を監督──正確に言えば外部コーチ──に置いた五年前から、近畿大会優勝候補筆頭である。

「──させないっての!止めれるもんなら止めてみろよ!」

だが、それを嘲笑うかのように点を重ねる、向日初穂。


──ビュ…ッ

「く…っ(速い…!追い付けない!)」

1on1を仕掛けようにも、向日の体は既に通り抜けている。
いくら『姫君』が一つの方向性にしか才能をもたないと言っても、いくら跳躍力が優れているといっても、あくまで『姫君』。その身体能力は、化物染みている。


──バスッ

「よっし!」
「ナイシュー初穂!」
「次もその調子でガンガン攻めな!」
「うぃっす!」

42-53。ついに、点差が二桁になった。


──ビーーッ

《四天宝寺高校、タイムアウトです》





「(──何で、このままやと、負けてまう…!)」

白夜は焦っていた。このままじゃ、負ける。負けるということは即ち、『姫君』の名を汚すということ。『姫君』の名を失ってしまえば、薫に追い付けない。

「……晴菜、」


そんな白夜の様子に気付いた朝丘が声を掛けるが、白夜の視線は向日にしか向いていない。当の向日はその視線に気付くが関係なしと言わんばかりに背を向ける。
──もう、仲間ではないと、敵だと言われた気がして、動けなかった。

「晴菜、しっかりしてよ」
「………」
「晴菜」
「………」
「──晴菜!!」
「っ、萌未…?」

白夜の肩を力の限り掴み、無理矢理視線を合わさせる。

「薫に勝ちたいのは分かる!だけど、ここにいないヤツを意識したってしょうがないでしょう!?今、アタシたちが戦っているのは誰なのよ!!目の前の勝負に集中しなさい!!」
「萌未…」

その場に居た者はほとんど驚愕した。ギャラリーは皆、氷帝生ばかり。『彼女達』の中学時代を知っている。だからこそ、信じられなかった。
──朝丘萌未が夜神薫を敵視しているのは、当時白夜晴菜と幼馴染みであり一番の親友であった自分から、白夜を盗られたと認識しているからだ。
朝丘は、白夜には甘い。それは、氷帝の者なら噂でも聞いたことがあるほど浸透している事実。


それなのに、今。
白夜自身も溺愛されていると自覚している朝丘に、掴み掛かられている。

それを信じず、何を信じろというのか。





「(──…そうや、ウチは何しとんねん)」

たった今、仲間を信じると決めたばかりじゃないか。

「白夜」
「!…カントク、」
「お前はもう氷帝の6人目やないやろ。四天宝寺高校の白夜晴菜だ」
「…っ、はい!」
「っし、そんじゃ逆襲といこうや!


 ──行ってこい!」

「「「「「はい!!」」」」」


ウチはもう、一人やないから。
そろそろ前に進もうか。





目の前の勝負に集中しなさい!!

(面白くなってきたじゃねぇの)
(──傍観者は、嗤う)

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