GLORIOUS DAYS | ナノ

第14Q


《それでさー、初穂のヤツ何て言ったと思う?》

電話口の向こうでひたすら喋る男に、よく疲れないな、と思う。かれこれ、10分以上は話を続けている。

《見せてもらおうじゃん、だってよ。……やっぱ俺らって双子だよなぁ》
「…そうだな。私はお前達以上に似ている双子の男女は見たことがない」
《だろ?薫もそう思うよな!》

内容的には至極どうでもいいが、返事をしないとさらに話が長くなるのは明白だ。早く本題に入ってくれないか、いかんせん前置きが長すぎる。

「(私にこんなことを思わせるのはお前達双子ぐらいだ…)」

思わず、ため息が溢れてしまう。最も、その双子の一人は話に夢中で気が付いてはいない。

《初穂がいると学校も楽しいんだよなー》
「………」

ため息が溢れてしまうのは、相手をするのが疲れるからじゃない。そんな理由だったら、もうとっくに関係を切っている。そんな軽い問題じゃない。それだけだったら、どれだけ楽だったか。

──双子が故に、お互いに無意識に依存している。

それが、向こう側の男──向日岳人とかつてのチームメイト──向日初穂の問題点。
何度も解決しようとしたが、無駄だった。無理に離そうとすれば、精神が崩壊しかねない。初穂が氷帝学園に残ったのはそれを阻止するためだ。

《薫も今からでも良いからウチに戻ってこいよ──って、うおっ!?》
「………」

バシッ、と音がして、先程まで煩わしくしていた岳人がギャーギャーと喚いている。近所迷惑を考えろ。

《──悪いな、薫。岳人がうるさくて》
「…景吾か」

少しして、岳人とは違う人物の声が聞こえてきた。


跡部景吾。中学時代、常に隣にいた人物。【アイツ】とはまた違う意味で、特別だった──否、今も特別である男。「氷の帝王」と称される、私のパートナー。


《岳人、もうじき試合が始まるから静かにしてろ。………オイ、寝てろとは言ってねぇ!ジローも起きろ!》
「…はぁ」

中学時代、毎日のように(一方的に)交わされていた会話には、最早呆れるしかない。そして、苦労人度がさらに増した友人に、心の中で合掌した。

《…ったく、亮、後は頼む。
 ──待たせたな、薫》
「まったくだ」

もとより、一番ぶっ飛んでいたのはこの男だったが、昨年に色々あって、性格諸々丸くなったらしい。今では、仲間のことを名前で読んでいる。
はじめはあの俺様キングに何が…と心配していたが、今のこいつも嫌いじゃない。

《…ついさっき、四天宝寺と氷帝の女バスの練習試合が始まった》
「…なるほど、岳人が騒ぐ理由はそれを伝えたかったからか」
《アーン?何だ、えらく冷静じゃねぇの》

景吾の挑発するような言葉に、鼻で笑って返す。


【アイツ】とはまた違う意味の特別──それは、ライバルであること。
競技は違えど、学園に貢献したいという意志は同じ。幼い頃から共に育った家族、お互いを支え合う仲間でありながら、常に高め合う好敵手でもある。それは、私が学園を去ってからでも変わらない。そして、これからもずっと。


「これでも驚いているさ。遅かれ早かれ、『姫君』がぶつかり合うとは思っていたが──まさか、こんなに早いとはな」

四天宝寺には、晴菜と萌未が。
氷帝には、初穂が。

影と神童──否、今は光、か。


だが、『姫君』が二人いるとはいえ、そう簡単に初穂に勝つことはできない。
それに、氷帝学園にはあの人もいる。
──かつて、私達を率いたことがある強者が。



「バーカ、一年がんな細かいこと心配しなくていいよ。
 私に任せておきな、お前が背負ってるもの全て」


私が主将として目標とする、私が最大の敬意を払う人。
果たして、スミレ達に、あの人に勝てるのか。そんなもの、愚問だ。

「勝敗は目に見えている。私は何も言う気はない。
──まぁ、どちらが勝とうが私には関係ないさ。誰が相手であろうと、叩き潰すのみ」

だから、精々『神代の姫君』の名に恥じない試合をしろ。
元主将の言葉など、これで事足りるのだから。





勝敗は目に見えている

(見る価値など、何処にもない)
(元仲間でも──今は、敵だ)

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