第11Q
学年が変わり、氷帝生を名乗れなくなった4月初日──
「……分かりました。それが監督の意向ならば、仕方ありません」
その日の練習が始まる直前、監督に呼び出されていた私は、ある指示を聞いて、内心驚愕していた。それは、余りにも突然で、衝撃的で、予想通り過ぎた。
「君ならそう言ってくれると思っていたよ──薫君」
監督は薄らと笑みを浮かべて、わざとらしくそう言った。
***
「………ねぇ、雪音」
「何さ、桜子」
私は今日の朝から気になっていたことを、隣に立っていた雪音に尋ねた。
「今日の薫、機嫌悪くないかしら?」
──そう、何だか薫の様子が一段と可笑しいのだ。
纏うオーラが荒々しくて部員もビビってるし、コーチに対しても刺々しいし。何だか、八つ当たりしてるみたいね。
見てる此方がハラハラするわ。何かあったのかしら?
「……別にそうは見えないけどね。練習だっていつもと同じだし。アイツのメニュー鬼畜過ぎるわ」
「………そう」
だが、雪音にはそうは見えなかったらしい。というよりは、私だけが感じていることだが。
「(…まぁ、練習に支障はないから構わないけど)」
雪音曰く鬼畜なあの子のメニューのおかげか、最近は力がついてきたことを実感できる。たった一週間で此処まで体感できるなんて、本当に凄いわ、あの子。味方で良かったと、これ程安堵したことはない。
「──今日の練習はここまでだ」
はた、と気付いたときには、既にコーチの話は終わっていたらしい。
「最後に、監督からの伝言がある」
ザワッ、と部員達が騒ぎ始める。
当たり前だ。監督が姿を著すなんて、滅多にあることじゃない。薫と監督は、いつ会ったんだ?
「今日から、私が現主将に替わり、新主将を務めることになった」
「…!?」
主将!?いきなり!?
薫の言葉に、私達は動揺を隠せない。
「──アタシは別に構わねぇけど」
「萩歩!?」
貴女まで…!これじゃ先輩としても面子がもたないじゃない!
「桜子。ここは実力がモノを言う世界だ。一番強い奴が上に立って何が悪い」
「そ、それはそうだけど…」
萩歩の言葉に、最早返す言葉もない。
「アタシはとっくに薫を認めてる。
──これからは、仲間(チームメイト)だろーが」
「!」
その言葉に、ハッとする。
──そうね、そうだわ。私ったら、『神代の姫君』の名前に囚われ過ぎて、大切なことを忘れていたわ。
バスケはあくまでチームプレイだ。5人で力を合わせることが、勝利への鍵。
私、何でそんなことを忘れていたのかしら。
「自分たちの実力を驕んなよ!最後まで此方も全力で迎え撃ちな!」二年前、私の中学最後の全国大会で『彼女たち』と戦った時の薫の言葉。その裏に隠されたのは、『お前たち』がいて負けるはずがないという、『彼女たち』に対する絶対的な信頼。
薫の強さは、才能だけじゃない。
無鉄砲なほど、不器用すぎる信頼。
己の意志を最後まで貫く、真っ直ぐな心。
──私だって、とっくの昔に認めていた。惹かれていた。
だから、歓迎しようじゃない。
「……薫、私たちの運命を任せたわよ」
笑って、君を迎え入れよう。
「──当然だ。安心して任せろ。
この私に、勝利以外の運命など有り得ない」
私たちの運命を任せたわよ(やっと、本当の仲間になれた)
(貴女を、私達で支えましょう)