第9Q
──キュッ
──バンッ バンッ
──バシュッ
「ナイッシュー!雪音!!その調子その調子!」
「ナイスアシスト、萩歩!」
自陣に戻り、素早くディフェンスに付く。ハイタッチなんてものはしない。だが、味方の士気を上げるために、声を出すことは続ける。それもこれも、過剰の慢心と謙遜を抑えるため。というよりは、そんなことをする暇があるならさっさとディフェンスに戻れ、試合に集中しろという篠原コーチの指示だ。別にハイタッチぐらい良いだろう、逆にその次も決めようと思えるのに。感覚可笑しくないか、コーチ。
「ここからが勝負所だ!気を抜くな!」
「分かってるっつーの!ナメないでよね、私だって伊達じゃないんだから!」
「1年は1年らしくしてろ!お前が出る幕はねぇよ!!」
私の言葉に、キレて掛かる二人。この二人は感情が高ぶるほど実力を発揮する。だからこそ、扱いやすい。
──私が練習に参加するようになってから、約一週間以上が経った。3対1で敗北してから、何かと突っ掛かってくる『幻影の五花』春風桜子・秋田萩歩・冬島雪音。それを適当にあしらいながら過ごし、上下関係も関係なくなってきた今日この頃。
………何だか、着々と【アイツ】に近付いているのは気のせいか。それは御免被る。私は【アイツ】程絶対王政を強いるつもりはない。
「…やっぱり貴女達を相手にするのは疲れるわ」
そう言って長い深呼吸をするのは、春風桜子。
「チーム分けをしたのは公平にじゃんけんで、だろう?ならば文句はないはずだが」
「貴女が敵になった時点でこっちは負けが確定するのよ!!」
「何を言っているんだ、私だって負けるかもしれないじゃないか」
「そう言いながら勝ってるのは誰よ!これで何回目よこの応酬!」
ゼェハァと荒い呼吸を繰り返し、ついに噎せた春風。秋田に背中を撫でられているが、余計に悪化している。
おい、むしろ叩いてるだろう。それは悪化するはずだ。
「………ハァー…もう嫌だ。練習メニューから3対2外してくれないかしら…」
──そう、今私達がこなしているのは、3対2。
1チーム5人で組み、その中で繰り返しチームを替えるという方式だ。レベル差があるため、レギュラーだけでやるのが鉄則。なのだが、そのもう一人はというと──
「ハァー…ハァー…グフッ!うげほっえほっ!」
春風よりも酷い状態になっている。
彼女は中学の時からバスケ部で、唯一残っている3年生だ。高校に入ってきてからは外部からやって来た選りすぐりの猛者ばかりである中、自信を失い辞めていく内部の者が跡を絶たなかった。その中で、何の取り柄もないこの人が生き残れてきたのは奇跡に近い。
──はっきり言ってしまえば、私はこの人に『何か』を感じている。そう、これは【あの子】を見つけた時と同じ。この人には、【あの子】と同じオーラを感じた。
「(…だが、これは、期待はずれだったか?)」
そう思ってしまった時──。
「だぁー!!何だってんだよこんにゃろぉおお!!」
「!?」
突然叫び出したその人──切原青子に周りは驚愕し、私も例外なく驚いてしまった。
「何であたしがレギュラー枠に入ってるわけ!?意味わかんないし追い付けるわけないっしょ!!あたし一般人だからねっ!?」
「「「アタシ/私/ウチらも一般人ですけど」」」
「………全員そうだろう?」
「「「「いや、アンタは違う」」」」
全員が全員、同じタイミングで首を横に振った。酷いな。
「ふざけるのもそこまでだ。休憩5分を挟んでから次は5対5に移る。メンバーはお前達で決めろ。以上だ」
「分かりました」「「「よっしゃ!」」」「……チッ」
『(((((反応分かりやすいなぁ……)))))』
他の部員達に生暖かい目で見られているとは知らず、ワイワイと騒ぐ(のは主に冬島と秋田だけだが)。それに気付いているのは夜神だけだった。
………ところで、コーチは「以上だ」が口癖なのか?
アンタは違う(これは序章だ、と誰かは言った)
(そんなもの、有りはしないのに)