■ 負けず嫌いは明日に吠える。

「ヤマケン君、相変わらずまた迷子なの?」
歩きかけた足を止め声のした方向に目を向ける。
夕暮れ迫る街中に高校ン時と変わらない鉄面皮の女がいた。
「……別にそんなんじゃねえよ」
もう何度、聞いた言葉なのか。
俺は明後日の方向に顔をそらした。
「っていうか、出会い頭にそういう挨拶はどうかと思うけど。」
ほんの少し嫌味をにじませれば鉄面皮の女はあぁと頷く。
「あなたが同じ所をぐるぐる楽しく歩いてるの、邪魔するのは躊躇われて。」
「っ、見てたんなら声かけろよっ!」
そう怒鳴れば水谷は微かに笑った。

俺と水谷雫の関係は『友達』
初恋の相手に2度、告ってフラレて、それでも諦めきれなくて。
『友達』としてそばにいることを選んだ結果だ。
それはお互い違う大学に入ってからも続いていた。
高校の頃は予備校や、ハルの従兄弟が経営してるバッテイングセンターに行けば稀に会えることはあったが今ではもうこちらから野暮用という口実でしか会えなくなっていた。
けれど……ごくたまにこうして出会い頭に水谷に会うことがある。
水谷は、俺が歩いてても(迷ってても?)どうも面白がってるフシがあってすぐには声はかけない。遠目で俺を眺めて不意打ちのように声をかける。
今みたいに他人なんて興味ないって表情(かお)で。

「それであなたは合コンに行く途中だったわけね。」
「ま、そういうこと。」
水谷は買い物帰りらしくビニール袋を4つ持っていて、俺はその内のふたつを持つことにしてついていくことにした。
道中、迷った経緯を当たり障りなく話した。
携帯の時間を見ればもう間に合わないことは確実だったから、諦めた。
合コンなんて後ででも都合がつくだろ。
悪友共には怒鳴られるとは思うけど、まぁいつものことだ。
「水谷サンは……この辺で特売セールでもあったの、こんなに買い占めるってことは?」
たくさんの食料や何やらを見ながら俺は聞いた。
それは結構な重さでビニール袋の紐が伸びそうだ。
「えぇ。今日は全品会員価格5%OFFで、ポイント10倍ももらえるもんだからつい夢中になってしまって余計なものまで買いすぎた。」
「へぇ……」
水谷の表情や言葉はクールだが、どことなく満足気。よっぽど嬉しかったのが伺える。
その情熱をそこら辺の女みたいに、身だしなみやおしゃれに使えばいいのに。俺はげんなりした。
「そういやハルは一緒じゃないんだな?」
ずいぶん見ていない幼馴染み。こういうのすすんでついて来そうなものなのにその姿はない。
「あぁ、ハルは行方不明。」
「ハァ!?」
俺は声をあげ水谷を凝視する。
「行方不明っていつから、」
「ん〜〜?一ヶ月前から?」
記憶をたどるように水谷がそういった。
おいおいおい、またかよ!俺は天を仰いだ。
大学生になってからハルは時々行方不明になる(風の噂で聞いた)
バカだから後先考えずに行動して何事もなかったかのようにひょっこりと戻ってくるのを繰り返している、らしい。
俺はイラつきながら。
「アンタ止めなかったのかよ?」
「気づいたら連絡取れなかったんだから仕方ない。」
さも当然という風の水谷に頭が痛くなってきた。普通の恋人同士なら連絡もとりあうだろう。
一方的に連絡もないと心配するのが当たり前なのに、今まで気づかないなんて。
「それで?勉強に熱中し過ぎて気がついてませんでしたってオチ?」
水谷は何も言わない。無言は肯定なので俺は盛大にため息をついた。
あぁ、もう本当にこの女は勉強しか頭にない。こーいうヤツだってのはわかってはいたんだがな、高校の頃から。
しばしの沈黙の後、水谷が口を開いた。
「――でも、ハルはちゃんと戻ってくるんだし心配することはないと思ってる。」
「……」
ハルは戻ってくると信じてる。外野がなんといおうとそれは確信なんだろう。
水谷とハルの見えない絆を示されてるようで、俺は顔をしかめる。
でも、その関係が恋人ってなら平気で彼女をおいてどこにも行ったりしないし、やらない。
俺だったら、
「なぁ」
考えるより先に水谷の左腕を捕まえた。
振り返る水谷が怪訝な表情をして俺を見る。
「何?」
「今更だけど考えなおさない?」
「?何を」
「俺と付き合ってよ。」
『俺』だったら水谷を寂しがらせたりはしないのに。
口を滑らせてから俺はヤバイと思った。
もう二度と水谷にいうつもりはなかったのに。
「え?付き合うって……どこに?」
「……」
水谷の意味が全然わかってないって、顔。そして見え隠れする面倒だという気持ちに俺は苦笑した。すかさずその額にデコピン一発かましてやる。
「……っ、何するのっ?!」
水谷が右手で額をかばうように涙目で睨みつける。
「付き合えっていうからどこに?って聞き返しただけなのに。」
そうだな。確かにいきなりデコピンするなんてわけわかんないかもな。
俺はフンと鼻で笑った。
「ハルが帰ってきたらいってやれば?私も一緒に連れてけって。」
ズイっと持っていた買い物袋を水谷に差し出す。
「たまには素直になれば?」
「ヤマケン君」
「さっき俺にいったみたいにそういえば置いてかれないし、ハルだって喜んでアンタ連れてくよ。」

「じゃあな、水谷サン。」
彼女の家はもうすぐそこだ。
これ以上そばにいてもしかたない。俺は吐息をついて背中を向けた。
そばにいれば余計な事を喋ってしまいそうになるし。
「ヤマケン君!待って。」
歩き出そうとしたら右腕を引かれる。
肩越しに水谷を見やれば、何かいいあぐねている様な顔をしていた。
「……何?」
「あ、その……、」
水谷が一瞬、目を逸らし逡巡した後ハニかむように微笑む。
「あなたには私はいつも助けられてるみたい。」
その言葉に、その笑顔に胸がざわめく。
なんとなく気恥ずかしくて俺は水谷から目を逸らした。
「ハルが帰ってきたら言ってみる。ありがとう。」
この女は、ホント……残酷だ。
「礼なんかいわれる筋合いねーから。」
疼く心を拳を作ることで押し込めて俺は笑った。

そうさ今更、水谷に未練なんかないはずだろ。
頭も見た目も良くて将来も約束されてる俺に、見向きもしない女なんか願い下げだ。
いつか、周りが羨む様な彼女を見つけてやる。
いつも笑って、おしゃれで、きれいで、優しい彼女を。
夕闇迫る中、俺はそう誓いを立てていた。




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