「もうすぐ終わるな。」

腕時計を見て彼がつぶやく。
カチカチと微かな音をたてて秒針は時を重ねようとしていた。

頭上には手に届きそうな闇色の天蓋。
僕らは高層ビルの一番、空に近い場所に座って街を見下ろし、彼は片膝を抱えて眼下で流れる光の帯を見つめている。
下から吹き上げる風に髪を弄られながら僕は彼を見て頷く。

「そうだね。彼らも楽しみにしているかな?」
「さぁな。」

あの、眠らない人々も今か今かと目覚める瞬間を待ちわびているのだろうか。いつもより、もっとざわついているように見える。

「いつも思うが、こうしてまた同じ時間を共有するのが不思議なんだよな。」

僕らは途方もなく長い長い間こうして時間が過ぎるのを見届けてきた。
いつから始めたのかも、覚えていない。
気がつけば輪が回るように時間を共有している。

「もう行くぞ。」  

彼が立ち上がった。
羽音が響いて彼の背後で大きく広がる、夜目にも鮮やかな純白の白い羽根。
彼の体がふわりと宙に浮いた。 

「睦月を迎えに行くのかい?」
「アイツはのんびり屋だからな、俺が迎えに行かないと目覚めないんだ。」
「それは仕方ないさ。彼女はこれから生まれ変わるんだからね。」

どこか途方に暮れるような彼の言葉に僕は苦笑する。

「―じゃあ、行こうぜ。」

スッと左手が僕に向かって差し出される。
僕はその手をまじまじと見つめた。

「なんだい?」
「お前だって逢いたいだろう?十夜。」
「連れてってくれるの?氷月。」

とんでもなく、僕はその彼の言葉が嬉しくなってしまった。
頬を少し染めて氷月は視線を逸らす。

「アイツはお前のこと気に入ってるからな!」

あぁ、やっぱり君は優しいよ。
そうやって冷めたフリしてても。

「じゃあ、遠慮なく。」

僕は微笑んで氷月の手をとって羽根を広げた。

暖かな光を連れて、もうすぐ彼女は目覚める。
旧い年と新しい年を繋ぐ扉を開く為に。


fin.
199xxxx 初出
20121210 加筆修正
20121211 一部修正

*お題にそうかは微妙だけど、師走という事で雰囲気だけでも感じてくれたらいいな。
title by "息をひそめるものども"手帖提出。









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