★存在し、飼われることにまして、殺されることが豪奢★

「暗黒騎士の試験に合格したんだ。明日、施術を受ける。
それをカインに伝えようと思って」
セシルは兵学校時代と全く変わらない無邪気な笑顔を向けながら、カインにそう言った。
どこか諦めの漂うその瞳を見ると、カインには「お別れを言いに来た」という風に受け取れた。
この場面を自分は一度、既に体験していた。
カインは思い出していた。
あれは、セシルが陸兵隊に入る前のことだった。
兵学校を卒業して、各々の進路へ進んで行く時、セシルはカインに相談することも無く、陸兵隊へ入ることを決めていた。
そして、入隊の手筈が全て整った後、カインの所へ突然やってきて、同じようなことを行った。
「陸兵隊に入ることにしたんだ。明日、入隊する」
確か、そんなようなことを言っていた。
カインは少し遠い目をして昔を思い出していた。
セシルは自分の未来を自分一人で決めたがっていた。

セシルが踵を返して立ち去って行く。
それを追いかけるようにローザがつき従う。
そして、懇願するようにセシルに縋りついていた。
なぜ、それをもっとはやく言ってくれなかったの。どうしてそんな大事なことを。
暗黒騎士なんて危険すぎる。なぜ自分を犠牲にするの。自分を傷つけてばかり。
私がどんな思いでそれを見てきたか、考えたことがあるの。
ローザの悲痛な、叫ぶような声が、聞こえてきた。
そんなローザを宥めるような顔をして、セシルは作り笑いを浮かべている。

カインは気付いていた。
セシルが自分を犠牲にする理由。引きとめるローザを突き放すような態度を取る、その理由が。
カインは一瞬、セシルに憎悪の視線を向けた。
セシルはその視線を避けるように瞳を伏せた。
セシルはカインがローザを想っている、その気持ちに気が付いていた。
しかしローザはセシルのことを想っていた。
自分はローザの様な立派な女性から愛されるような人間ではない。
ローザは、本当なら、カインの様な男性と将来を築き上げて行くべきだった。
自分の持ち得ないものを、カインは生まれながらに持っている。

セシルはなるべく二人から距離を置こうとしていた。
陸兵隊に入れば、長い任務でバロンへはなかなか帰って来られない。
それに、過酷な任務で命を落とす可能性もある。
しかし、自分は死ななかった。
バロンへ帰る度に、カインは冷たい眼差しで、セシルを迎えた。

暗黒騎士だったら、陸兵隊の任務よりも、死ぬ可能性が高いのではないか。
セシルにとって、それが一番の希望だった。
体に醜い傷が付けば、あの禍々しい甲冑を身にまとえば、ローザは怖じ気づくだろう。
自分を想う気持ちもすぐに冷めてしまうだろう。
そうして、カインの元へ行けばいい。
そうなれば、もうカインのあの憎しみを含んだ眼差しを浴びなくて済む。


カインはその夜、セシルの部屋を訪れた。
窓辺にひじを付いているセシルに後ろから声をかける。
「セシル・・・」
その低くて美しい声を聞いて、セシルは勢いよく振り返った。
来てくれた!
セシルは歓びが溢れ出てしまいそうな表情を懸命に隠し、無表情を装った。
「カイン・・・」
カインの真っ直ぐな瞳に見つめられ、気恥ずかしくなったセシルは視線を落とす。
大きな瞳が伏せられ、銀色の睫毛が頬に影を落とす様子はあまりにも扇情的だった。
支配欲を掻き立てられる光景。
セシルは自分と目が合うだけでも息が詰まりそうになる。
カインは意地悪そうに笑うと、セシルの顎を掴み、無理矢理自分の方を向かせた。
青い瞳の中に自分が映っている。
セシルの震えが掴んだ顎を支える指先に伝わってくる。
カインはセシルに口づけた。

「ふっ・・・・んぅ・・・」
カインの舌にを絡められ、セシルが身悶える。
必死でしがみついてくるセシルを見つめながらカインは思っていた。
―自分はセシルを愛することもできるはずだ―
珍しい銀色の髪。真っ白な肌。そして神秘的に輝くすみれ色の瞳。
兵団の中でセシルのことを知らない者はいなかった。
誰もがセシルに触れてみたいという欲望を抱いていた。
カインの目から見てもセシルは美しかった。
そして、セシルはカインを愛していた。
自分の身を捧げ尽くしても良いと思うほどに。

セシルのブラウスを半ば引きちぎるかのような強引さで脱がして行く。
月明かりに照らされたその裸体は真っ白で、光り輝くばかりだった。
詩人を気取った騎士の一人が、セシルをダイアナに例えた詩を作っていた。
そんなことを思い出す。
カインがセシルの首筋に口づけると、セシルはそれだけで声を上げた。

こののたうつ純白の体に、槍を突き込んでやりたい。
詩人はセシルの銀色の髪が豪奢だと称えた。
しかし、カインはその詩人を憐れんでいた。
セシルの本当の美しさに気が付いていない。
その銀色の髪が自らの血で汚れる時、その瞬間がこの世で一番豪奢な時だ。
カインは思っていた。

自分が愛しているローザから想われていることが、カインにセシルを憎ませているのではない。
この健気な瞳、自分の手に愛撫されてくねる体。
そういうものがカインに気に障った。

「あ、カインッ・・・痛ッ」
乱暴に脚を開かせると、カインは早急にセシルのそこへ突き立てた。
「はぁ・・・うぅ・・・」
一生懸命、体の力を抜き、カインを受け入れようとする。
きつく瞑った目からは涙がにじむ。
「くぅ・・・あぁ・・・」
白い腿に血が滴る。
その血がシーツへ垂れて行く様子を見た時、カインの欲望は更に煽られた。

セシルを剣で刺し貫く夢を見て、夢精することがよくある。
無邪気に笑うセシルに立ちはだかり、剣を構える。
そして怯えた顔をするセシルの体を剣で貫く。
セシルは情事の時ような官能的な表情で、その体から血を滴らせ、絶頂を感じているかのように体を仰け反らせ、身をよじった。

薄く目を開けたセシルは、カインのぎらつく瞳を見た。
すっかり怯えて歯の根が合わなくなってしまったセシルを見たカインは、悪魔の様な笑みを湛えながら優しく愛撫した。
その大きな手が髪を撫でる。
恐ろしい容貌とは真逆な、いたわる様なその手付き。
セシルな玉の汗を額に浮かべながら、なんとかカインを受け入れた。

ゆっくりを腰を引くと、セシルの血が自身に纏わりついてくる。
蒼白な顔をしてセシルはカインを見上げている。
浅い呼吸を繰り返し、衝撃に耐えている。
カインが腰を打ちつける度に、血が飛び散る。
「ヒッ、うぅ・・・」
セシルが自分の膝裏に手を差し込み、体を抱えるようにする。

「カインッ、い、いやっ・・・」
なかなか快楽を拾い上げられないセシルに焦れたカインはセシルの前を掴むと早急に梳き上げた。
「は、うぁ・・あ、あぁ」
強制的に絶頂へと上り詰められ、セシルは解放するとともに涙を流した。
濡れた瞳で伺うようにカインを見る。
―こうしている時だけ、セシルを支配していられる―
カインは思った。
日中、セシルはカインを避けるようにしていた。カインの手の届かないところへ逃げているようなところがある。
兵学校を卒業した時から、セシルはカインとは別の道を歩んでいた。

「ああ、待って、や、あ、あぁ」
カインはセシルの腰を抱え直すと、激しく律動を始めた。
一度達して弛緩した体を存分に貫く。
奥まで突かれるごとに、セシルはカインに自分を暴かれているように感じていた。
カインは自分の想いを嘲笑っている。
その想いを胸の奥に隠すように生活し、暗黒騎士になろうと決めるまで追い詰められた。
カインはセシルの胸へ、無遠慮に手を突っ込み、ひた隠しにしてきたその心を暴き立て、手のひらの上に乗せてじっくり検分していた。
「もう、もうやめて・・・い、やぁ・・・」
弱弱しい声を上げて、絶頂に達すると、セシルは気を失った。
カインもセシルの中に欲望を放つと、セシルの中から出て行った。

血の気を失ったセシルを眺める。
あの詩人にも見せてやりたい。
セシルはこうなっている時が一番豪奢だ。
カインは満足すると、意識の無いセシルの唇に口づけた。
労わるかのように優しく、そして深く。

★☆★☆
カイン「ギャーなぜ生まれてきやがったァー!貴様のケツを八つ裂きじゃー」


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