★secret in my heart★

3日間の眠りの後、カインは目を覚ました。
目が覚めた時、カインは見覚えのない部屋に寝かされていることに気が付いた。
気分が酷く悪い。酷い船酔いを経験した時のことを思い出していた。
一体、自分の身に何が起こったのだろうか、だるい体をどうにか起こそうとしていると、
「目が覚めたか、・・・3日、同じだな」
低い声が語りかけてくるのが聞こえた。
驚いて、勢いよく振り返ると、貧血で頭がふらつき、またベッドに沈みこんだ。
「お前、セシルの兄貴の・・・」
弱弱しい声で反応するカイン。
霞む視界に銀髪の男がいる。
ふん、と鼻を鳴らし、セオドールがカインに近づく。
そして、金髪を掴み上げて、こちらを向かせる。

「お前を仲間にしようなどと思ってなかったのだがな、仕方なかった」
「仲間・・・」
「これでお前もヴァンパイアだ」
「何・・・?」
カインの思考はなかなかセオドールに追いつかない。
しかし、闇夜に金色に光る目をしたセオドールに噛みつかれ、血を吸われたことを思い出し、自分もあんな化け物になってしまったのかと漠然と思った。
「なぜ」
自分を殺さず仲間にした、そうカインは訴えかけた。
「お前もセシルを愛しているのだろう?」
カインはセシル、という言葉を聞くと、意識が覚醒し始めた。
「まさか、セシルもヴァンパイアだったのか」
セオドールがカインの髪を掴む手を離した。カインはまたもやベッドに沈みこむ。
「セシルは人間だ。あの子には手を出さない」
しばらくの沈黙。
「本当なら、セシルをお前に託そうと思っていたのだがな。見られてしまっては仕方ない」
何を勝手なことを、カインは歯ぎしりする思いだった。
「お前はもう二度とセシルには触れられない。闇の世界から、セシルを見守るのが役目だ。私と同じように」

カインの意識は急速に薄れて行った。苦しそうな呼吸が聞こえてくる。
「お前はその力を影からセシルを守ることにのみ使うのだ。そして、セシルが幸福の中に死んで行くのを見届ける。・・・そう誓えるか?」
ほとんど喘ぐようにして息を紡いでいるカインは必死で頷いた。
「そうか、お前と私は同胞だ」
セオドールの指先がカインに触れる。
あの夜のように、体の中をセオドールの精気が駆け巡る。
カインの体は力を取り戻した。

カインは体を起こすと、ヴァンパイアとなり、飛躍的に上がった身体能力を駆使して、セオドールの背後に回った。
セオドールが気付くや否や、カインはセオドールに牙を立てる。
「カイン、貴様っ!・・・うあ・・・」
金色に光る眼を意地悪そうに細めて、カインはセオドールの血を味わった。
「・・・はぁ・・クソッ・・・あぁ・・・」
平素の立派な紳士らしからぬ言葉を吐きながら、セオドールは抵抗を試みる。
満足したカインは牙を離し、セオドールを解放した。
「お返しだ」
貧血を起こし、倒れ込むセオドールを見下ろし、血を拭いながらカインは言った。
「これがセシルと同じ血か」
手の甲についた血をこれ見よがしに舐めとる。
「貴様、セシルに手を出してみろ・・・殺すぞ」
ぎらぎらと光るセオドールの目。そして、鋭い殺気がカインを取り巻く。
「手出しはしないさ。あのセシルに人殺しはできない」
そう言って、カインはセオドールの館を後にした。

遠くからカインを眺めていた時にも思っていたが、カインは予想以上に我の強い青年だった。まさかここまで自分に反抗してくるとは思わなかった。
そして、セオドールは確信した。
恐らく、彼はセシルにその牙を突き立てるだろう。
それこそ、自分の思惑だった。
できれば、セシルを仲間に引き入れるのは自分でありたかった。
セシルの血を初めて啜るのも自分でなければならなかった。

しかし、セシルにこの闇の世界をどうしても歩かせたくない。
あの優しいセシルが、もはや自分は人間ですらなく、生き血を求めて彷徨い歩く化け物になってしまったと知ったら、どんなに嘆くことだろう。
きっと、自分を酷く恨むだろう。
もしかしたら、自分で自分の命を投げ捨ててしまうかもしれない。
自分への呪詛を吐き、胸にナイフを突き立てるセシルを想像するとたまらなかった。
セシルを失って、永遠の闇の中を歩いてはいけまい。
しかし、光の中を歩くセシルは自分よりもはやく死んでしまうことは目に見えていた。
年を取らない自分を追い越して、セシルは老いて行く。
そうなれば、セシルと共にはいられない。
もし、カインがセシルを仲間にしたら、悲嘆に暮れるセシルを慰めてやれる。
自滅を願うセシルを引き留め、私のために生きてくれないかと甘い言葉を囁くことができる。
多少の後ろめたさと共に、永遠を二人で歩いていける。
これこそ、セオドールの画策だった。
カインに殺人を見られたことはむしろ都合が良かった。
セオドールの心はヴァンパイアになって以来初めて華やいだ。

[ 48/148 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -