不機嫌な副会長

 仕事に厳しい副会長の口調がきついことはよくあるが、火曜日と金曜日の放課後は3割増しだ。

 なぜか。
 考察のすえ、思い至ったのは学内放送。
 −−火曜日と金曜日の放課後は、放送部部長自ら担当している。


 金曜日。
 やはり副会長の機嫌は3割増しで悪い。

 パソコンを操作しながら飲食をしていた会計が、副会長の小言の餌食になっている中、下校時間を知らせる音楽が流れ始めた。


「今日はもう終わるぞ」


 片づけの呼びかけをすると、怒られていた会計とそれを傍観していた書記は嬉々として片付けを始めた。
 その傍らで、副会長はキッと俺を睨んでいた。


「まだ仕事が残っているというのにっ」
「特に急ぎのものは残ってないはずだが?」
「もっと真面目に取り組んだら今日中に終わるものばかりでした。生徒会長として意欲的に……」


 小言の矛先が変わったことを好機として、会計と書記はそそくさと俺をおいて帰っていってしまった。
 ……2人とも来週の仕事量を増やしてやろう。


「聞いているんですか!?」


 2人の消えたドアを見ていることに目敏く気付いた副会長はヒステリックな声を上げた。


 −−下校時刻となりました。生徒の皆さんは、速やかに下校してください。


 我が校の下校の定番曲となったゆっくりとしたクラシックにあわせて聞こえるアナウンスの声は、放送部部長のもので。


「っ、」


 その瞬間、副会長が明らかに狼狽した。


「副会長」
「なんですか」
「前から思っていたんだが、仕事の早さにこだわりすぎていないか?」


 スピードも大切だが、仕事の早さにばかり追いたてられると精神的にも疲れてしまう。


「……溜め込んで、後で慌てるよりは−−マシでしょう」


 −−下校時刻となりました。生徒の皆さんは、速やかに下校してください。


 繰り返されるアナウンス。
 曲に合わせた悠長な声を聞いて、副会長は言葉を返しながらも不自然に目が泳いでいた。


「副会長」
「なんですか」
「前から思っていたんだが」
「またですか。今度は一体−−」
「放送委員長のアナウンスを聞くと機嫌が悪くなるようだが、」


 ずっと抱いていた考察の結果を伝える良い機会だ。
 もし放送部部長とウマが合わないというなら、生徒会の仕事で放送部長と顔を合わせる機会を極力少なくしてやろう。
 


「放送委員長が嫌いなのか?」
「ち、ちがいますっ」


 反射的に否定しようとした副会長は、すぐに唇を固く閉ざして黙りこんだ。


「違うのか?」


 答えが返ってくるのをじっと待っていれば、蚊の鳴くような声でぼそぼそと副会長は呟いた。


「副会長、聞こえないのだが」
「〜〜〜! だって彼は僕を見ないと言ったんです!!」


 ふむ。
 どうしたものか。

 

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