初詣

 

 ようやく順番がまわり、賽銭箱の前に立つ。
 目的はまだ済ませていないが、長い列の中で待つだけの時間が終わったことに、ついため息が出た。

 白い吐息が寒空の下を漂う。

 隣にいる幼なじみは、かじかんだ手で賽銭用の小銭を取り出そうと財布と戦っていた。
 それを横目に眺めながら、5円玉投げ入れた。


 高等部への進学祈願という名目で、新年早々神社へ行くように家から放り出された。

 今更神頼みしなくてはいけないほど進学が危ういわけではない。
 神に縋るような暇があれば、その時間を勉強にあてたほうが堅実だ。
 そもそもこんな真冬に長時間、雑踏にのまれていたせいで風邪を引くほうが馬鹿らしい。


 −−何を祈願しろというのか。


 大抵のことは自分でできる。

 加えて、古宮の血筋は代々強運≠セ。
 嫡男である俺にも、それが備わっている。

 この強運≠もったことに感謝でもすればいいのか。
 感謝すれば何か変わるのか。

 無神論者のような考えだと自覚はある。
 だからといって、隣で黙々と手を合わせている幼なじみを馬鹿にする気にはならなかった。






「長々拝んでたな」


 帰り際、俺からそう話しかければ、幼なじみは寒さに震えながらも頷いた。


「古宮が喧嘩しませんようにって」
「は、」
「お願いしたよ」


 口うるさく注意された記憶はある。
 俺にいっても変わらないから、神頼みをしたというわけか。


「あと、無茶な怪我もしませんようにって」
「……嫌味か」


 呆れて呟く反面、気付いていた。
 幼なじみはわざわざ神社で説教するような性分ではない。
 余程心配させてしまっていたことを改めて思い知った。


「嫌味のつもりはないけど……あ、」
「どうした?」
「仁保の風邪も早く治るようにお願いしてくるの忘れた」
「……あんなもんすぐ治る」


 でも、と渋る幼なじみ。

 よくもまぁ、そんなに出てくるもんだ。
 しかも、進学とは関係がない。

 そして、幼なじみ自身のことでもない。
 −−他人についてのことばかりが。


 幼い頃から一緒にいるというのに、どうしてこうも違うのか。
 物事を捉える角度がいつも異なる。
 その度にいつも目が覚める思いをするのだ。


「そういえば、古宮は」
「あ?」
「古宮は何かお願いした?」


 その問いに言葉が詰まる。

 俺が考えているのは、俺のことだけ。
 他人のことを考えてやる余裕なんてない。
 −−自分のことで精一杯だ。


「言うわけねぇだろ」


 願うことなどないと思ったことを本当に伝えるほどの素直さは持ち合わせていない。
 咄嗟に虚勢をはる一方で、今になって1つの願いが浮かぶ。

 −−コイツがずっと隣にいますように。

 その願いさえ、幼なじみのためではなく−−。
 すべては、俺自身のため。


 

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