08
鏡の表裏(side.秋月)
『今朝は手当て、ありがとう』
教室に帰ってきた王子サマ。
はにかんだ笑みで、そう言ってきた。
『親衛隊のことは……本当に、気をつけておくから。光くんはもちろん、アキツキに……風紀にも迷惑をかけないようにするから』
何の宣言だよ。
んなこと思うくらい、要領のない言葉の羅列。
そして、
『ごめん』
謝る意味が分かんねー。
つーか、いちいち謝りすぎなんだよ。
前日脅したことは、鮮明に覚えているはず。
脅してきた相手に、自分から対峙していこうなんて思うか、ふつー。
ホント、馬鹿じゃねーの。
――ちゃんと、マーヤに謝れよ!
鳥の言葉を思い出す。
先に言われると言いづれーし。
その時は、気まずさを隠すことで精一杯だった。
あれから数日。
王子は宣言どおり迷惑をかけることはない。
つーか、教室にいる時間すらほとんどねーし。
――生徒会の仕事が忙しいらしい。
昼休みになって、食堂に足を運んだ。
鳥が後からついてきやがる。
ピーチクパーチク、うるせー。
それ以上に、食堂が異様な熱気に包まれていやがった。
「紅狼」
「その名で呼ぶなっつったろーが!」
「だって“アカネ”なんて名前似合わねーじゃん」
るせー。
人が気にしてること言うんじゃねーよ。
「苗字で呼べばいーだろ」
「えーアキヅキ?」
「アキツキだ」
「呼びにくー」
オレだって、好きでこんな氏名なわけじゃねー。
「とにかくさ、あれ何」
鳥が指差す先。
興奮気味の親衛隊。
ヤツらに囲まれた王子サマ。
一番広いテーブルを占領している異様な光景。
「“王子サマの食事会”」
「…………は?」
だせーネーミング。
だが、まんまのことが行われてやがる。
生徒会と親衛隊の交流。
ファンサービスとしての食事会。
主催者は、生徒会書記。
――王子サマ。
馬鹿馬鹿しいことをよくやる。
「……マーヤ、楽しくなさそうだな」
鳥は、人の内心を見抜く。
鳥頭なくせに、そーゆーとこだけ鋭い。
そのことに気付かずに、黄色い悲鳴をあげるヤツら。
何が親衛隊だ。
馬鹿馬鹿しくて、笑いが出る。
王子サマは、作り笑いを浮かべたまま。
親衛隊にまで気を使って、どーするつもりなんだか。
――迷惑かけない。
有言実行ってか?
馬鹿馬鹿しすぎて、笑う気すらおきねー。
1番、騒ぎの中心にいるくせに。
1番、辛そうな面しやがって。
『今朝は手当て、ありがとう』
あん時の、はにかんだ笑み。
そっちのほうが、よっぽどマシだった。
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