04
だが、平気と言わず何と言える。
苦痛を訴えれば、その時点で脆弱さを露呈させることに繋がる。
しかも今日は――、
「始業式から欠席なんて目立つだろ」
始業式。
新しい学年が始まる日。
今日は学園長の話を聞いた後、HRを受けるだけで終了するというのに、そんな短い時間さえ堪えきれず休んでしまう軟弱さを周囲に認識させたくはなかった。
「ここは、学校だよ?」
同じ年頃の子どもばかりが集まる場所でどうして気を張る必要があるのか、という疑問であり懸念が含まれた同室者の言葉。
「分かってる」
同室者の心配も、私の嫌悪すべき脆弱さも、正確に理解しているつもりだ。
それでも、
「此処は、学校なんだ」
返した言葉は、先程同室者が呟いたものとほぼ同じ内容だが、含有する意味は真逆のものであった。
同じ年頃の生徒と数十名の教師しかいない閉ざされた空間であっても、油断はできない。
気を抜いてしまえば虚勢が剥がれ、そこから今まで造り上げてきた全てが崩れ落ちる。
確信とも呼べる自信があった。
「アオちゃん、」
中等部から使われ、自然と耳に馴染む渾名を、同室者の唇が紡ぐ。
「大丈夫だ」
なおも心配する彼に、念を押すように頷いてみせた。
「もう少しで、全部終わる」
全ては‘家’のため。
受け継いできた歴史のため。
任された役目は、兄が夭逝してから10年を経ち、当主であった祖父が他界して1年を迎える今、ようやく終わりが見えてきた。
今ここで失敗するわけにはいかない。
矮小で脆弱な私はどれだけ無力か、痛いほど知っている。
そんな人間だと分かっていても、果たさなくてはいけない“役目”があった。
全ては‘家’のために。
親愛なる兄のために。
先代の祖父の遺言のために。
「大丈夫、」
繰り返す言葉は、心配する同室者に向けたものではなく、私自身に言い聞かせたもの。
脆弱さを隠し、役目を全うするように、何度もその言葉を心の中で噛み締めた。
【 木下闇 -このしたやみ-】
亭々と茂る樹木の下の薄闇
――花を踏みにじっているなんて、誰も気付きはしない
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