02

 

 その日の記憶は、実に曖昧だ。


 あの会話の後、状況が目まぐるしく変化し、思い出せるのは病院――白い部屋に白い布をかけられ横たわる兄の姿。

 死という概念を理解できていない年齢で、いなくなるなど考えもつかないほど兄は大きな存在だった。



 白い部屋には、年に数回しか顔を見ない親族までもが部屋に集まっていて、物珍しさに忙しなく親族の暗い顔を見回していた。

 皆が悲しむ中、唯一状況を把握出来ず落ち着きのない私の前に、大叔母が立った。

 見下す彼女の眼に小さく私が写っていることに気付くと同時に、バシリという音がした。

 遅れて、頬に痛みが走った。


『お前はっ! 何ということを仕出かしてくれたのだ!』


 怒りに歪んだ形相で激しく責め立てられ、私はようやく怒られていること――頬を叩かれたことに気付く。


『お前がケーキなど下らぬものを頼んだのが悪いのだ! 何故、お前のせいで』


 その白い部屋が壊れるのではないかと思わせるほどの罵声を向けられ、身を竦めて小さくなっていた。

 大叔母の言葉は否定しようがない真実であり、激情に委ねられた口調は私が引き起こした現実を目の当たりにさせた。


『お前がっ! お前のせいで……お前など――――』


 大叔母の唇から紡がれた言葉は、じくじくと蝕まれるような頬の痛みと共に私の罪を刻み込んだ。





『誕生日のケーキ、何が良い?』


 何故、覚えていないのだろう。
 何故、いらないと答えなかったのだろう。

 そうすれば何も起きずに済んだのだ。



 ――後悔は、未だ尽きない。


 

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