...Memo


2013/02/19 19:23
バレンタインにこっそり別名義で上げようと思っていたネタをさわりだけこそっと置いときます。

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 とろりと甘いバター。
 芳ばしくてほろ苦いチョコレート。
 それとも、懐かしくてやさしいミルク?
 正直、たまらないのよこの匂い!


 聖良(セイラ)は後ろの席から漂ってくる餓えを刺激する匂いに生唾を呑み込んだ。
 その拍子に舌が尖った歯に当たり、眉を寄せる。
 自制が訊いていない。
 未熟な自分を内心で叱咤しながら、背後の美味しそうな気配から意識を引き剥がした。
 キッと黒板を見据えて、いつの間にか進んでしまった板書を書き移すことに集中する。
 この拷問のような時間が終わるまであと十五分。
 気にしないようにすればするだけ、更に気になる矛盾に、聖良はついシャープペンシルを握りつぶしそうになった。
 ――どうしてこの席順なの……!
 半年前から変わっていない座席であることは棚にあげ、現在の状況を誰ともなしに罵る。
 餓えと共に研ぎ澄まされた感覚が、背後の席に座る彼が今何をしているかを聖良に教えた。
 教科書のページを指先で辿る。
 ノートにペンを走らせる。
 瞬きをする。
 呼吸をする。
 ゆったりとした脈動。
 皮膚の下、乱れることなく流れる、血潮。
 ――ああ。
 聖良は唇を朱い舌で舐めた。

 ――喉が乾く。

 ***

 ザックリ言ってしまうと、聖良は吸血の性(サガ)を持つ一族の娘だ。
 うら若き乙女なので吸血鬼などと形容するのはやめてほしいと常日頃から思っている。
 妹は「ナニその長ったらしく回りくどい中二表現、手っ取り早く吸血鬼でいいじゃん」などと言うが、そこは譲りたくない。角もないのに鬼とか哀しいだろう。ついでに万里(マリ)なんて比較的普通に思える名前を付けられた奴に中二とか言われたくない。
 ちなみに姉妹の名は世界名作劇場にハマっていた母が名づけたものだ。
 存在自体が中二的種族な上、この名前はアイタタすぎる、という偏狭なコンプレックスを聖良は持っていた。全国の聖良さんごめんなさい。
 決してこの名前自体が悪いわけじゃないのです、ただ、吸血ほにゃららと合わさるとどうにもこうにも自分の名前が痛く見えて……、
 と、よそ事を考えている間に何とか拷問のような時間は終わり、聖良は誘惑してくる匂いから逃れるため勢いよく立ちあがった。



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ホワイトデーあたりに完全版UP希望。
(希望とか言って書くのは自分だから……)


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