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幸せを祈ってくれる人



※友香里のキャラ捏造


折角の休みだというのに目の前でニコニコ笑顔を浮かべている2つ年下の妹に白石はたじたじだった。
その隣に座っている日南は正面に座っている彼女の威圧感を感じ取れていないのか、同じ様に笑顔を浮かべている。
同じ笑顔なのにどうしてこうも対極的なんだろう。
そう冷や汗をこめかみに滲ませて思っていたら「クーちゃん」と名前を呼ばれて、思わず萎縮してしまう。

「日南をお嫁さんに貰うってホンマなん?」
「ホンマやし本気や。父さんと母さんにも話はしとるし、日南の義両親にもちゃんとご挨拶はしとる。電話でやけど日南のお父さんにも」

あのプロポーズの後、自宅に戻ってからこれからの事を話し合った。
式場は雑誌やら何やらで希望プランが組めそうな場所は幾つかピックアップ出来たし、ドレスやタキシードも自分達が気に入ったデザインを選ぼうという話になった。
でも、2人だけの問題じゃないからと先に白石の両親と日南の育ての両親にしに行ったのだけど、中学時代からの顔馴染みのお陰か双方歓迎ムードになった。
白石は自分の両親の事は特に気にしていなかったけど、日南の義両親の事は気にしていたから意外に思えたけど。
日南は実の子供ではなく、義母の兄から養女として引き取っていて実の娘の様に可愛がっているから反対されるとばかり思っていた。
でも、よくよく考えてみれば反対するなら同棲させて欲しいと頼みに行った時点で反対されてるはずだと気が付いて、自分が信頼されている事に漸くと気付く。それがとてつもなく嬉しい。
しかし、目の前の妹は肩をプルプル震わせて顔をうつむかせていた。
これは彼女が怒っている時のサインだと白石自身はよく知っている。

「うちが言いたいんはそういう事やないわ!」

今いる場所がファミリーレストランだというのに妹・白石 友香里は大きな声を出してテーブルをバンっと叩き付けた。
周りの客が何事かとざわめきたつ。
じっと友香里が白石を睨みつけている隣で日南ははにかみながら友香里を牽制した。

「友香里、ここは公共の場所だから大声出しちゃ駄目だよ」
「せやけど日南!……ごめん、少し気ぃ立っとった」

日南の一言に友香里はしょんぼりしながら溜息を吐く。
実を言えば友香里と日南も白石繋がりで中学生の時から仲が良かった。
昔から事あるごとに「日南がお姉ちゃんなってくれたら嬉しいのに」なんて言っていたのに、一体どうして。
日南のバイトが終わってから式場とドレスを見に行こうと、日南のバイト先で待っていたら友香里に遭遇して、その時から不機嫌MAXの状態だったから意味がわからない。
ただ単に虫の居所が悪いのかと思いながら相手をしていたけど、バイト先の店舗から出てきた日南を見た途端少し機嫌が良くなったからそうでもないみたいだし。
結局理由が解らず仕舞いのままだったけど、昼時だったと言う事もあってこのファミリーレストランに入ろうと日南が提案して今に至る。
友香里はだいぶ落ち着いたのか、でも不機嫌なまま兄である白石をじっと見つめている。

「なんで結婚するいう事連絡せんかったん、クーちゃんのアホ」
「家におらんかったし、そない早く報告せんでもええ思ったから」
「うちだけ蚊帳の外かいな」
「あんなぁ……姉ちゃんにもまだ報告してへんわ」

白石がそう言うと友香里は「フンっ」と息を巻き、そっぽを向く。
すると隣で日南が申し訳なさそうな顔をしながら友香里に「ごめんね」と謝った。

「なして日南が謝んねん。日南に対しては怒ってへんで?」
「だって、友香里も今は一人暮らししてるけど家族になるんだからちゃんと報告しないといけないのに……。報告遅くなっちゃってごめんなさい」

申し訳なさそうに頭を下げる日南を見て逆に友香里が萎縮してしまっている。
何だかんだ日南と仲がいいと言っても日南は一学年年が上だし、中学の時から迷惑も掛けてしまってる。日南は迷惑とも思っていないみたいだけど。
ここまで友香里をオロオロさせられる人間は身の回りだと日南だけかも知れない。

「……ホンマ日南には適わんわ。もう気にしてへんから顔上げてぇな、日南。……クーちゃん、不甲斐ないわ。嫁さんばっかに謝らせて」
「お前が勝手に怒ってるだけやん」

そういうと足を、爪先を思い切りヒールで踏まれた。
痛みに悶絶してるとテーブルの下で足を踏まれた事なんて知らない日南が「蔵ノ介さん?」と少し驚いたように声を掛けてくる。
そりゃぁいきなり悶絶したら驚くだろう。
笑顔を取り繕って日南に「大丈夫」と返すと不思議そうな顔をされた。

「なーなー日南!式は角隠し着るん?あっ、やっぱりドレス?」
「ドレスだけの予定だよ。神前式って何だか苦手で……」
「何か堅苦しいもんなぁ。それに日南、外国育ちやし。今から日南のドレス姿見るん楽しみやわぁ!」

「お姉ちゃんのドレスも綺麗やったし、日南も絶対綺麗や」なんて言う友香里の表情はまるで絵本のお姫様に憧れる少女のようで。
日南が日本に帰国してすぐ白石のお姉さんも式を上げて、日南も急遽式に参加させて貰ったけど確かにとても綺麗だったのを覚えている。
元々綺麗な人だけど、息を忘れるくらいの美しさだった。
一方で大阪の女らしく気が強い友香里ばかり見てきた白石からしたら珍しいものを見た気になる。

「私も友香里のドレス姿見たいな!こんなに可愛いんだから、絶対似合うよ」
「ホンマ?!なんや、日南に言われると照れてまうわ……」

火照らせた顔を両手で包む友香里に白石はキョトンとしている。目の前にいるのは本当にあの友香里なのか、と。
しかし、周りの客が「そろそろ休憩時間終わるから戻らないとねー」と言っているのを聞いてハッとする。
友香里には悪いけどそろそろ式場に行かなくては。今日は土曜で早く行かないと人が沢山いるかもしれない。
日南に声を掛けると日南もハッとして「そうだね」と返してくれたけど、友香里を一瞥すると何だか申し訳なさそうな顔をする。
しかし、友香里は大体の事を察したのか「うちの事気にせんとはよ行きや」なんて返してきた。

「日南のドレス姿は式まで楽しみに待ってるわ。クーちゃんのタキシード姿も」
「友香里」
「クーちゃんなら多分大丈夫やろうけど、前科あるからなぁ。日南泣かせたらしばくで」

その一言に白石はきょとんとしてから、プッと噴き出す。
自分の妹のはずなのに、何だか東京に住んでる日南のお兄さんみたいな事を言ってる。二人は会ったことが無かったはずなのに。

「当たり前や。もう日南の事悲しませて泣かせへんわ」

そう言ってから日南の方を見つめると、嬉しそうに頬を染めて微笑んでいた。
初めて出会って、恋人として付き合い初めて、同棲を始めて、もう幾分かの年月が経過しているのに未だにこうして照れて、愛してくれている日南がどうにもいじらしい。
死ぬまでずっと一緒にいて、大切にして、幸せにしてあげたい。
そう思いながらそっと、友香里の目が届かない所で日南と手を結んだ。


2016/06/18