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※事後描写有

外は既に明るくなっていて、鳥の囀りが聞こえてくる。
日南は気だるい体をもぞもぞ動かして上体を起こす。
手の甲で左目を擦りながら隣を見ると幸せそうに寝てる白石がいて。白石の綺麗な寝顔に思わず微笑んでしまう。
今日は土曜で休みだからと白石から夜のお誘いを受けて喜んで致したけど、久しぶりの行為は白熱して濃厚になった所為か体が重い。
でも、日南も今日は学校もバイトもないしゆっくりしてられる。もう一眠りしようかな、なんて思っていたら腹回りに腕が絡みついた。

「ん……日南、おはよう。早いなぁ」
「おはよう、蔵ノ介さん。小鳥のさえずりで起きちゃって。でももう一眠りしようかなって思ってた所」
「ほな、くっ付いて寝よか。俺ももうちょい寝てたいわ」

上半身裸のままの白石に抱き着かれて再びベッドに沈む。
日南はキャミソールを着てるから肌が直接触れる事はないけど腹に腹筋の凹凸が伝わってきて顔が熱くなっていく。それはもう眠気すら覚めてしまいそうな位に。
中学の時から逞しいままの白石の腕に抱かれるのは嬉しく感じていたけど、途端に少し勿体ないと思ってしまった。
今でもテニスはしているけど、やっぱり仕事がある所為か頻度は落ちてしまってる。昔は"聖書"と持て囃されていたのに勿体ない。
「プロになるのも大変なんやで。手塚クン見てそう思ったわ。それにこの仕事も興味あったし悔いはないで」なんてはにかみながら言われたら日南には何にも返す言葉なんてなくなってしまった。
白石がテニスをしている姿が何よりも鮮烈で、日南の胸にも刻まれていて、大好きな姿だった。
でも白石の人生は白石が決めるべき事で日南が口を出していいものでも無いだろう。
それに白石自身が満足してるならそれで良い。
白石が嬉しそうにしてると日南も嬉しくなる。
そんな事を考えていたら「テニスしたいな」なんて感情が溢れてきた。

「ねぇ蔵ノ介さん。午後から公園に行って少しテニスしない?」
「それもえぇなぁ。日南と久々に組みたい」
「ダブルスしたいの?」
「やって日南はダブルス専門やろ?」

くすっと笑った白石に日南は「そうだけど」と返すけど、本当はシングルスで白石の聖書テニスと試合がしたかった。見蕩れて負けるのが関の山なんだけど。

「あー、せやけど買い物にも行きたいな。この前日南に似合いそうなワンピース売っとったんやけど日南的にはどうかな思って」
「ううん、ワンピースよりショートパンツとかの方が動きやすくて好きなんだけどなぁ」

「でも、蔵ノ介さんがそんな風に言ってくれる服なら見てみたい」と言うと、白石は僅かに頬を染めた。
白石が選んでくれる服は大抵可愛いし。デザイン学校の被服科に通っていて他人事のように言っているけど。

「日南が気に入ったら買うたるわ」
「本当!?」
「……最近帰り遅くて心配させてしもてるさかい、この位はさせて」

ぎゅっと抱き締めていてくれた腕が僅かにゆるんだと思ったら後頭部を優しく撫でられる。
頭を撫でられる度に白石への愛しさがたくさん溢れてきて幸せな気分になる。
この前財前に愚痴を聞いて貰った時ついでにノロケも聞いてもらえば良かったなんて財前からしてみたら迷惑極まりない事を考えていた。


===============


お昼を食べてから公園で軽く打ち合って、それから買い物に来た。
初めて来たブティックに日南は目をキラキラさせながら店内の洋服を見回る。そんな日南を白石は嬉しそうに見つめていた。
よく姉や妹の友香里の買い物でこういったブティックに連れてこられたけど、買い物は長いし「どっちがええ?」攻撃をさんざん食らってきた所為であんまりいい思い出はない。
でも、日南が喜んでくれてる事が悪い思い出を払拭してくれてる。
惚れた弱みと言うのは本当に恐ろしい。日南が気に入った服は全部買ってあげたいくらいだ。

「日南、こっち来ぃや」
「あ、そのワンピース?可愛いね」

白石が手に取ったのはパステルピンクとエメラルドグリーンのオフショルダーワンピースで、日南は微笑みながらデザインを見ていた。
飾り気はあまりないけど砂糖菓子みたいにふわふわしたフリル使いが可愛らしい。
じっと見つめてたら「ピンクとエメラルドグリーンどっち欲しい?」と優しい声で白石に聞かれてあたふたしてしまう。
ピンクもエメラルドグリーンも可愛くてどっちにしようか迷ってしまう。試着してみたいけど白石を待たせるのも忍びないし。
普段であればちょっと悩んでるだけで声を掛けてくる店員は忙しいのか、はたまた気を遣ってくれているのか中々声を掛けに来てくれない。

「迷ってるなら試着してきてもええんやで。俺も日南がこれ着てるの見てみたいし」
「いいの!?」
「構わんよ。日南が可愛く着飾ってるとこ見るの好きやから」

ワンピースを2着とも渡されて日南は満面の笑みを浮かべながら試着室に入っていく。
早速着替えて白石にも見せてみると白石も「どっちも可愛い」なんて日南以上に悩んで、結局2着とも買う事になった。
「無駄遣いじゃないの?」と尋ねれば笑顔で「せやから無駄遣いやなくて、日南へのプレゼント」と返されてそれ以上の言葉が出ない。
ブティックを出てこの後どうしようか、なんて話をしていたら白石は日南の手を握って、照れくさそうに頬を染めていた。

「日南、もう一箇所行きたい場所あるんやけど付き合ってもろてもええ?」
「うん。蔵ノ介さんが行きたい場所って何処?」
「それはまだ言われへん。着いてからのお楽しみや」

そう言われて白石の運転で移動する。
車はどんどん郊外を外れて行って、静かな海に来ていた。
車が止まると「降りて」と言われて、おとなしく降りる。まだ海の季節ではないけど、急に海が見たくなったのだろうか。
一人で砂浜の方に言ってしまった白石の背を追いかけて隣に並ぶと、右手が白石の左手と結ばれた。
何だか少し手が汗ばんでいて震えてるけどどうかしたのだろうか。
「くら」と呼ぶと真剣な顔をした白石が「日南」と、日南の言葉を掻き消す。

「ずっと日南に言いたい事あったんや」
「なに?」
「日南が隣に居てくれんと、もう俺色々アカンと思う。日南がアメリカ行って手術受けに行ってた時、ホンマに痛感した。日南が隣におらんかったら立ち直るん遅いし、ズルズル引きずってまう」

右手をジャケットのポケットに入れ、結んだままの左手を日南の胸元まで上げる。
それが何をしたいのかわからない日南はただ困惑しながら次の白石の言葉を待っていた。
右手には紺色の小さい箱が握られていて、箱を開けるために手が解かれる。
寂しく思っていたら、開かれた箱の中に収められていたそれに呼吸を、瞬きをする事も忘れていた。
四角形のエメラルドとパールが着いた指輪。
無駄な飾りがなくてシンプルなデザインだけど可愛らしさがある。
波が打つ音だけが鼓膜を揺らした。

「日南、俺と結婚してください」

真摯な表情の白石に言葉が出ない。
嫌じゃない。嬉しすぎて頭の中が真っ新になって言葉を忘れてしまっている。
何度も「あっ……、あ」と声だけを繰り返していると嬉しくて涙がどっと溢れて来た。
この感情の昂りをどうにかしなくちゃ。そう思ったけど中々気持ちが収まらないで涙だけが零れていく。
「喜んでお受けします」。たった一言が感極まって口に出来ないのが悔しい。
白石に「落ち着いて深呼吸しよか」と優しい笑みで言われて、呼吸を整える。それすらもやっとの事だった。
呼吸が落ち着くまで約1分。その間も白石は柔和な笑みを浮かべて日南の回答を待っていた。

「勿論、喜んでお受けします!」
「ほな、手ぇ出して。手の甲上にして……」

白石の左手が日南の左手に重なると、右手で日南の左手薬指に指輪を嵌める。指輪のサイズはぴったりだった。

「日南、これからも俺の隣にいてくれてありがとうな。絶対日南の事、幸せにしてみせる」
「もう、幸せ過ぎて心臓止まりそうだよー」

まだ滲む涙を指で拭って白石を見つめる。
白石も日南を見つめてから、それからぎゅっと抱き締めた。
これからの人生も日南と一緒に歩いていける幸せを噛み締めながら。


2016/06/14