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数年越しの告白



「最近、蔵ノ介さんの帰りが遅い」

膨れっ面で日南は氷が入ったジンジャーエールをストローでかき混ぜた。
日南の正面にはテーブルを挟んで大親友の財前 光が席についている。
財前は頬杖を付いていつもの気怠げオーラを纏いながら日南を見つめていた。
気怠げと言うよりも不機嫌と言った方がいいかもしれない。

「ノロケる為に呼んだんなら帰るで阿呆日南」
「ノロケじゃなくて相談だってば。時々遅くなるなら気にはならないんだけど最近は毎日遅いから心配になっちゃって」
「あの人に限って浮気はないと思うで。白石さんにも付き合いあるんやし我慢せぇや」
「それは解ってるけど……お付き合いで遅くなる時はいつも事前に言ってくれたり、事前に連絡くれるから」

しょんぼりしながらそう言った日南に眉間に皺がよる。

「連絡なしで遅くなるん?」
「うん。蔵ノ介さんって中学の時からそこら辺しっかりしてたから、何だか不安になっちゃって。家では普段通りなんだけど」
「……」

そういえばこの前一氏と偶然仕事帰りに会って、一氏の奢りで一緒に飲んだ時に聞いたっけ。
「白石のヤツ、真面目に日南と結婚考えとってな。今日南に合う婚約指輪探してる真っ最中やねん」と。
その時は酔っていて頭が回ってなかったというのもあるけど「へぇ……」としか言っていなかった記憶がある。
でもそれは2、3か月前の話だ。いくら何でもまだ指輪を探しているとは財前も思わなかった。
でも昔から何に対しても完璧を追い求めていた白石だ。きっとまだ日南に似合いそうな指輪を探している可能性も十二分にある。
テニスやペットのカブトムシ(日南と同棲している今も飼っているらしく、現在は8代目らしい)、毒草や仕事で扱う薬品に対して並ならない情熱を注いでいるけど、日南と付き合い始めてからは日南にもその情熱を熱く、沢山注いでいる。
婚約指輪なんて相手に似合う似合わないじゃなくて、相手が喜んでくれたらそれでいい気もする。
その前に婚約指輪を渡すなんて律儀やななんて思ったけど。
財前的には選ぶのも手間だし、お金も掛かるし、それなら結婚式か新婚旅行、新居への引越しにそのお金を回したい。そう思っていた。

「光?」

考えていたら日南が不安そうに声をかけてきた。

「どうしたの、急に黙りこくっちゃって。もしかしたら蔵ノ介さんの帰り遅い理由に何か心当たりでもあった?」
「いや、ない。せやけど問題はないんとちゃう?」
「何で?」
「あの人、日南にベタ惚れなんやからきっとサプライズでも仕掛けよ思ってるんとちゃうかな。結構そう言うの好きな人やし」

「気付かんフリしてもうちょい待ってやったらええんとちゃう?」と、アイスコーヒーを一気に喉に流し込んだ。
この様子だとまだ白石から結婚の事は話をされていないみたいだし、本当にサプライズで指輪を渡そうとしているみたいだし、そうだとしたら嘘は言ってないだろう。
すると日南は「はぁ」と溜息を吐いた。

「なんやねん、その溜息」
「だって。私の方が蔵ノ介さんの事沢山知ってるはずなのに光の方が知ってる感じがして悔しいんだもん」
「アホか。ちゅーか語尾にもんてつけるな、可愛いないから」

今度は財前が溜息を吐く。
日南は中学の時から変わっていない。不安になるといつもうじうじねちねち……。
きっとこれが日南じゃなくて他の女なら躊躇なく別れてるんだろうなとは思う。

「あんなぁ、俺がお前より白石さんの事解ってるってんな事あるかいな。今の日南は白石さんの帰りが遅いんが気になりすぎて疑心暗鬼になりかけてるだけや」
「疑心暗鬼……」
「浮気やないって思ってるなら大丈夫やろうけど、気になるんなら白石さん押し倒して馬乗りにしてでも問い詰めたらええやん。同棲してるっちゅー事は結婚も視野に入れてるんやろ?そんな首にキスマーク付けられて」
「!!」

顔を一気に真っ赤にしながらバッと首を両手で抑える。
そんな日南を見ていたら胸がちりちりして、イライラしてくる。
白石が憎たらしい。日南の事が異性として好きだと自覚した時から日南の中には既に彼しかいなくて、仲が拗れる事が無いまま数年間ずっと日南を独占していて。
こんなに日南を悩ませるならいっその事奪い取ってしまおうかなんて事すら思ってしまう。
この前謙也も一緒に、4人で会った時に宣戦布告しているし。

「お熱い事で」
「こ、これは……」
「弁明あるなら聞くで?」

ポーカーフェイスをニヤリと意地悪な顔に崩す。
すると日南は「うぅ……」と唸りながら、顔を真っ赤にしたまま財前を睨み付けた。

「この前、学校の打上げで呑みに行ったんだけど呑み過ぎて記憶飛んでユウジ君に送ってもらったの。朝起きたら首周りに沢山付けられてて、蔵ノ介さんったらなんて言ったと思う?」
「知らん。続けて」
「日南が危機管理がなっとらんからお仕置きや、って。暑いのに首隠す服着ないといけないし酷いよ……」
「まぁ、気持ちはわからんでもないわ。しっかし相変わらずキザなセリフ言いよるわ、あの人も」

「日南も変わらんけど白石さんもあの時と変わらんわ」なんて、珍しく財前が郷愁に浸っているのを見て日南は頬を綻ばせた。

「何笑ってん」
「光って何だかんだ言いながら中学の時イキイキしてたなぁ、って」
「……まぁ、アホばっかやったけどそれなりに楽しかったからなぁ。日南もおったし」
「私?」

急遽別枠で名を挙げられた事で日南は小さく首を傾げた。
実を言えば日南に面と向かって告白をした事が一度も無い。
日南の中ではいつでもテニスと白石の事で溢れ返っているのを知っていたから。
だから告白して傷付くのが怖かった。日南が白石と付き合い始めた時に告白しなかった事を酷く後悔して逆に傷付いていたけど。
それに日南と親友という立場が壊れてしまうのもある意味で怖かったというのもある。
「あん時は厨二病やったから」なんて自分自身に言い聞かせて、少しムスッとした顔で頬丈をつく。

「せや。気付いてへんかったから今言うけどな、俺はずっと日南の事好きやったんやからな」
「うそ……」
「ホンマや。こないな嘘吐くほど、もうガキやないわ。多分引かれるん承知でこれも告白するけどな、今でも日南の事好きやで。隙があれば白石さんからかっ攫いたいくらいに」
「光……」

「ごめんなさい」と日南は頭を下げて謝る。
別に色々と吹っ切れているから気にしてはいないけど、漸く自分の口で想いを伝えられてもっとスッキリした。

「酷い事言ってるかもだけど、私は光とは今まで通り友達でいたい」
「解っとる。ちゅーか白石さんと同棲しとるのに良い返事貰えたら逆に嫌やっちゅーねん。浮気か」

「俺も日南と同じで友達ちゅーか親友のままでおりたい」なんて言うと静かに微笑んだ。

「全力で幸せになりや。白石さんといっぱい同じ時間共有して、愛し合って。幸せ過ぎて死にそういうくらいにならんと許さへんで」
「あ、ありがとう。でもね、もう私いっぱいいっぱい幸せで毎日楽しいよ。四天宝寺に入学して、みんなと出会ってからずっと幸せ。辛い事もあったけど……それでも、みんなと会えたから乗り越えて来れたんだと思ってる」
「さよか。それなら俺も安心やわ」


===============


財前との話を終えた帰り、買い物ついでに町中を歩いていたらクラクションを鳴らされて、反射的に振り向く。
見慣れたシルバーの軽自動車が近くに止まったかと思うと、助手席の窓がゆっくり開かれた。
今日は早めに帰って来てくれたんだ。そう思うとなんだか嬉しい。
窓が開ききった車内で白石がいつもの優しい笑みで日南に声を掛ける。

「日南、こんな時間にどないしたん?今日バイトやなかったやろ」
「うん、今日はバイト休みだよ。光とちょっと話してたんだ」
「財前と?あ、日南車乗りや。一緒に帰ろ」
「うん」

ロックが外されたドアを開いて助手席に座ると白石の左手が日南の右手をギュッと握った。

「蔵ノ介さん?」
「何もされてない?」
「光に?何もされてないよ。強いていえば、昔から好きだったって告白された。蔵ノ介さんが大好きだから、光とはずっと友達のままでいたいからごめんなさいって返したけど」
「……そっか。なんや安心した」
「何で?」
「最近日南の事不安にさせてるんやないかって心配してたから」
「まぁ、不安だから光に愚痴を聞いて貰ってたんだけどね」

意地悪くそう返せば白石はしょんぼりしながら「ごめん」と謝る。
先日「蔵ノ介さんが私にも言うの悩んでいる事ならよっぽどの事なんだな、って解かるし。蔵ノ介さんなら浮気とかそういう心配もないだろうし。もし、今悩んでる事に関して私に言おうって決心付いた時に相談してくれたら嬉しいな」なんて言った手前、白石が何をしているか詮索はしないけど、早く相談してくれたらいいななんて。
ぎゅっと白石の左手を握り返して優しく笑みを浮かべる。

「そろそろ車出さないと駐禁取られちゃうよ。この辺はいつもこの位の時間に巡回来るから」
「おん。……なぁ日南」
「うん?」
「いつも心配掛けてごめんな。せやけどもう少し待って。もう少ししたら日南に全部話せるから」
「待ってる」

そう返すと「おおきに」と、優しい言葉と額にキスが降ってきた。


2016/06/12