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大親友



職場での昼休憩は病院内のラウンジで摂るのがデフォルトになっていた。
白石は日南が毎朝作ってくれる弁当(今日はサンドイッチとフルーツの詰め合わせと唐揚げ)を、親友であり同じ勤め先で働く忍足 謙也と食べていた。
謙也は近くのコンビニで買ってきた弁当だけど研修医がそんなにコンビニ弁当ばかりでいいのかと心配になる。
そんなことを心していたら謙也の視線が自分の手元に集中している事に気が付く。

「ええなぁ、日南ちゃんの手作り」
「やらんで」
「いけず。はぁ……白石になりたい。めっちゃ羨ましい」
「堪忍な、俺が謙也になったら日南が拗ねてまうわ」
「拗ねへんわ!俺と日南ちゃんの仲を何やと思ってんねん!」
「はいはい、幼馴染みやろ?」

謙也のツッコミを軽くいなしてカツサンドに口付ける。
パンに挟まれているカツは余りソースに浸されてないけど、その分しっかりと下味を付けているから文句無しで美味しい。
頬を綻ばせながら咀嚼していると謙也が「爆発してしまえ」なんて不穏な事を言っているけど。一氏と言い何でそんなに爆発して欲しいのかよくわからない。

「ちゅーか、昔はよく食べとったんやろ?日南の手作り」
「それは……、そうけど。今も昔も関係ないわ、日南ちゃんの手作りめっちゃ美味いし」
「謙也はそないな事するヤツやないって知っとるけど、もし非番の時家に来て日南に手ぇ出したりしたら流石にキレんで?」
「幾らまだ日南ちゃんの事好きや言うてもそないな事するかい、阿呆」

謙也は日南が白石と付き合っている事を知っていても尚、日南の事を諦めきれずにいるらしい。
小学生の時に初めて日南と出会って、一目惚れして、それからずっと日南の事を思い続けてきた一途さには白石も感服したし、見習いたいと思っている。
謙也が日南の事が好きだと知った時は親友と言う仲が拗れるのではないかと危惧した位だ。
互いに同じ人を好きでも仲が拗れる事はなく、今まで通りの親友と言う仲でいれたけど。
それは社会人になった現在も変わっていない。寧ろ、より密接になっている気すらする。
休みさえ合えば白石と謙也と日南、そして財前と4人で会ってテニスをする位の仲だ。
尤も、日南の事を今も想っているのは謙也だけではなく財前もそうみたいだけど。
時々財前に毒吐かれるついでに言われる。「日南を泣かしたりしたら遠慮なく掻っ攫わせて貰うんで覚悟しといてください」と。
日南を泣かせるつもりは無いし、奪われるつもりも一切ないし、逆に謙也にもその位の気概があったらな、なんて思ってしまう。

「俺は日南ちゃんが幸せならそれで充分やっちゅー話や!」
「そか。日南にもそう伝えとく」
「まっ……!それは恥ずかしいから止めや!」

慌てて止めに入ってくる謙也に白石はクスクスと綺麗な笑みを浮かべて「冗談や」と言う。
偶然その場に居合わせた看護婦や女医が色めき立つけど謙也は声を大にして主張したかった。
「こいつは昔口癖が絶頂で、カブトムシをツレと言って滅茶苦茶可愛がっていた残念なイケメンですよー。彼女が居てはりますよー」と。
まぁ、付き合っている特定の女性が居ようが居まいが彼女達にはそれほど重要な事でも無いみたいだけども。
誰かが言っていたかは忘れたけどイケメンはその場にいるだけで目の保養になると聞いた事がある。
白石の場合は優しいし、よく気が付くから「彼氏にしたい」と言う声もよく聞くけど、大抵同棲中の彼女がいると言うと「あぁ、やっぱり?」と返される。

「せやけど、謙也の食生活も気になるし……どや?今度家に来て夕飯食べてかへん?日南も謙也の事心配しとるし、元気な顔見せて安心させたりや」
「いや、ええわ。自分らの幸せぶち壊すような事、したないし」
「謙也が倒れたりしたら、逆に俺も日南もお通夜気分になるで?」

意地悪な顔をしてそう言うと謙也はうっと息を詰まらせた。
白石は割とああ言えばこう言う派の人間だから口で上手くかわそうとしても、上手く丸め込まれてしまうのは昔からわかっている事なのに。
謙也は肩をガックリと下ろすと「今度ご馳走になります」と、そう言った。
「素直でよろしい」なんて笑う白石が恨めしい。

すると「あ、白石君」と白石の同僚である女性が紙袋を抱えてこちらにやってきた。
昼休憩まで仕事の話なんて調剤薬局の方も大変なんやな、なんて眺めている。
でも仕事の話ではないらしい。

「ん?」
「これ、デスクに置きっぱなしやったで」
「持ってきてくれたんか。堪忍な」
「彼女さんとお幸せになー」

紙袋を白石に手渡してそうだけ言うと女性はそそくさと何処かに行ってしまう。
お幸せに、とはどういう意味なんだろう。謙也は意味をわかりかねて首を傾げる。
もしかしたらサプライズでプレゼントでもする予定だったのか。でもそれでお幸せに、と言う言葉が出てくるのも珍しい。
途端、謙也の中である単語が出てきたけど慎重派な白石がこんな早くにそんな事を考えるとも思えない。

「なぁ白石、それ何や?」
「ん?ブライダル情報誌」
「! 結婚するんか?」
「まだ日南にはプロポーズしてへんけどな」

「思い切り驚かせてあげたいねん」なんて白石は幸せそうな顔でそう口にした。
袋から雑誌を取り出して、付箋を貼り付けたページを開くとウェディングドレスの写真が沢山載せられていて。
その中でも露出が少なく、レースやフリンジを沢山使ったウェディングドレスを指差した。

「このドレスなんか日南にめっちゃ似合うんやないかってずっと考えてるんや」
「……」

白石が選んだドレスは確かに日南に似合いそうで。それに白石の趣味に合致していて。
ずっと日南の事が好きだったし、白石の事も応援していたとはいえ、2人が遠い場所に行ってしまったような感じがしてさみしい。
白石と日南が付き合い始めた時からこうなる事は何となくわかっていたはずだ。

「謙也?」
「!!」
「どないしたん?そない神妙な顔して。……堪忍な、こないな話聞きたなかったかな」

悲しそうにそう言う白石に謙也は「別に構わへん」と作り笑いを浮かべる。
本当は辛いけど大好きな親友が幸せになれるという時にそんな景気の悪い顔をしたくないし、雰囲気をぶち壊したいとも思わない。
ただ自分は日南に、お隣の優しいお兄さんとしか思われない接し方しか出来なかっただけ。

「白石、さっき俺日南ちゃんが幸せならそれで充分って言ったやろ?」
「え?ああ、覚えとる。嬉しかった、謙也が今でも日南の事大切に想ってくれてて」
「おおきに。せやけどな、俺は白石にも幸せになって貰いたいねん」
「!」
「白石は俺の大切な親友や。親友の幸せ願えへんなんて、そんなん親友とちゃうやろ?」

にかっと笑みを浮かべた謙也に白石は薄く口元を綻ばせる。
何と言うか、余りにも謙也らしい言葉で安心した。
それに謙也は昔と変わっていないことが嬉しくて。勿論良い意味で変化がない、と言う事だけど。

「謙也が親友でいてくれて、ホンマ嬉しいわ」
「俺も白石が親友で嬉しいで。自分とおると楽しい。なぁ」
「ん?」
「式の時、スピーチ俺に任せてくれんか?」
「! 勿論、謙也にお願いするわ」
「最高の式にしたるで!」


2016/06/12