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許せない
「はらーたーつー」
「落ち着け」
「そうは言ったって腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ腹立つ!」
「うるさいぞ、京」

放課後。京は柳と喫茶店に来ていた。
あの傍若無人な新1年生・切原 赤也の件で相当イラついている事に気付いたから喫茶店に寄らないか、と誘ってみたのだ。
最初は渋っていたけど「苺パフェと紅茶くらいなら奢ってやろう」と言ったら不貞腐れながらも小さく首を縦に振り、今に至る。
早速運ばれてきた苺パフェにスプーンを刺す京にはにかみながらも、柳はジャッカルから渡された新入生名簿を確認していた。
ジュニア大会で名を聞いた事が無い選手ばかりだ。矢張りジャッカルが言っていた通りミーハー気分で入部した者が多い、と言う事だろう。
ただ、約一名を除いて。その一名の名は名簿には記載されていないけど。

「京。お前の気分を害する様で申し訳ないが、ジュニアの時に切原 赤也の名を聞いた事は無かったか?」
「切原 赤也ってあの生意気な毛玉1年生の事でしょ?私が知る訳……」

怒り任せに其処まで言葉を紡いだが、何かを思い出したのか言葉が止まる。そして少し何かを考え始めた。

「どうかしたのか?」
「ちょっと待って……切原、切原、切原」

切原の苗字をずっと呪いの様に繰り返していると「あっ」と何かを思い出したのか声を上げる。

「思い出した。同じスクールに通ってたし、小学校でもあいつ見た事ある」
「矢張りな」
「道理でどこかで見た事あると思った……。でも、その程度のデータなら私に聞かなくっても。というか、そのデータって必要な事なの?」
「いや、お前が切原の事を覚えていれば昔のデータを得る事が出来ると思ってな」
「なるほどね」

苺パフェの生クリームをスプーンで掬い、ひょいっと口の中に運ぶ。
やっぱりイライラした時は甘いものに限るなぁ、なんて思いながらもしっかりと小学生の時の事を思い出す。
そういえば、小学生の時に京を男だと思って試合吹っかけてきた奴がいたっけ。確かそいつの髪型も癖っ毛でもじゃもじゃしていたなぁ、なんてどうでもいい事を思い出していた。
怒りの余りでその時は名前は聞いてなかったけどもしかしたらそれが切原だったかも。眉間に皺を寄せながら二口目の苺パフェを掬う。

「もしかしたら、の範囲での話しになるけどいい?」
「ああ、構わない」
「記憶違いじゃなければ色んな意味でジュニアでは有名な選手だよ」
「ほう?」
「実力は確か。でも、今日の試合もそうだったけど相手を怪我させるようなラフプレーが多い。好評もあれば悪評も強い選手だったよ」
「……」

柳は心を落ち着かせ、緑茶を啜りながらも京の言葉に耳を傾ける。

「まぁ、一度試合した事があったんだけど私の圧勝だったけどね。確かその時も癇癪起こしてたっけなぁ。負け確定になった途端顔面とか膝とか解かり易く狙ってきたし」
「自尊心が強い選手、と言う事か」
「どんなに強くったってあの性格じゃ煙だがれるだけだと思うけどね。はっきり言うと弦一郎が勝ってざまぁみろとは思ったけど。でも……」

普段から他人の悪口を嫌う京がここまでいうと言うのは相当頭にきているという事の様だ。
柳は心の中で「嫌な事を思い出させてすまない」と再度謝罪しながらも耳を傾ける。
その言葉を口にしたらもう、話すらしてくれないかもしれない。そう思ったから。

「だが?だが、どうした」
「弦一郎に負けた後の行動、滅茶苦茶ムカついた」

あの後、3年生の先輩達を任した後の切原は3強と対峙し大口を叩いて真田の怒りに触れた。
そして真田と試合をして、圧倒的な実力を前に脆くもその場に崩れ去った。
呆然としてその場に膝をついたままの切原に丸井とジャッカルが心配して駆け寄ったのだけど「うるせぇ!」と、丸井の顔面目掛けてラケットを振り払ったのだ。
幸い丸井はギリギリの所で避けたから怪我をしなかったけど、かなりの勢いで振られていたからもし当っていたら鼻の骨を折っていたかもしれない。
丸井が「当ってないし、気にしてねぇよ」と笑って言うから京はそれ以上何も言わなかったけど。
大好きなテニスで人を傷付けようとする、その行為に腹が立つ。
京は険しい顔をしてグッと奥歯を食いしばった。


===============


翌日の学校でも京は僅かに苛立ちを浮かべながら授業を受けていた。
普段は綺麗な姿勢で授業を受けているのに今日に限っては貧乏揺すりに大きく重い溜息。先生も何事かと心配していた始末だ。
その様子をずっと見ていた丸井と仁王は休憩時間に入った途端に声を潜めて語り合う。

「なんじゃ、京のヤツまだあの新入生にムカついちょるんか」
「だろうな。昨日柳があいつのデータ収集がてら機嫌とってやってたみたいだけど」
「ほーん。あの参謀がのう……」

「幸村が何か言ってやった方が効果あったんじゃなか?」と言うと丸井は眉間に皺を寄せ、僅かに顔を俯かせる。
そんな小さな仕草にも仁王は直ぐに気が付いた。

「ん、どうしたんじゃ」
「いや、京って男勝りだけど優しいトコあんだろ。昨日のあの試合の後、切原に駆け寄った時にさラケットで振り払われそうになったんだよ」
「ああ、あれか。京のヤツ、血相変えて駆け寄っちょったな」
「それに対してかなり怒ってるみたいなんだよ。多分、幸村君が諌めてもおさまらねぇよ。……あいつの口から謝罪させない限りはな」

その一言に「なるほどなぁ」と頬杖をつく。
確かに仁王が知る京は元気が良くて多少がさつな面もあるけど、基本的には優しくて気立てが良い。
途端、京は勢い良く立ち上がり教室を出て行く。その様を丸井と仁王は少し心配そうに見送った。


ずんずんと肩をいからせて京が向かった先は屋上庭園で。立海の屋上庭園には色取り取りな花が沢山植えられている。
イライラした時は自然に接すると良いよ、と立海に入学した当初幸村に言われたけど、どうやらその言葉は本当らしい。
花を見ていると少しイライラが和らいだ様な気がする。
ふと、目に付いた花に京は表情を綻ばせて、その花の前にしゃがんで花を見つめる。
真っ赤な少し大きめな花。
名前は知らないしどんな花かも知らないけれど、何故かその花に惹かれてしまった。

「京はゼラニウムがお気に入りなんだね」
「!! 精市」
「やぁ。そのゼラニウム、綺麗に咲いてるだろ?」
「うん。この花、ゼラニウムっていうんだね。可愛い」

頬を火照らせてそう言いながらゼラニウムを見つめる。
そんな京を見ていた幸村は京の隣まで来ると、その場にしゃがんで優しい手付きでゼラニウムの花に触れる。
スポーツをしているとは思えないくらいに色白な幸村の肌に、ゼラニウムの赤が少し毒々しいと京は思った。
でも、それでも綺麗という感想は拭えない。

「精市はどうして屋上に?」
「花達の手入れに。後は京の姿を見かけたから、かな」
「……」
「昨日の事、まだ支えているのかい?」
「……実は」

ずんずん踏み込んでくる幸村の言葉に京は俯きながらも答えていく。
幸村も少し悲しそうな顔をしながら京を見つめるも、すぐにまたゼラニウムに視線を移した。

「確かに、あの坊やは少しやりすぎだね」
「……ブン太は気にしなくていいって言ってたけど、私はやっぱり許せない。テニスで人を傷付けるだなんて」
「そうだね。俺もそう思うよ」
「あの子、本当にテニス部に入部させるつもりなの?」
「本人が望むなら、そうするつもりだと思うよ」

そう言いながら幸村はぷつりとゼラニウムの花を手折り、京の髪に指す。
真ん丸に花をつけたゼラニウムの花は簪の花ぼんぼりの様になっていて。
幸村は笑みをこぼしながら「似合ってる」とそう言った。

「あの子の気持ち、俺もわからないでないし、弦一郎もわからないでなかったからなぁ」
「……そりゃ私だってテニスで一番になりたいからわからないでもないけど、だからこそ許せないの」
「大好きなテニスで人を傷付ける事が?」
「そう!次きたら私がけちょんけちょんにしてやろうかな、あの子!」
「あはは、気が強いなぁ京は。でも頼もしいや」

「こんなに花が似合う可愛い女の子なのに」。
そう言った幸村の笑みは何よりも儚くて綺麗だと京は思った。
その反面何でいきなりこんな言動をしたのだろうと考えているけど。

「京」
「何?」
「京は怒ってるより笑ってる方が可愛いから、笑ってて欲しいな」
「!? い、いきなり何?」
「ずっと不機嫌な京を見ててそう思った」

幸村はチラっと庭園の出入口の方に視線をやるとふっと笑う。
その行為がどういう意味を表すかわからないから、言葉の意味と合わせて京は困惑しているけど。
そんな京を他所にきっと彼はあの場所でバツが悪そうな顔をしているんだろうな、と思うと申し訳なく思うけど、京の事を彼に譲る気はさらさら無い。
幸村は不敵に口元を綻ばせながら、その場を立つ。

「もし良かったら一緒に花に水やりしないかい?花と接していたら気が紛れるかもしれないよ?」
「……、やる!」
「ふふ、ありがとう。花達も喜んでくれると思うよ」

そんな他愛のない会話をしながら幸村は思う。
少し笑顔が戻った京に、愛しいという気持ちと少しでも元気になってくれて良かったと。


2016/04/18


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