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- ナノ -

新入部員?
「うっはぁ、男子テニス部凄いねぇ」

校舎の2階から京は部室棟であるを見て京は感嘆の息を零した。
ざっと見たところ100人近くの男子テニス部に入部希望の生徒達に京は頬杖をついた。

「でも、あれ地区大会までには何人残ってんだろ……」
「こら、花祭!何を余所見をしているか!」

怒号が飛んでくると共にぽこん、とノートで頭を叩かれる。あんまり痛くはないけどとりあえず反射的に頭をさすると呆れ顔を浮かべた柳と、苛立ちを見せている真田が仁王立ちでこちらを見ている。
恐らくノートで頭を叩いたのは柳だろうと言う事はすぐに察する事が出来た。
真田が怒るのも仕方が無い。昨日胸の内に秘めた悪戯を、膝かっくんを決行したら見事に真田は膝を鎮めてくれたのだけど、その拍子に変な声を上げた。他の、いろんな生徒が居る前で。
真田も人間だ。その場で顔を段々と高潮させて、そして「花祭!!!」と大声を上げて逃げる京を追い掛けてきた。
逃げる際に廊下を走ってしまった事も不味かった。真田は風紀委員だ。目の前で風紀を乱すような行為をしたら更に真田の怒りに触れる訳で。
校舎の外に出て全速力で真田と鬼ごっこを繰り広げていたら通りかかった柳に足を引っ掛けられて見事なまでにスッ転んだ。
幸い、微量の鼻血と膝を擦りむいただけで済んだけど。

「弦一郎、弦一郎。今は私達しか居ないけど、此処、保健室ね。いいのかなぁ、風紀を守る風紀委員さんが保健室で大声なんか出しちゃって」
「む……、だが元はと言えばお前が。……はぁ、もう良い。今のお前に何を言っても右から左で話しにならん」

真田の目の前にいる京は真田の話にはちゃんと耳を傾けてはいるのだけど新入部員の方に目を向けている。
京の集中力の高さを真田も柳も知っている。それに、その集中力の高さにも関心の目を向けていた。
集中力を高めた京は試合の時は厄介な存在になる事も。
そして、普段でもその集中力を高めている時は何を言ってもまともに相手をされないと言う事も。
もう一度真田は深く溜息を吐くと「蓮二」と今度は柳に顔を向けた。

「お前も少し止め方を考えろ。花祭は女子なんだぞ、嫁入り前の娘に怪我をさせるなど日本男子にはあってはならぬ事だぞ」
「京であれば受身を取れると思っていたが……。それにあのまま逃げる京を追うのも骨が折れる。あの状態の京は言葉を掛けても止まらないのは経験上、解っていた事だ。さすればああして止めるしか手立てが浮かばなかった」

そう言った柳は「京」と一度京の名を呼び、注意を向ける。
集中力が高まっていてもちゃんと話は聞いている。そうは見えないだけで。
京は「何?」と言いながら体を窓から柳と真田に向けた。
膝に貼られた絆創膏には既に赤茶色の血が滲んでいた。
京が受身を取れないだなんて思っても居なかったけど、その時の事を考えてもう少し優しい止め方をすれば良かったと後悔が湧く。
女子とは言え、京も立海大付属中のテニス部員なのだから。

「京、済まない。お前に怪我をさせてしまった」
「ああ、良いよ良いよ気にしないで。校則破った私も悪いんだし、軽い怪我だからすぐに治るし」
「……」

けらけらと笑いながら京は椅子から立ち上がる。
怪我をしている右膝を微妙に庇ってるのは気の所為じゃない。柳は眉間に皺を寄せてその姿を見詰めた。

「そうだ!ねぇ、弦一郎、蓮二」
「どうした」
「今日女テニ休みだからさ、男テニに参加しても良い?練習じゃなくってマネージャーみたいな感じでさ」
「部長に許可を貰え」

そう言うと京は「ええー、部長さんは"ウチのビッグ3が頷いたらな"って言ってたしー」と唇を尖らせる。
全く、毛利といい部長といい、他の先輩達は尊敬出来る人間ではあるけど少し京に甘い気がすると、真田は頭を抱えた。
まぁ、それは京が女子でありながら自分達男子テニス部ビッグ3に次ぐ実力を持っている選手だと知っているからなのだろうけど。

「れんじー」
「俺は構わない。だが、手伝いは不要だな」
「うむ。見学位に留めておけ」
「見学か」
「見学だ」

「ぶー」と子供の様に唇を尖らせて椅子に座り直すと足をぶらぶらと前後に揺らす。
本当に同じ年なのか。と真田は僅かに痛む頭を抱えた。


===============


「いやー、改めて見ると壮観だねぇ」

一応ジャージに着替えて男子テニス部専用のテニスコートに向かうと京は改めて感心していた。
去年も男子テニス部の入部説明会を見ているけど昨年の倍以上はいるんじゃないか。
きょろきょろしてたら導線案内をしていた丸井とジャッカルが京を見つけて駆け寄ってくる。

「あれ、京じゃん。今日女テニ休みじゃなかったけ?」
「うん。だから今日は見学させてもらおうと思って。部長さんと弦一郎、蓮二にはOK貰ってるよ」
「そうか。その真田と柳は?」
「顧問の先生に呼ばれてるから二人共少し遅れるって。にしても何人いんの、新入部員」
「去年の3倍くらいだな」

ジャッカルが手に持った書類を見ながら(多分柳辺りに集計を任されたのだろう)教えてくれた。
これは女子の方も新入部員かなりの数が来るかな、なんて思ったけどそれは明日にならないと解からない。
まぁ、男子も女子もミーハー気分で入ってくる部員が多いだろうから過度の期待はしないに越した事はないけど。

「で、何でお前ジャージ着てんの?」
「ああこれ?顧問の先生に会った時に見学の事言ったらもし良かったら時間があったら試合していかないかって。だから一応、ね」
「先生はお前の事も買ってるからな」
「ありがたい話だよ。女子なのに男子と同じ様に実力を見て頂けるって言うのは」

「テニス最高!」と言うと丸井とジャッカルは顔を見合わせる。
去年からの付き合いである京の努力を二人は良く知っている。彼女も幸村、真田、柳と同じで1年生でレギュラーに上り詰めた人間だから。
一度慢心でレギュラー落ちした時、血が滲むような努力をして這い上がって行った京の姿も二人は良く知っていた。

「って、そういえばあの喧しい毛玉君は?見た感じ列に並んでないみたいだけど」
「毛玉君?」
「ああ、さっき言ってた"俺がナンバー1になる!"って言ってた新入生。でも何で毛玉君なんだ?」
「だって、あの髪型。後ろから見てるとまりもみたいじゃん?」

そう言うと丸井はぷっと吹き出す。一昨年までブラジルに住んでいたジャッカルはまりもと言われてもピンと来ていない様だけど。

「お前らよくあの1年生の事気に掛けているな」
「だって、あいつ入部してきたら面白そうじゃん?」
「私の場合はちょっと気になるって感じなんだけどね」
「気になる?」
「うん。あの子、どっかで見た記憶あるんだよね。そのどっかが思い出せないんだけど」

するとジャッカルは「そうか」とだけ言ってもう一度、受付列に並んでいる新入生に視線を向けた。
京がどこかで見た、と言う事は恐らくテニス関係か何かか。
いずれにしても厄介事を起こしてくれなければどちらでも良いや、なんて思いながら。


結局、例の毛玉君は現れる事は無く部活が始まった。
新入生達は早速渡されたウェアに袖を通して部活に参加したけどあまりの過酷さに根を上げているのが殆どだったような気がする。
陽が傾き始めてもうじき今日の練習も終わりかけた頃、最後の素振り500回をひいひい良いながら開始していた。
素振り開始前は「500回なんて余裕だよな」なんて軽口が聞こえてきたけど200回目位から動きが段々悪くなっている。
この程度なら他の学校でも行っている練習だし、数をこなせば苦でもないのだけどなんて京は乱雑に積み重ねられていたタオルをベンチに座りながら綺麗に畳んでそう思っていた。

「あれ。ねぇ、花祭ちゃん」
「はーい。なんですか?」
「丸井と桑原は?あと3強」
「3強は顧問の先生に呼ばれてましたけど……そういえば遅いなぁ。ブン太とジャッカルならさっき素振り終わらせてコート出て行きました」
「さんきゅ。ったくあいつら、先輩より先に上がるなよ」

舌打ちを打った先輩を「まぁまぁ」と窘めるけど、多分二人は上がったんじゃ無いと言う事は何となく解かる。
幾ら自由奔放な性格をしている丸井でも先輩達に何も言わずに先に練習を上がる訳はないし、ジャッカルだって礼節や礼儀を重んじる性格だからそれはない。
多分、しきりに「あいつ、来た?」と京に聞きに来ていた位だから心配してあの新入生を探しに言ったのだろう。それにしても先輩には一言何か言っていけば良いのに。
タオルを畳み終え、顔を上げてコートの外をみると目立つ赤髪がゆらゆら揺れていた。見間違える事はない、あれは今しがた居場所を聞かれた丸井だ。
ベンチから立ち上がって丸井のところに文句を言いに行こうとすると、近付くにつれ騒がしい声が鼓膜を揺らす。

「はぁ?素振り?冗談っしょ?早速一番強いヤツとお手合わせ願えませんかねぇ」
「は?」
「ちゃっちゃとナンバー1になっちまいたいんで」

その一言に京のこめかみは反射的にピクリと動いた。
今この1年生なんて言った?基礎練習をほったらかしてナンバー1になる?ふざけんなよとふつふつと怒りが腹の底から湧いてくる。
先輩達や丸井達2年生、それに今まで一生懸命練習についてきた他の新入生の事を馬鹿にしている様な発言に掴みかかりたくなった。
そんな事をすれば男女共に暴力沙汰で今年度の大会に出られなくなってしまうから、深呼吸をして何とか気持ちを落ち着けに努めるけど。
しかし。

「何だお前は」

今までコート内で新入生に指導していた3年生が外に出てくる。
途端に毛玉君は目の色を変え「あー!!知ってる!!」と良いながら肩に掛けていたテニスバッグを下ろし、中身を漁る。そして一冊の冊子を引っ張り出した。

「これっしょ?この人達っしょ?ほら!」

先輩達の後ろについていき、押し付けられた冊子の記事を覗き込む。
どうやら昨年の全国大会優勝の時の月刊プロテニスのようだ。
「いやぁ、光栄だなぁ。俺、ずっと憧れてたんすよ!」なんて言う新入生に先輩達は急に照れ始めるけど、一瞬表情が悪い顔になったのを京は見逃さなかった。
それに先輩に対してこの態度。真田がいたら即座に怒鳴りつけられていだろうな。代わりに怒鳴りつけてやりたいけど。なんて思っていたら、新入生は明るく人懐っこい笑みを浮かべる。

「俺、憧れの先輩達と試合したいっス!だめ、っすか?」

その一言に先輩達は顔を見合わせて「どうする?」「記念に1試合くらいなら、まぁ……」なんて相談をしている。
しかし、一年生の腹が大方読めた京は部外者ながらも先輩の内の一人のジャージを少しだけ引っ張った。

「だ、駄目ですよ先輩!勝手に試合なんてしたら先生や弦一郎に何て言われるか」
「でも俺達に憧れてテニス部に入部しようとしてくれている新入生を無碍にする事も出来ないし、なぁ」
「だよな」
「先輩!」

なるべく腹の中に留めているイライラを表に出さない様に先輩達を諌めに入るけど新入生はそれが面白くなかったらしい。

「何なんだよあんた。先輩達が良いって言うならそれで良いじゃんかよ」
「……さっきから黙って聞いてればお口の聞き方がなってないね。女テニだけど、私もあんたの先輩。解かる?その口の聞き方どうにかしてから出直してきなよ」
「はぁ?関係ない女テニがでしゃばんないでくださいよぉ。女なんてよわっちいのにさぁ」
「あ?」

新入生・切原 赤也の言葉に京の言葉使いが大きく崩れた。
全身の毛が逆立ちそうになり、怒りで体中が熱くなっていく。きつく握り締められた拳は今にも切原の顔面に飛んでいきそうだ。
いきなり雰囲気がガラリと変わった京に切原は少し身じろぐ。
まずい。そう思った丸井とジャッカルは大慌てで今にも切原に掴みかかりそうな京を抑えた。
そうこうしている内に切原は3年生達と一緒にコートの中に入っていく。

「落ち着け、京!」
「……ごめん。女だからって馬鹿にされて頭に血が上った」

ジャッカルの言葉ではっとした京は首をうな垂れさせてしょぼくれる。
しかしジャッカルも丸井もそんな京に明るく笑みを向ける。

「お前が怒るのも無理ないだろうからな。でも、威勢良くて良いんじゃねぇの?」
「そうか?」
「とりあえず、降りて試合見てようぜ。あいつの実力を見るのも兼ねてさ」

丸井の言葉に京とジャッカルはコートに降りていった。


2016/03/25


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