×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

新学期
4月。桜舞い散る新学期。
京は大きな欠伸を口で抑えながらも自身が通う立海大付属中へ向かう。いつもの大きなテニスバッグを背負って。
進級したばかり、と言えど2年生になっても練習は毎日ある。故に今日も変わらず練習があるのだ。
立海は男子、女子共にテニス部は強豪として名が知れている。昨年は男女共に全国大会を制している。
しかし幾ら強豪校とは言え、慢心してしまえばすぐに他の学校に叩き折られる。
その前に、他校云々よりもまず部内での競争が激しい。気を抜いていたらすぐにレギュラー落ちしてしまうという可能性だってある。だからこそこんな所で気は抜けないのだけど。
それに時同じくして入学を果たした男子テニス部の親友と約束しているのだ。
男女共に今年も全国制覇を果たす、と。

そんな時、一人の少年が元気に京の横を駆けて行く。
少年の肩にも、その背をすっぽりと覆い隠す位に大きなテニスバッグが掛けられていた。

「あの子、確か……」

特徴有る癖っ毛の少年を京は何処かで見た事があった。
何処で見たのかまでは覚えてはいないけど。
思い出そうと呻っていると右肩をとんとんと叩かれ、左側から振向く。
振り返った視界には中学生にしては目立ち過ぎる赤い髪の毛の少年が不服そうな表情を浮かべていた。
京が危惧した通り、右肩には一指し指が京の頬を突くように置かれていた。悲しくも未遂に終わったのだけど。
でもすぐに赤毛の少年の表情は明るいものに変わっていく。

「よっ、京!」
「ん?おぉ、おっはよー、ブン太。ジャッカル」

声を掛けてきたのは1年の頃に仲良くなった男子テニス部の部員。
天才的妙技を扱うボレーの天才・丸井 ブン太。
そしてもう一人、ブラジルからの編入生である鉄壁の守護神・ジャッカル 桑原。
近年の立海大付属中テニス部では男子女子混合で練習試合を行う事もある、と言う事もあり二人とはクラスが違ったがテニス部と言う繋がりの元、仲良くなった親友だ。
初の男女混合試合では丸井とジャッカルとダブルスで勝負をしてタイブレークまでもつれ込んだ。結果は女テニ、つまりは京達の負けだったのだけど。
いつかまた試合をして雪辱を果たしたい。女子だからと言って男子に引けをとらない事を思い知らせてやりたいと京の胸の中では再戦の火が勝手に燃え上がっていた。

「今日はクラスが発表されるな」
「だねぇ。ブン太とジャッカルと同じクラスだと良いなァ」

暢気に声を間延びさせながらも脳裏では1年の頃から仲が良い、儚げな空気を纏う少年を思い浮かべると仄かに頬が上気する。
今年は同じクラスだと良いな。僅かながらに期待に鼓動を高鳴らせる。
すると隣に並んだ丸井がニヤリ顔で京の顔を覗き込んでいた。

「へぇ〜?京、そんなに俺と同じクラスになりたいのかよ?」
「違うってーの。女子にモテるからって調子に乗んな」

こつん、と手の甲で丸井の額を叩く。
ジャッカルは丸井に「だからからかうなって」と言いた気な顔をして静かに溜息を吐いた。
すると目と鼻の先に有る校門の前が少しざわめいているのに京、丸井、ジャッカルが気がついた。

「何だ何だ?あの人だかり」
「さぁ?」

3人で顔を見合わせ、とりあえず校門まで行って見ようと早足で駆ける。
すると先程、横を通り過ぎていった少年が校門の上に登って高らかに宣告してた。
「俺はナンバー1になる!」と。


===============


「にしてもさっきの奴面白かったなぁ」
「確かに面白いけどさ、テニス部に入んでしょ、あの毛玉君。どうすんの、ああいう手合いが入部すると苦労するよ。氷帝に居る幼馴染が跡部が入学してきた時は大変だったって愚痴零してたし」
「跡部は格が違うだろぃ……」
「でも、結構俺様気質じゃなかった?毛玉君」

クラス分けの表を見てクラスを確認し、教室に入るとすぐに先程の少年の話に花が咲いた。
丸井と、もう一人男子テニス部に籍を置き"詐欺師"の異名を持つ仁王 雅治の3人で近くの机を寄り添わさせて。
仁王は特徴有る銀髪(本人曰く地毛らしいけど京は怪しいと思っている)をガシガシと掻きながら大きな欠伸をして京と丸井の話に耳を傾けていた。

「でも、ま……からかい甲斐はありそうぜよ」
「まーた雅治はそればっかり……」

まあそれがこの男、仁王 雅治なのだけど。
どれだけ上手く相手をペテンにかけられるか。彼はそれを生甲斐にしている節がある。
京も丸井も最初は仁王のペテンによく引っ掛かっていたものだ。丸井は未だにお菓子関係のペテンには引っ掛かるけど。

「ま。女テニの私には関係のない事だけどね」
「あれ京。お前、女子だったけ?」
「ねぇブン太、もしかしなくっても喧嘩売ってる?」

ジト目で睨みつけながらそう言うとブン太は顔を引き攣らせながら「冗談だって」と慌てて返す。
そんな光景すらも尻目に仁王は眠たそうに欠伸をして、目蓋を閉じた。
これからこの光景が日常になるのか。そう思うと少しだけ楽しいかもしれない。そう思いながら。
そんな時、教室のドアから男子にしては若干高い声が京を呼ぶ。

「京、居る?」

京はブン太とのやり取りをぴたりと止めて、ゆっくりとドアの方に振り返った。
ドアの向こうには優しげな雰囲気を纏った、青み掛かった黒髪の少年。
その姿を確認するや否や京は勢い良く席を立ち、笑みを浮かべて少年の元へ軽やかな足取りで向かう。
まるで飼い主に名前を呼ばれた犬みたいだと仁王は密かに思った。

「精市!おはよう!!」
「おはよう、京。ちょっと良いかな」
「うん、うん!何?」
「明日の新入生歓迎会の事なんだけど……」

幸村が手帳を開いて京にあすの新入生歓迎会(恐らく部活紹介)の段取りを相談している姿を、丸井は頬杖をつきながらつまらなさそうに見つめていた。
なんだか京を幸村に取られてしまったみたいで。
幸村も同じテニス部の仲間として、友人として大好きだけど何故だか京の事になると急に嫉妬心というか何と言うかもやもやとした感情が渦を巻く。
そんな丸井を薄目で見つめていた仁王がクククと喉を鳴らした。

「何だよ」
「お前さん、京の事が好きみたいじゃのぅ」
「んなっ!?馬鹿言うなよぃ!!そんなんじゃねぇっつーの!」
「ほぉ?そう必死になる所を見ると怪しいのぅ」

ぎゃあぎゃあ騒ぐ丸井と仁王に、幸村と話をしていた京は握り拳をぎゅっと強く握り締めて、肩を震わせる。

「ちょっと、ブン太!雅治!あんたら少し黙れ!うるっさい!!」
「京、落ち着いて」

怒鳴りつける京を幸村が窘めるも京は「ちょっと待ってて」と言って教室の中に戻り、丸井と仁王の頭を鷲掴んでぐりぐりと体重を掛けていく。
「痛い」だの「止めんしゃい!」だのと言った声が聞こえてくるも、幸村はただただ困った様にはにかむしか出来なかった。
でも、そんな光景が段々羨ましくなっていく。
そして思う。「俺も、京と同じクラスが良かったな」と。
裏表が無くて、男勝りで、男女先輩後輩問わず誰とでも仲良くなれる京が幸村にとって羨ましかったと同時に好ましい存在だと思った。
テニス部であると言う事しか接点がなかったけども、今彼女がじゃれている丸井や仁王、ジャッカルのお蔭で仲良くなる事は出来たのだけど。
でも、京が他の男子と仲良くしているのを見ると何故だかムッとする。

一先ず、丸井と仁王を黙らせる事が出来たのか京は「ごめんねー」と謝りながら幸村の元に戻ってきた。

「ごめん、精市!放課後、精市さえ良かったらラウンジでゆっくり相談しよう?飲み物くらいは奢るから」
「いいよ、そんなに気にしないで。じゃあ、放課後迎えに来るから待ってて」
「ん。じゃあ後でね」

京はがっくりと肩を落とし、席に戻るとそのまま額をゴツンと天板にぶつけて「やってしまった……」と小声で零した。

「……精市あれ、絶対引いてた。がさつで粗暴で男らしい女だって思われた」
「でも、放課後デート誘えたじゃん」
「果たしてデートと言えるかどうかは定かではないがのぅ」
「うるっさい。あんた達の所為なんだからね。あんた達が騒がなかったらもっと精市と話出来たのに。今日だって部活あるんだからサラッとしか話せないじゃんか」

唇を尖らせながらぶすくれる京に仁王は溜息を吐いた。

「お前さん、幸村とメアドや電話番号交換しとらんのか」

「していないと言うのならいっちょ此処は恋のキューピットにでもなってやるかのぅ」と、下世話な思考が働くけども目の前に居る丸井が「余計な事すんな」と言う目で見てくる。
視線を逸らしてみてから、眼球を動かさずにもう一度丸井を見ると言葉に形容し難い顔をしていた。笑ってしまいそうだからすぐに視線を逸らすけども。

「してるよ?でもさ、精市に電話するのもメールするのも何だか恥ずかしくって、中々出来ないんだよね」
「男よりも男らしいお前さんがいきなり乙女になると気持ち悪いきー」
「よーし、雅治。お前、そんなに沈みたいか」
「ちょ、待ちんしゃい京!」

背後から抱きつかれわしわしとこちょばされている仁王を見て「こいつの事好きだなんて、ありえないよなぁ」と、丸井は風船ガムを膨らませて思った。


2016/02/28


prev next