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本音、伝えます
家に着くとすぐに荷物を降ろしてベッドの上に寝転ぶ。
そして木目の天井を見上げると財前は苛付いた様な声を上げた。

「あー、苛々する」

苛々して日南に当ってしまったが、冷静になって思い返してみると随分と恥ずかしい事を口走ってしまったような気がする。
『仲良くするのに相手の情報知らん、教えんで仲良くなれる訳ないやろ。阿呆』。
自分だって日南に自分がどういう人間かと言う事を全く話ていないのに、言葉のブーメランにも程がある。

「明日、謝らな……」

本当は今すぐにでも謝りたいのだけど、生憎日南とはまだ電話番号もメールアドレスも交換していない。
他の部員とはほぼ強制的に交換させられたのに、切欠が中々見つからなくて交換に踏み出せずにいた。切欠なんてなくてもただ一言「連絡先交換しよ」と言えば良いだけなのに。
携帯電話を枕脇に放り投げるとそのまま不貞寝に入った。


===============


「ねぇ謙也君。私って謙也君の目にはどんな風に見える?」

下校中、近所の商店街でお遣いを頼まれていた謙也と自転車を押して肩を並べている時に不意に口から零れた。

「どんな風って……なしてそんな事聞くん?」
「……部活前に財前君に苛められてるか、とか誰かに弱み握られてるんじゃないか、って聞かれたから」

「アイツ何ちゅー事言うんや」。謙也はそう思ったがもしかしなくても部室での一件にも関わりがある事を瞬時に察する。詳しくは白石からの連絡待ち、にはなるのだけども。
それよりも、日南がそれほど真剣に財前の言葉に悩んでいるのなら、少しでも悩みを緩和するような言葉を言ってあげたい。
「……せやなぁ」と言葉を零し、考えてみるけどもどうしても主観的な言葉しか見つからなくて、これで良いのかと逆に悩んでしまう。
しかし、悩んでいる内容的には主観的な答えでも良いのではないか、とは思うけども。

「俺から見た日南ちゃんは小さくって、可愛くって、笑顔が似合う優しい子って感じやけど。短所挙げるとしたら生真面目なトコと自信が無いっちゅートコかな」

「でも、日南ちゃんの短所も含めて俺は好きやけどな」と日南の顔を見ながら笑みを浮かべてそう言う。日南もそれが嬉しかったのか頬を赤く染めて笑い返してくれた。
そんな日南の表情一つ一つが好きで好きで堪らない。

5年程前前に隣の豪邸に一人で越してきた日南を初めて見た時から、「この子の事を守りたい。ずっと笑わせていたい」と思って、今日まで接してきた。
さっき上げた日南の短所だって、その短所があるからこそ隣に居る事が出来れば彼女を励ます事が出来る唯一の特権を得る事が出来る。
その特権を上手く使いつつ、持ち前の明るさで日南に接していたお蔭で四天宝寺で日南の事を一番良く知っているのは謙也だけ。謙也もその事を大いに誇っているのだけども。

「やから、財前の言う事あまり真に受けん方が良いと思うで。あいつ、1年の癖に結構辛辣な言葉ばかり使うし」
「うん。今日も隣のクラスの女子、泣かせてた」
「何で?」
「告白されたんだって」
「くっ……1年の癖に生意気や」

本気で悔しがっている謙也を見て日南は思わずぷっと笑ってしまった。

「謙也君、小学生の時モテてたでしょ」
「あれは足が速かったからやな。……子供って何で足が速いとヒーローとして持て囃されるんやろうな」
「それは解らないけど。謙也君、中学入ってから告白とかされた事て……うわっ、どうしたの?」

其処まで言葉を口に出すと、今まで謙也の纏っていた明るい空気が一変してどんよりと暗くなったような気がした。
もしかしたら聞いちゃいけない事だった?そう思いながら日南はずっと「謙也君?おーい、謙也くーん」と名前を呼んでこちらに目を向けさせようとしているのだけど、謙也はぶつぶつと何かを呟きながらほの暗い思考の世界にトリップしてしまっている。
しかし、日南は思う。「謙也君は格好いいし、優しいし、明るいし、だから一緒に居たら楽しいからモテると思うんだけどなぁ」と。
本人にそれを伝えるのはなんだか気恥ずかしいから言葉にしようとは微塵も思って居なかったけども。

「そういえば謙也君、何で髪、色抜いちゃったの?」
「! なんや、いきなり。唐突やなぁ」
「う、ご……ごめん。気になって」

「聞いちゃ嫌な事だった?」と恐縮しながら聞かれたものだから慌てて首をぶんぶん横に振って「そんな事無いで!」と答える。

「ただのイメチェンやな」
「イメチェンですかー」
「イメチェンですよー。って、何でいきなり敬語やねん」
「えへへ、ちょっとやってみたかった。昔の、黒髪も好きだけど今の金髪も好きだよ。似合ってる」

少し大きめな若葉色のカーティガンの袖で口元を隠しながら笑う日南に締りの無い笑顔を浮かべてしまうのだけど。可愛いから仕方が無いと謙也は常々思う。
しかし謙也は其処である事に気がついた。
「そういえば、財前は日南ちゃんの事をよく見てるな」と。
本人にそれを言えば年上を年上とも思っていなさそうな冷たい、軽蔑した視線を向けられるから口にはしていなかったが、他の1年が日南と楽しそうに話をしていても、小春と一氏がネタを見て貰う為に鬱陶しく絡みに行っている時も常に視線は日南の方に向いていた。その表情は無表情ながらに不機嫌さを孕んでいたけども。
日南と二人きりで話をしている時はその表情が僅かながらに緩んでいる事も謙也は知っている。

「(……まさか、な)」

日南の話に聞く財前と自分が見たままの財前の行動を合わせて一つの考えに至ったけども、あの財前に限ってそれは無いと思い、謙也は思考を停止させた。

家に着くまでの残りの時間も日南と謙也は他愛の無い会話ばかりを繰り返していた。
昨日の夜のお笑い番組は見たか、ペットの面白かった行動や、共通の授業担任の話等色んな事を。
もう少しで家に着く。そんな時に謙也の携帯電話が電話の着信を知らせる。

「お、電話や」
「出ていいよ」
「堪忍な。この時間なら侑士か白石やな……?ん、財前?」
「!」

ディスプレイに写っていた名前を読み上げながら、謙也は訝しげな顔をして兎に角も電話に出る。
日南は部室での事思い出したのか肩を震わせて俯いた。

「おー、財前。どないしてん。珍しいな」
『……忍足先輩。頼みあるんですけど』
「なんや」

謙也からの視線を受けて少しだけ顔を上げて不安げな顔をしたら、口の形だけを変えて「大丈夫や」と言葉を伝える。

『風鳥のメアドと電話番号、教えてください』
「……あんなぁ、そう言うんは直接本人に聞けっちゅーねん。何なら今本人に聞くか?目の前に居るさかい」

そう言って日南に携帯を手渡すと、スピーカーから『え、ちょ……』と少し焦り気味の財前の声が聞こえる。それがなんだか面白くて謙也は始終ニヤニヤしていたが。
日南も戸惑いながらも携帯を受け取り、耳に充てる。
何を言えば解らない。あれだけ怒らせといて普通に話が出来る程、神経は図太くない。
しかし、このまま沈黙だけを垂れ流しているのも気が引ける。
意を決して言葉を、声を紡いだ。

「も、もしもし。財前君?」
『……おん』
「なんだか、私の話出たみたいなんだけど、……どうかしたの?」

矢張り部活後のあのやり取りの所為か日南は言葉をたどたどしく紡ぐ。しかし、それは電話の向こうの財前も同じだった。
まさか謙也のすぐ傍に日南が居るとは思わなかったし、謙也がいきなり電話を変わるとも思っていなかったから。
勝手に、段々気まずくなっていく。

「財前君、あの……」
『風鳥』
「ひゃい……?!」

言葉を切られ、名前を呼ばれて驚いて噛んでしまい、一人で恥ずかしくなる。
謙也は横で口を手で覆ってにやけるのを我慢していたが、その所為で更に羞恥が加速していく。
しかし電話の向こうで財前が僅かに笑っている声が聞こえ、何故か嬉しくなった。

『何緊張しとんねん、阿呆。……ごめん』
「え?」
『帰る前の事。お前にあんな偉そうな事言うて、よくよく考えたら俺も風鳥に俺の事全く教えてへんかった』
「べ、別に気にして無いよ!私も、ごめん。勝手に決め付けちゃって。あっ、あのね、財前君!」
『おん』
「……ゆっくり時間かけて、財前君の事沢山教えてくれたら、その……嬉しい」
『!!』

電話の向こうで財前は大きく目を見開いていた。
意図もせず、狙っている訳でもなく、気恥ずかしくて女の子らしい言葉に、柄にもなく心臓の鼓動が大きく跳ねて、体が熱くなっていく。
何でこいつはいつも、こういう……。そう思いながらも電話越しに話をする日南の表情がどんなものか思い浮かべてみてしまうから困った物だ。

『なぁ、風鳥。今、外におるんやろ?』
「ん?うん、もうちょっとで家に着くよ」
『さよか。……メアドと番号、教えてくれへん?ゆっくり話したい』
「! うん。後で謙也君の携帯経由で送るね。謙也君とはメアド、交換してるんでしょ」
『一応……』
「なら、大丈夫だね!あ、謙也君に電話返すね」

そのまま日南は謙也に携帯電話を返すと嬉しそうな笑みを浮かべ、顔を少し俯かせた。なんだか財前と仲良くなれたような気がして。
そんな日南を見て謙也は僅かに笑みを零して「ほな、すぐ送るわ」とだけ行って通話を終わらせ、メール画面を開く。

「日南ちゃん、財前の奴すぐメール返すって。家着いて時間に余裕あったら返信よろしゅうって言ってたで」
「解った。ありがとう、謙也君」
「俺は何もしてへんで」

「さ、帰ろか」。笑顔で言われたその言葉に引かれ日南は謙也の横に並んだ。
帰宅した後の財前とのメールを楽しみにしながら。


===============


通話が終わった後、謙也はすぐに日南の電話番号とメールアドレスを送ってきた。
それを即座にコピペしてアドレス帳機能に登録し、短い文書で日南にメールを送ると、枕に顔を押し付け「あー」と呻る。
やっぱり日南は馬鹿と形容出来る位のお人好しで、でもそんな所が結構気に入っていて。でも、意外に話を進める時はぐいぐい容赦なく進めていく事が解った。
日南が早く家に着いて返信を返してくれるのが待ち遠しくて仕方ない。
彼女は、中学で初めて出来た友達と言っても過言ではない。

「明日は、沢山話掛けてみよ」

そんな事を考えながら日南からメールが返されるまでの20分間、ずっと携帯電話を開いて待っていた。


2016/01/19